理工・大和田教授ら「電気パルス粉砕」を開発 鉱石破砕の新手法、資源循環型社会形成にも貢献

研究の背景

 

図1 固体粒子の破壊

工業的に固体を破壊する操作は粉砕と呼ばれ、世の中の各種物質、特に鉱石から金属類を生産する場合にはほとんどの場合この操作が使われます。しかしこの操作のエネルギー効率は大変低く、最も一般的なボールミルと呼ばれる粉砕機で何と約1%しかありません。投入される多くのエネルギーは熱となって逃げてしまいます。しかも、この粉砕操作に使用されるエネルギーは全世界のエネルギー消費の約3~4%と実は相当大きなものです。このような粉砕操作の効率をいかに上げるかは、工業における今後の重要課題と言っても過言ではありません。

固体粒子を圧縮すると、力をかけた方向とほぼ垂直な方向に引張力が働いて破壊します(図1)。一般的にここで生じる引張力は、かけた圧縮力の十分の一から百分の一程度しかないので、ここですでに多くのエネルギーが破壊以外に使われてしまいます。そこで、固体粒子を破壊する際に、この引張力を直接固体粒子内に発生させることができれば、破壊におけるエネルギー効率は格段に高くなり、この分野の大幅な省エネルギーを達成することができます。また、固体粒子が各種成分の複合物から成っている場合、特定成分を分離するためにはそれを選択的に取り出す(単体分離する)必要があります。つまり、この特定成分と他成分との境界面に直接引張力を作用させることが必要になります。この両者を同時に達成させる方法が電気パルス粉砕です。

この方法は20世紀中頃にロシアで提唱されたもので、一時、各種宝石類の鉱石中からの分離を目的として実用化されましたが、その後は例がみられません。その主たる原因は、この現象が理論的に明らかにされていないことで、その解明が我々の研究目的です。

研究の成果

電気パルス粉砕(Electrical Disintegration)では、基本的に水中で固体粒子に直接電圧をかけます。通常、空気は固体よりも電気が流れやすいので空気中では電気パルス粉砕はできません。固体が不良導体の場合、ある電圧以上になって初めて一気に大電流が流れます(図2)。これを電子なだれと呼び、その際の固体単位厚みあたりにかかる電圧を絶縁破壊強度と呼びます(図3)。

図2 電気パルス粉砕の概念

図3 電気パルス粉砕における電圧・電流波形

 

この電子なだれは、固体粒子の中の電気的に弱い部分を選んで起こりますから、その固体が複数の成分からなる場合、電気的な弱部であるその境界面に選択的に流れる確率が高くなります。また、各種成分の境界面には空隙なども多いので、より電気が流れやすいのです。

ただ、電気が周りの水でなく固体粒子内に流れるためには、電圧は徐々にではなく瞬時(通常1μs以下)にかける必要があります。これを実現させるために、まず大きな電荷をコンデンサにためておき、あるとき一気にそれらを固体粒子にかけることになります。

異種成分の境界面に電子なだれが起こると、その部分で局所的に数万度の温度になり、固体成分の昇華・プラズマ化が一瞬にして起こります。このことは、境界面で微小爆発が起こることに相当しますので、境界面に直接引張力がかかることになり、固体粒子構成成分の分離(単体分離)が非常に低いエネルギーで起こることになります。わが研究室では、各種素材の複合物に関して、その電気的特性が絶縁破壊や構成素材間の境界面優先破壊に与える影響について詳細な検討を行い、構成成分の誘電率・導電率・物理的構造欠陥等が境界面優先破壊に与える影響などを明らかにしました。

今後の展開、研究の社会的意義

この電気パルス粉砕法は鉱石の破壊に利用されることも考えられますが、最近は廃棄物の再資源化プロセスへの適用研究も散見され、今後の資源循環型社会形成には必須の操作になりうると考えています。E-wasteと呼ばれる電子機器廃棄物からの各種金属(レアメタルを含む)の効率的な回収技術などへの適用もその一例です。わが研究室では、そうした分野への電気パルス粉砕の利用拡大に向けてその現象の解明に注力しています。

論文情報

1. 浦辺丈寛、楠本圭、大和田秀二: 電気パルス粉砕の異相境界面優先破壊に及ぼす試料誘電率および導電率の影響、資源・素材学会春季大会講演集、no.2, pp.87-88、2010
2. 伊藤真由美、中川剛直、名児耶勉、大和田秀二: 単体分離促進のための電気パルスによる選択粉砕機構の解明-石炭含有鉱物の粉砕性は何で決まるのか-、資源・素材学会秋季大会講演集、p.95, 2004
3. S.Owada, M.Ito, T.Ota, T.Nishimura, T.Ando, T.Ymashita, and S.Shinozaki: App.lication of Electrical Disintegration to Coal, 22nd International Mineral Processing Congress, Cape Town, South Africa, pp.623-631, 2003
(他7編)

研究に関するお問い合わせ先

大和田 秀二(おおわだ しゅうじ)
早稲田大学理工学術院教授(創造理工学部 環境資源工学科)
TEL/FAX: 03-5286-3319
E-mail: owadas (at) waseda.jp

 

 

以 上

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