世界最高耐圧1600Vを達成した高性能ダイヤモンドトランジスタを開発 耐熱温度は従来トランジスタを凌駕する400℃、自動車等さらなる省エネへ

理工学術院・川原田洋教授らの研究グループは、電気自動車や電車などの省エネルギーに欠かせない、高効率のインバータとして利用されるダイヤモンド半導体を用いたトランジスタにおいて、ダイヤモンドの表面に存在する正電荷を有する正孔を制御してトランジスタを動作させ、20マイクロメーターの間隔で耐圧1600V、耐熱400℃まで安定な動作を可能とさせることに成功しました。耐圧1600Vは世界最高値であり、現在利用されているシリコントランジスタ(耐熱温度 約180℃)をはるかに凌ぐ性能を持ち、近年注目されているパワー半導体であるシリコンカーバイトや窒化ガリウムと競合できるトランジスタの作製が可能となりました。自動車や電車、ロボット等の動力系の消費電力を下げるなど、パワーエレクトロニクスへの大きな波及効果が期待されます。

今回の研究成果については、米・サンフランシスコで12月15~17日(現地時間)に開催された「国際電子デバイス会議(IEEE International Electron Device Meeting; IEDM)」にて発表(※session11)しました。

川原田教授

世界最高耐圧1600Vを達成した高性能ダイヤモンドトランジスタを開発
耐熱温度は従来トランジスタを凌駕する400℃、自動車等さらなる省エネへ

(1)これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

 ダイヤモンドは絶縁体と思われているが、ブルーダイヤモンドのように電気が流れるものもある。これは、ホウ素がアクセプターとなったp型の半導体である。ホウ素を5%以上導入し、低温にすれば、超伝導も生じる。また、ダイヤモンド表面に水素原子を結合させ、ある種の絶縁膜で覆うと、ホウ素なしで常温でダイヤモンド表面が半導体になる。今回のトランジスタはこの性質を利用している。ダイヤモンドは、絶縁破壊しづらいことから、エレクトロニクス応用で考えると、従来のシリコンで不可能な小さな素子でも高い電圧で動作するトランジスタ(パワーデバイス)や高温(300℃以上)で動作する素子が期待されている。これらのトランジスタは、電気自動車や電車の動力系の省エネになくてはならない高効率のインバータとしての利用があり、世界各国で研究開発が盛んな分野である。新しいパワーエレクトロニクス材料として期待されている。近年、ダイヤモンドはメタンガスや炭酸ガスから比較的簡単に合成可能であり、値段は決して高くない。ただし、他の半導体と比べるとトランジスタに必要な伝導性制御やそれを安定して形成することが難しかった。

ブルーダイヤモンド:ホウ素が入った半導体ダイヤモンド。青色をしており、電気が流れる。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

今回の研究では、ダイヤモンドの表面に存在する正電荷を有する正孔を制御し、トランジスタを動作させ、20マイクロメータの間隔で耐圧が1600V,しかも室温から400℃まで安定な動作が可能となった。これは現在利用されているシリコントランジスタをはるかに凌駕するものであり、近年注目されているパワー半導体であるシリコンカーバイド、窒化ガリウムと競合するトランジスタが作製可能となった。

シリコンカーバイド(SiC):周期律で同じIV族のSiとCが1対1で存在する物質。近年、パワー半導体として研究が盛ん。銀座線にSiCを利用したインバータが入ったことで有名。

窒化ガリウム:青色発光ダイオード(本年のノーベル物理学賞)で有名な材料。パワー半導体としても研究が盛ん。

(3)そのために新しく開発した手法

ダイヤモンドの表面に高い密度で正電荷を運ぶ正孔密度の上昇と高い電界に耐えられる構造の両立を図った。具体的には、ダイヤモンド表面に正電荷を引き寄せることとその表面を保護する二つの役割をもつアルミナ膜を原子層でしかも高温で形成する技術を開発し、それをトランジスタの構造に形成する技術に発展させた。

(4)今回の研究で得られた結果及び知見

オフ状態での耐圧1600Vのダイヤモンドトランジスタは世界初である。従来技術の耐圧は1500Vであった(産総研2014年夏)。今回のトランジスタでは、それと比べ、素子サイズが40%減少し、しかもオン状態で電流が300℃で10倍以上、室温では100倍以上流すことが出来るので、性能向上は画期的である。

 (5)研究の波及効果や社会的影響

ダイヤモンドは熱伝導が物質中最高であり、熱が発生するパワー半導体用基板としては、異口同音にその価値が認められていた。例えば、1999年-2000年のITバブルでは光通信回線に高出力半導体レーザーが導入され、ダイヤモンドが熱放出基板として大量に利用された。バブル衰退とともに出荷は減ったが、パワーエレクトロニクスは熱との戦いであり、基板としてのダイヤモンドの活躍の場は大きい。その基板の表面がパワートランジスタになるのであれば、エネルギー消費の2/3と言われる動力系(自動車、電車、ロボット等)において、その消費電力を下げるためパワーエレクトロニクスへの波及効果が大きい。

(6)今後の課題

ダイヤモンドの微細加工で立体的なトランジスタにしたてて、高密度化によるチップあたりの最大電流密度を上昇させる。

※本研究は、JST戦略的創造研究推進事業「先端的低炭素化技術(ALCA)」で行われた。

 

 

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