独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長松浦祥次郎)量子ビーム応用研究部門環境材料プロセシング研究グループの大山智子任期付研究員は、学校法人早稲田大学(総長鎌田薫)理工学術院の大島明博客員准教授、鷲尾方一教授、国立大学法人大阪大学(総長平野俊夫)産業科学研究所の田川精一招聘教授らと共同で、集束イオンビーム1)を使うことにより、局所的に細胞接着性の高い部分を持つ生体に優しいプラスチックの開発に成功しました。
医療や医療応用に向けたバイオ研究の先端技術である医療マイクロマシン2)やlab-on-a-chip(ラボチップ)3)の開発では、細胞接着性をはじめとする特定の機能を自由に制御した生体親和性材料の創製がカギとなります。生体親和材料は熱に弱いものが多く、微細な加工を精密に行うことは困難でした。この課題を解決するために集束イオンビームを使った微細加工4)技術の最適化を行い、熱に弱いプラスチックでも、60 nm幅の溝などの超微細構造を±10 nm以下の精度で加工することに成功しました。さらに、加工と同時にダイヤモンド・ライク・カーボン5)様の表面状態を作ることで、局所的に細胞接着性の強弱を制御することが可能になりました。 今後も材料表面の微細加工技術(形状パターニング)と局所的な機能化(機能パターニング)という2つの技術の融合による材料創製技術の高度化を進め、医療材料の実用化を進めていきます。
本研究成果は、米国の応用物理学専門誌『Applied Physics Letters』オンライン版に10月15日に掲載されました。
用語解説
- 集束イオンビーム(FIB):FIBは細く絞ったガリウムなどのイオンと試料の原子核衝突による原子のはじき出し(物理スパッタ)によって試料を削る装置です。透過型電子顕微鏡(TEM)の試料切片切り出しなどに用いられています。
- マイクロマシン:MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)と同義。微細加工技術4)によって電子回路やセンサなどを基板上に集積した小型機械を指します。
- lab-on-a-chip(ラボチップ):微細加工技術4)によって微小空間での化学反応や生体運動などを制御する機能を持ったデバイスの総称です。
- 微細加工:ナノテクノロジーの代表的な基盤技術のひとつであり、我々の目では見ることのできないマイクロメートル(10-6 m)、ナノメートル(10-9 m)といった極小さなスケールで材料を加工する技術です。
- ダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC):炭素と水素で構成され、ダイヤモンドと黒鉛との間の物性を有する非晶質の硬い材料を指します。
論文名・著者名
Micro/Nanofabrication of Poly(L-lactic acid) Using Focused Ion Beam Direct Etching. Tomoko Gowa Oyama, Toru Hinata, Naotsugu Nagasawa, Akihiro Oshima, Masakazu Washio, Seiichi Tagawa, and Mitsumasa Taguchi Applied Physics Letters 103, 163105 (2013).