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桐野夏生氏とマーサ・ナカムラ氏が受賞挨拶(第8回早稲田大学坪内逍遙大賞授賞式開催)

田中愛治総長、桐野夏生氏、マーサ・ナカムラ氏(左より)

2021年9月28日、第8回早稲田大学坪内逍遙大賞受賞者発表記者会見を行い、大賞に桐野夏生氏、奨励賞にマーサ・ナカムラ氏が決定と発表いたしました。この度、10月20日にリーガロイヤルホテル東京において授賞式を開催しました。両氏より受賞挨拶をいただき、田中愛治総長や選考委員からはお祝いの言葉が贈られました。

授賞式

田中愛治 早稲田大学総長挨拶「坪内逍遙の事績と精神を、広く未来の文化の新たな創出につなげたい」

本日は、新型コロナウィルス感染防止のため、出席者を制限しての「第8回早稲田大学坪内逍遙大賞」授賞式となりましたが、皆様ご多忙のところ、ご出席くださいまして、誠にありがとうございます。早稲田大学を代表いたしまして御礼申し上げますとともに、受賞者の皆様には心よりお祝いを申し上げます。

本賞は、2007年に早稲田大学創立125周年を記念して創設いたしました。 近代日本の文芸・文化の創造者ともいうべき存在である坪内逍遙の事績と精神を、広く未来の文化の新たな創出につなげたいとの願いが込められたのが、この「早稲田大学坪内逍遙大賞」です。

大賞受賞者の桐野夏生様は、30年近くにわたる執筆活動を通じて、数々の賞を受賞されるとともに、多くの作品が複数の国で翻訳され、語られざる日本のありようを示し、グローバルに問題提起をされています。加えて、この春からは女性初の日本ペンクラブ会長にも就任され、その要職にあってジェンダーをもとより言論や報道の自由への反動や差別に対する、国内外に向けた活動にも尽力されております。桐野様のこれまでの数々の実績や取り組みは、まさに本賞にふさわしいものであると言えます。

また、奨励賞受賞者のマーサ・ナカムラ様は本学文化構想学部に在学中、蜂飼耳氏の授業をきっかけに詩作をはじめられました。第1作目の『狸の匣』は第23回中原中也賞、第2作目の『雨をよぶ灯台』では第28回萩原朔太郎賞を史上最年少で受賞されるなど、その活躍には目を見張るものがあります。詩と散文が融合した、枠にとらわれないスタイルと独自の世界観には将来の発展の可能性がみられることから、今後のさらなるご活躍を願って顕彰を行うことといたしました 。

あらためまして、今回の選考にあたり、ご尽力をいただきました、選考委員の皆様にはこの場をお借りいたしまして厚く御礼申し上げます。最後になりますが、今後とも、早稲田大学に対しまして皆様の変わらぬご支援・ご指導を賜りたく、何卒、よろしくお願いいたします。本日は、誠におめでとうございます。

【大賞】桐野夏生氏の挨拶「私に埋もれているものを見つけながら、これからも精進したい」

坪内逍遙大賞という大変名誉な賞をいただきまして、ありがとうございます。これまでの仕事に対していただいたいうことで望外の喜びです。これまで30年近く小説を書いてきて、辛いこともありましたけれども、心から良かったなと思います。

私は20代後半にシナリオライターになろうと思いました。30歳頃から小説を書き始め、メジャーデビューが43歳でした。私は子供のときに、6人の大家族で暮らしてきたのですが、家中のあらゆる印刷物、新聞や雑誌を読んでいました。例えば、父の読んでいた文芸春秋や短歌、母の主婦の友、兄の蛍雪時代、幼稚園の本など、この時の雑学的な読書体験が良かったのかな。大家族の多様性は得難い経験だったと思います。これで30年、小説家としてやってこれたのかもしれません。

私は社会派と言われることがありますが、実際、本人はそのような気はなくて、現代に生きている人を書いていきますと、時代背景みたいなものを書かざるを得ない、人の苦しみや悩みを書いていくと、自然と社会的な問題に触れざるを得ない。差別とか表現の自由とか、狭まっていることを書かざるを得ないことになります。

今回、坪内逍遙大賞という栄えある賞をいただきました。この賞を励みに、私の中に一体何があるのだろうと見つめ、私に埋もれているものを見つけながら、これからも精進いたします。ありがとうございました。

【奨励賞】マーサ・ナカムラ氏挨拶「現代詩を書くことで「異界」を表現できることを心からうれしく思う」

この度は、奨励賞をいただき、現代詩にスポットライトを当てていただいたことに選考委員、大学関係者の皆様に心から感謝申し上げます。

記者会見では、授賞理由のコメントで「異界」「闇に降りていく力」について触れていただきました。ある種、この「異界」に降りていく力を私に与えてくれたのは、祖母だったように思います。本日は、祖母そして母と受け継いだ着物を着てまいりました。もし、あの世で祖母がこの様子を見ていたら、とても喜んでくれているだろうと思います。祖母は大変な話好きで、私をつかまえては不思議な話をしてくれました。戦争中の体験から、嘘か本当か空想なのかわからない不思議な話をしてくれました。そうしたことで、「異界」が私の中に芽生えていったのだと思います。

私は、10代の思春期、学生生活を乗り越えて、会社員として暮らしていく中で、心が疲弊したときに、ここではないどこか、「異界」を思うことで、心が暖められる瞬間があります。「異界」というのは、私にとって決して虚構ではありません。本当の自分がどこで何をしているのか・・・と思いを馳せることが「異界」の表現に繋がっていると私は思っております。
最後に、いま、現代詩を書くことで「異界」を表現できることを心からうれしく思います。これからも頑張りますので、よろしくお願いします。ありがとうございました。

ロバートキャンベル副委員長祝辞「文化芸術活動への貢献を幅広く顕彰する本賞の大賞に最もふさわしい方。日本ペンクラブ会長としてのこれからにさらに期待していきたい」

桐野さん、まことにおめでとうございます。選考委員の立場から「おめでとう」と申し上げましたが、本当は「ありがとう」ということを一番伝えたいです。

桐野さんは多岐多様な作品を通じて、社会にとって何が正しいのか、正しさが一つの社会善としてあることに対する疑い、そしてそれにより抑圧され様々な制約の中で生きざるを得ない人々の状況を丁寧に描かれております。私たちが正しい歴史として共有しているものに対する疑いを、力強く繊細に投げ続けるということが、桐野文学に通底する大きなものだと思います。

そして今年、期せずしてと言いますか、やはりと言うべきか、日本ペンクラブの会長になられました。戦前の1935年に設立された日本ペンクラブは、言論にかかわる当事者たちの声として、世界の人々とともに様々なメッセージを発信し続けています。その中心である会長として、女性として初めて桐野さんが選ばれました。すでに新聞等では今後の抱負など具体的なメッセージを出されておりますが、大賞にして奨励賞と言いましょうか、会長になられたばかりですので、これからの行動にさらに期待していきたいと思います。

作品賞ではなく、文化芸術活動への貢献を幅広く顕彰する本賞の大賞として、最もふさわしい方に受賞していただいたことは本当に感謝に堪えないことです。そのような思いで今日の謝辞とさせていただきたいと思います。本当におめでとうございます。ありがとうございました。

松永美穂選考委員祝辞「奨励のしがいがある創作者として、期待を込めて詩人マーサ・ナカムラさんの今後を見守っていきたい」

今、キャンベル先生が原稿なしで素晴らしいスピーチをされたのですが、私はマーサ・ナカムラさんの「異界」について原稿を用意してきました。先ほどマーサさんが「異界」についての印象的なエピソードを語ってくださったので、私はこれを読んでも「いいかい?」という感じです(笑)。

大学の授業がきっかけで詩を書き始めた、というエピソードは教員としては心躍るものであります。様々な出会いがあり化学反応が起こる場としての大学、それが理想的な形で機能していたことがわかります。社会人になっても書くことを止めなかった、むしろ社会人になって詩の投稿を始めた、大学で蒔かれた種が制度的なものを離れたところで発芽していった、そして次々に結実した。もちろんマーサさんの中にそれだけの才能とエネルギーがあったということなのですけれど、書き続けてくれたことを本当にうれしく思います。

マーサさんの詩は、初めて読む人には「これは何だ」という衝撃を与えるかもしれません。私自身、「こんな詩は見たことない」とワクワクドキドキしながらページをめくると、「詩とは何だ」「自分は何を求めて詩を読むのか」ということを同時に突き付けられました。

選考の場では最ものびしろのある、つまり奨励のしがいがある創作者として、マーサさんが選ばれました。すでに中原中也賞、萩原朔太郎賞も受賞されていますが、ここで立ち止まる人ではないと、これからの活躍を確信しています。期待を込めて詩人マーサ・ナカムラさんの今後を見守っていきたいと思います。ありがとうございました。

鵜飼哲夫委員長祝辞、総評「桐野さん、マーサさんへの授賞は「ジャーナリスティック」のみならず「ドラマティック」であった」

今回の選考も極めて激しく熱く議論が行われました。その中で、お二人に共通する言葉がありました。桐野夏生さん、そしてマーサ・ナカムラさんに授賞するのが「ジャーナリスティック」ではないかという発言があったのです。

桐野さんの受賞理由にもあるように、小説を通じて人間社会の諸問題をまさに「いま」いる世界に現前させていると同時に、日本ペンクラブの会長にもなられてまさに「いま」の中で活動されている。私たちもそれを応援する、そのことこそが「ジャーナリスティック」なんです。受賞後に出版された新作『砂に埋もれる犬』もある意味では「いま」というものに括り付けられた作品でした。ネグレクトというまさに「いま」の問題、目を背けたいものを直視させられます。どうしようもないひとつの現実が伝わってくるのと同時に、社会が持つ大きな問題が文章から届けられます。

そしてマーサ・ナカムラさんについても、それこそ「ジャーナリスティック」ではないかという発言がありました。これまでは主に小説家の方が奨励賞を受賞する場合が多かったのですが、マーサさんの場合には主に現代詩を通じて言葉というものを常にcultivateさせている。その活動が「ジャーナリスティック」であるということです。

先日の記者会見でわかったのですが、マーサさんが文章を書かれるひとつの大きなきっかけが、思春期に読んだ桐野さんの小説『グロテスク』であったということです。桐野さんを前にされ、涙が出そうなのを我慢しているというお話がありました。まさに「ジャーナリスティック」のみならず、今回は「ドラマティック」な賞にもなり、選考委員一同大変嬉しく思っております。

賞というのは受賞者が素晴らしいこと、そしてその受賞者が今後ますます活躍されることによって育っていくものです。お二人がこれからますますご活躍されることによって、この賞のみならず日本の文芸界言論界が豊かになっていくことを祈念しつつ、ご挨拶に代えさせていただきたいと思います。

 

(後列左より)渡邉義浩理事 田中光子委員 松永美穂委員 首藤佐智子文化推進部長
(前列左より)鵜飼哲夫委員長 桐野夏生氏 田中愛治総長 マーサ・ナカムラ氏 ロバート キャンベル副委員長

受賞者プロフィール

桐野 夏生
1951年10月7日生まれ。1993 年『顔に降りかかる雨』で江戸川乱歩賞、1998年『OUT』で日本推理作家協会賞、1999年『柔らかな頬』で直木賞、2003年『グロテスク』で泉鏡花文学賞、2004年『残虐記』で柴田錬三郎賞、2005年『魂萌え!』で婦人公論文芸賞、2008年『東京島』で谷崎潤一郎賞、2009年『女神記』で紫式部文学賞、2010年、2011年に『ナニカアル』で島清恋愛文学賞と読売文学賞を受賞。2015年紫綬褒章を受章。2021年5月に日本ペンクラブ第18代会長に選出された。他に『日没』『インドラネット』など著書多数。

マーサ・ナカムラ
1990年10月6日生まれ。詩人。埼玉県北葛飾郡松伏町出身。早稲田大学文化構想学部文芸・ジャーナリズム論系卒業。早大在学中、詩人・蜂飼耳氏との出会いを契機に詩を書き始める。卒業後、2014年より『現代詩手帖』への投稿を始め、2016年に第54回現代詩手帖賞受賞。2018年に第一詩集『狸の匣』で第23回中原中也賞を受賞、2020年に第二詩集『雨をよぶ灯台』で第28回萩原朔太郎賞を史上最年少にて受賞。

早稲田大学坪内逍遙大賞受賞者

第1回(2007年)大賞:村上春樹氏/奨励賞:川上未映子氏
第2回(2009年)大賞:多和田葉子氏/奨励賞:木内昇氏
第3回(2011年)大賞:野田秀樹氏/奨励賞:円城塔氏
第4回(2013年)大賞:小川洋子氏/ 奨励賞:小野正嗣氏・山田航氏
第5回(2015年)大賞:伊藤比呂美氏/奨励賞:福永信氏
第6回(2017年)大賞:柴田元幸氏/奨励賞:アーサー・ビナード氏
第7回(2019年)大賞:是枝裕和氏/奨励賞:福嶋亮大氏
第8回(2021年)大賞:桐野夏生氏/奨励賞:マーサ・ナカムラ氏

第8回早稲田大学坪内逍遙大賞選考委員

鵜飼哲夫委員長(読売新聞編集委員)
ロバート キャンベル副委員長(日本文学研究者、早稲田大学特命教授)
堀江敏幸副委員長(小説家、早稲田大学教授)
奥泉 光委員(小説家、近畿大学教授)
重松 清委員(小説家、早稲田大学教授)
田中光子委員(株式会社文藝春秋文藝出版局第一文藝部部長)
松永美穂委員(翻訳家、早稲田大学教授)

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