光に応答してエネルギーが増加する哺乳類培養細胞を作製することに成功 Scientific Reports誌に掲載、理工・澤村准教授・朝日教授らの研究

 理工学術院先進理工学研究科、生命医科学専攻 生物物性科学研究室の澤村直哉准教授と朝日透教授は、同研究室大学院博士課程学生の和田丈慶氏、同研究科応用化学専攻の木野邦器教授、神戸大学の原清敬准教授とともに、古細菌由来のプロトンポンプの機能を持つタンパク質を哺乳類培養細胞のミトコンドリアで特異的に発現させることにより、光に応答してプロトン駆動力(あらゆる生物のエネルギー源)が増加する細胞を作製することに成功しました。

これは、植物で見られる光合成の一部を哺乳類培養細胞で再現した画期的な成果と言い換えることができます。将来、再生医療技術との融合によりパーキンソン病などの治療にも役立つ可能性も秘めています。

この研究は本学先端科学・健康医療融合研究機構において実施された神戸大学との共同研究であり、早稲田大学が展開している文部科学省「リーディング理工学博士プログラム/エナジー・ネクストリーダーの養成」の教育研究の成果です。4月9日付のネイチャーパブリッシンググループのオンライン科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。

概要

古細菌の膜タンパク質であるデルタロドプシンは、光照射によりプロトンを細菌の内部から外部へ運ぶ機能を持っています。実際に化学・微生物学の研究者は、このタンパクを大腸菌や細菌で発現させて光駆動型バイオリアクターを構築し、有用物質の生産技術の開発を行っています。細胞生物学のバックグラウンドを持つ私たちは、このデルタロドプシンを利用して、哺乳動物細胞内でエネルギーの産生を制御するというバイオプロセスを構築するという着想を得て、研究を開始しました(図1)

図1. 光に応答してエネルギーが増加する哺乳類培養細胞の作製 哺乳類培養細胞のミトコンドリアにデルタロドプシンを特異的に発現すると、光に応答してデルタロドプシンがプロトンポンプとして働き、プロトン駆動力が生み出される。

図1. 光に応答してエネルギーが増加する哺乳類培養細胞の作製
哺乳類培養細胞のミトコンドリアにデルタロドプシンを特異的に発現すると、光に応答してデルタロドプシンがプロトンポンプとして働き、プロトン駆動力が生み出される。

光駆動のプロトンポンプであるデルタロドプシンを哺乳動物細胞のミトコンドリアにおいて特異的に発現させたのち(図2)、この細胞に光照射を行うと、哺乳動物細胞ミトコンドリア内で呼吸鎖のプロトン濃度勾配が増加するとともに、ミトコンドリア機能を阻害し、パーキンソン病モデルを誘導する薬剤として用いられる1-Methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine(略称:MPTP)による神経細胞死が抑制されることを明らかにしました(図3)

図2. 哺乳類培養細胞におけるデルタロドプシンのミトコンドリア特異的発現 左から、デルタロドプシンのみ、ミトコンドリアのみ、デルタロドプシンとミトコンドリアが共局在を示す蛍光顕微鏡像。Scientific Reports 3, Article number: 1635, Figure No. 1c, 09 April 2013. © Macmillan Publishers Limited.

図2. 哺乳類培養細胞におけるデルタロドプシンのミトコンドリア特異的発現
左から、デルタロドプシンのみ、ミトコンドリアのみ、デルタロドプシンとミトコンドリアが共局在を示す蛍光顕微鏡像。Scientific Reports 3, Article number: 1635, Figure No. 1c, 09 April 2013. © Macmillan Publishers Limited.

以上のように、我々は、光に応答してプロトン駆動力(あらゆる生物のエネルギー源)が増加する細胞を作製することに成功しました。これを言い換えれば、植物で見られる光合成の一部を哺乳類培養細胞で再現した成果とも言う事ができます。また、作製した細胞に光を照射するとパーキンソン病モデルにおける神経細胞死が抑制されたことから、ミトコンドリアの異常がその病態に関わっているとされているパーキンソン病の研究や治療にこのシステムが有効である可能性も秘めています。現在このシステムをミトコンドリアの異常が原因とされている疾患の研究や治療に使用するために、ES細胞やiPS細胞などの幹細胞で本システムを確立することを目指して研究を進めています。これにより局所的な光照射により任意の部位で細胞の増殖や分化をさせられる可能性があり、新たな治療への応用が期待されます。

図3. 作製した細胞への光照射によるパーキンソン病モデル神経細胞死の抑制 縦軸は作製した神経細胞の細胞死の量を表す。細胞から漏れだすLDHの量は細胞死の量に比例するため、このLDHの定量により細胞死を定量する事ができる。左から、MPTPを入れずに光照射もしない場合、MPTPは入れても光照射していない場合、MPTPを入れて光照射した場合の結果である。MPTPを入れることにより細胞死は促進したが、さらに光照射を行うとこの神経細胞死の量が減少した。Scientific Reports 3, Article number: 1635, Figure No. 3a, 09 April 2013. © Macmillan Publishers Limited.

図3. 作製した細胞への光照射によるパーキンソン病モデル神経細胞死の抑制
縦軸は作製した神経細胞の細胞死の量を表す。細胞から漏れだすLDHの量は細胞死の量に比例するため、このLDHの定量により細胞死を定量する事ができる。左から、MPTPを入れずに光照射もしない場合、MPTPは入れても光照射していない場合、MPTPを入れて光照射した場合の結果である。MPTPを入れることにより細胞死は促進したが、さらに光照射を行うとこの神経細胞死の量が減少した。Scientific Reports 3, Article number: 1635, Figure No. 3a, 09 April 2013. © Macmillan Publishers Limited.

論文及び著者名

Hara, K.Y., Wada, T., Kino, K., Asahi, T. & Sawamura, N. (原清敬、和田丈慶、木野邦器、朝日透、澤村直哉)

Construction of photoenergetic mitochondria in cultured mammalian cells. Scientific Reports 3, 1635; DOI:10.1038/srep01635 (2013)

リンク

Scientific Reports 掲載論文

朝日透研究室

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