紡錘体の大きさを決めるパラメータの導出に成功 理工・石渡研など生体構造の自己組織化機構の一端を解明

早稲田大学理工学術院の高木潤助手、石渡信一教授らは、細胞分裂装置である紡錘体の大きさ・形と、紡錘体を構成する線維(微小管)の密度・量を測定し、それらの関係を定量的に表現することに成功しました。

本研究では、アフリカツメガエルの卵抽出液中で自己組織的に形成させた分裂中期の紡錘体を、蛍光顕微鏡下で観察・計測しました。その結果、紡錘体の形と微小管密度は、紡錘体の大きさによらず一定である一方、紡錘体の大きさは微小管量と強い相関があることが分かりました。微小なガラス針を用いて紡錘体を2つに切断し、微小管量を半分以下にすると、各断片は切断前の紡錘体より小さくなる一方、各断片の形と微小管密度は切断前の紡錘体とほぼ同じ値に5分以内で回復することを発見しました。これらの結果から導出した、パラメータ同士をつなぐ1つの関係式を用いることで、紡錘体の大きさが、形や微小管密度を保ったまま、どのように微小管量と関連しているかを定量的に示すことができました。この成果は、細胞分裂における紡錘体の形成メカニズムの解明に大きく寄与するだけでなく、生体構造の大きな特徴である「自己組織化」のメカニズムの解明につながると期待されます。

この研究は、科学研究費補助金の支援を受けて実施されました。この成果は論文「Using micromanipulation to analyze control of vertebrate meiotic spindle size(微小顕微操作法を用いた脊椎動物における減数分裂期紡錘体の大きさ制御の解析)」として、Cell press社のオンライン科学雑誌「Cell Reports」に掲載されました。

Cell Reports掲載論文概要

論文題目:Using micromanipulation to analyze control of vertebrate meiotic spindle size

著者 :

  • 高木潤 早稲田大学理工学術院助手
  • 板橋岳志 早稲田大学理工学術院講師
  • 鈴木和也 早稲田大学理工学術院博士後期課程3年・日本学術振興会特別研究員(DC1)
  • Tarun M. Kapoor ロックフェラー大学教授
  • 島本勇太 ロックフェラー大学博士研究員
  • 石渡信一 早稲田大学理工学術院教授、早稲田バイオサイエンスシンガポール研究所(WABIOS)所長

本研究の背景と目的

筋肉、内蔵、脳など、生体内には様々な構造があり、それらは全て自己組織的に形成されます。本研究の対象である紡錘体は染色体の分配を担う構造物で、微小管と呼ばれる線維状重合体が分子モーターなどのタンパク質の働きによって集合・配向することで、自己組織的に形成されます。染色体の分配がうまくいかないと、細胞の癌化や出生異常の原因となるため、紡錘体の形成メカニズムについて、世界中で盛んに研究が行われています。これまでの研究によって、紡錘体の形成に関わる分子モーターなど、数多くの分子が同定されてきました。しかし、微小管の量や紡錘体の大きさ・形にどのような関係があるのか、という根本的な情報が不足していました。そこで私たちは、これらの関係を明らかにすることを目的に、物理的手法を用いた研究を行いました。

本研究で開発した手法

図1中期紡錘体の蛍光画像。アフリカツメガエル卵の抽出液中で形成させた。

図1中期紡錘体の蛍光画像。アフリカツメガエル卵の抽出液中で形成させた。

紡錘体は3次元的な構造物であり、分裂中期においてはラグビーボールのような形状をしています(図1)。これまでの多くの研究では、落射蛍光顕微鏡を用いて紡錘体を2次元的に観察していましたが、本研究では紡錘体の大きさや形をより正確に測定するため、共焦点蛍光顕微鏡を用いた3次元観察を行いました。3次元観察を行ったことで、3次元的に非対称な変形も定量的に解析できるほか、微小管を蛍光ラベルすることで、紡錘体の体積や紡錘体中の微小管量・密度を正確に測定することができるようになりました。

また、本研究により、先端の非常に細いガラス針(先端径<1 μm)を用いて紡錘体を(図2)のように切断することができるようになりました。通常、紡錘体は細胞の中にあるため、このような直接的な顕微操作を行うことはできません。しかし、私たちが用いたアフリカツメガエル卵の抽出液中で自己組織的に形成させた紡錘体(大きさは30-50 μm程度)は、周りに細胞膜がないため、このような切断操作ができます。切断という物理的手法を用いることで、紡錘体の周りの溶液環境を変えることなく、紡錘体の大きさや形、微小管の量・密度を直接操作することができるようになりました。

図2紡錘体の切断 紡錘体の微小管蛍光画像。2本の微小ガラス針を挿入し、互いに逆向きに動かすことで紡錘体を切断した。ピンクの矢印はガラス針の先端を示す。スケールバーは10 μm。

図2紡錘体の切断 紡錘体の微小管蛍光画像。2本の微小ガラス針を挿入し、互いに逆向きに動かすことで紡錘体を切断した。ピンクの矢印はガラス針の先端を示す。スケールバーは10 μm。

本研究で得られた結果及び知見

図3実験結果の模式図。2つの断片を接触させると融合する

図3実験結果の模式図。2つの断片を接触させると融合する

 

3次元観察により、アフリカツメガエル卵の抽出液中で形成させた分裂中期の紡錘体は、紡錘体の大きさによらず同じ形、微小管密度をしており、紡錘体の大きさは微小管量と相関があることが分かりました。そして、形や微小管密度などの定義から、これらのパラメータ同士の関係を示す1つの関係式を導出しました。この関係式では、紡錘体の大きさは、微小管量と、紡錘体の大きさによらないパラメータ(紡錘体の形、微小管密度)で表されます。

ガラス針を用いて紡錘体を2つに切断すると、切断によりできた各断片は、5分以内に元の紡錘体と同じような形、微小管密度になりました(図3)。この結果は、紡錘体の形と微小管密度が紡錘体の大きさによらないという性質が、切断後の断片でも成り立っていることを意味します。また、各断片中の微小管量は、元の紡錘体の微小管量の半分以下になり、それに伴い各断片の大きさは元の紡錘体より小さくなりました。この結果もまた、紡錘体の大きさが微小管量と相関するという性質を、切断後の断片も保持していることを意味します。さらに2つの断片を接触させると、自発的に融合してほとんど元と同じ紡錘体になることも分かりました(図3)

これらの結果から、紡錘体の大きさは微小管量と相関があり、紡錘体の形や微小管密度は「切断」という物理的操作を行っても動的に維持されることが分かりました。

研究の波及効果や社会的影響

本研究によって紡錘体の自己組織化における重要な構造パラメータが導出されたことは、規則的な生体構造の「自己組織化」のメカニズムという物理的視点だけでなく、正確な染色体分配のメカニズムの解明という点で、生物学的、医学的にも重要な意味を持つものです。また、他の生体構造における自己組織化のメカニズムを解明するためのヒントを与えるものであり、生体物質を用いた人工構造物の設計方法の確立にもつながると期待されます。

石渡研究室

早稲田バイオサイエンスシンガポール研究所(WABIOS)

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