フランスのアルベール・カーン博物館に所蔵されていた能楽の映像が、大富豪アルベール・カーン(Albert Kahn, 1860-1940)が日本に派遣した撮影隊によって1912(大正元)年10月30日、京都・佛光寺の能舞台で撮影されたものであり、現存最古の能楽映像であることが早稲田大学坪内博士記念演劇博物館(館長・竹本幹夫)のグローバルCOE日本演劇研究コースの研究グループ(児玉竜一教授、原田眞澄研究助手ほか)の調査で判明しました。
これまでのところ、最も古い能の映像は、法政大学能楽研究所に収蔵されている1932(昭和7)年以後のフィルム「名家の面影」とされていました。調査では佛光寺に残されていた日誌や能舞台の当時の様子を調べるとともに、写真と今回の映像を照合するなどして具体的な日時を特定、さらに20年古い映像であることを明らかにしました。近代能楽史史上極めて重要な資料であるとともに、初期映画研究においても第一級の資料となります。
能楽のフィルムには、幕末から明治、大正にかけての京都能楽界の重鎮、金剛謹之輔師による「小鍛治」、「隅田川」、「羽衣」、「望月」、「橋弁慶」の主要な部分が、それぞれ2~3分程度収録。「切れのある鮮やかな舞と、朗々たる謡を特徴とする芸風であった」という口伝通りに演じる金剛謹之輔師の姿が映されています。ワキ方の出演者については引き続き調査を行っています。

望月

橋弁慶
また、アルベール・カーン博物館には同じく1912年に撮影されたと見られる京舞「鉄輪」、「三国一」、「わしの在所」のフィルムも所蔵されていることがわかり、京都祇園町の芸妓・吉川一子や舞妓・松本とめらによる京舞の映像が同様に2~3分程度収録されております。これらの京舞のフィルムも、舞踊研究において非常に貴重な資料といえます。

三国一

わしの在所
これらのフィルムは、能楽研究および舞踊研究、映画研究など多方面の研究に資すること大である重要な映像資料になります。現在、各専門家によりさらなる調査・研究を進めており、2012年1月27日~29日に本学で行われるグローバルCOE国際シンポジウム「Acting」での公開を予定しております。国際シンポジウムの報告会では、映像を見ながら現段階での研究成果を報告する予定です。
児玉竜一教授コメント
100年前はどのように動いていたか、過去を再現することは非常に困難。文字資料ではわからないものを伝えてくれるこのような映像は、大変貴重な資料といえる。
※写真はすべてアルベール・カーン博物館所蔵。