李基秀名誉博士記念講演

新たに学問の道に立つ大学院生の熱情と希望にあふれている本日、創立128年を迎える日本の名門私立大学であり、世界的な総合大学である早稲田大学から、名誉法学博士の学位を受けることになりましたことを、心から光栄と存じます。

尊敬する白井克彦・早稲田大学総長と教職員、学生、校友のみなさま。本日、わたくしが頂戴するこの名誉博士号は、わたくしの生涯において大きな名誉であり、韓国と日本の知性を代表する高麗大学と早稲田大学間の新たな世紀を開く友情の表徴となることでありましょう。

早稲田大学は、学問の独立と知識の活用、健康な市民精神の涵養を建学の精神としながら、進取の精神を実践し、日本を導いてこられました。こうした教育理念は、わたくしが総長を務めております高麗大学校の建学精神である教育救国と、大学の理念である自由・正義・真理とも脈を一にしております。また、剛健で開放的な学風と、磊落でありながらも情熱的な学生たちの様子は、わたくしに、あたかも高麗大学校のキャンパスにいるかのような親しみと懐かしさを覚えさせもします。

いまから百余年前、突然の西洋文明の登場に遭遇したアジア諸国は、混乱と矛盾に陥りました。まさにその時、先見の明に富む先覚者であった大隈重信先生は、1882年に早稲田大学を創立され、早稲田は日本の成長と発展、試練と栄光をともに経験しながら、先進国日本を作る人材を輩出してきました。

それから20余年のちの1905年、教育を通して国に報いたいという大きな志のもとに、朝鮮、現在の大韓民国で普成専門学校が設立されました。さらにそれから30年ののち、早稲田大学政経学部に学んだ仁村金性洙先生が普成専門学校を入手して、高麗大学校と改称し、社会と国家に仕える知性人を養成しながら今日に至ったのであります。そしていま、高麗大学校は、韓国民の声援を受ける民族の大学として、グローバル・リーダーを育てる世界トップレベルの大学へ跳躍しようとしております。これは、2007年に創立125周年を迎えて、「グローバル・ユニヴァーシティ」の実現を目標に、国際的な人材を育て上げ、教育と研究に、一歩さらなる前進を遂げようという早稲田大学の方針と一致するものです。

高麗大学校は、韓国の、政治、経済、文化など、さまざまな分野で大きな影響を及ぼすことに、常に歴史的召命意識を持っております。現在の李明博・大韓民国大統領もまた高麗大学校の出身です。大韓民国で大統領を輩出した最初の私立大学として、その名誉と同時に、それにふさわしい時代的責務は何かと自ら問うているところであります。

21世紀は、人類の共栄・発展を決定する文明史的転換期であります。そのために、大学は未来を切り開く価値を創り出さねばならず、世界的な知識を生み出さねばなりません。思考の閉じられた枠から抜け出し、社会と大学が相互に発展するよう導いてゆかねばなりません。学問と研究の革新とともに、教育の変化も重要です。時代を洞察しながら、未来を見つめる世界市民を育成することは、現世紀、大学に課せられた共同の使命であります。専門的な知識と成熟した人生を送ってきた知性人、文化的な障壁にとらわれない世界人が、さらに多くならねばなりません。

高麗大学校は、民族の魂と開拓精神を盛った世界をリードする大学へと歩んで行きつつ、世界的な学問研究の中心となることでありましょう。教育の力量を最大限に伸ばすことを通して、世界の舞台で活動する優秀な人材を輩出してゆくでありましょう。100年にわたり引き継いできた高大精神を通して、知性・野性・感性を等しく備えた民族のリーダー、グローバル・リーダーへと育て上げるでありましょう。このように、高麗大が進み行く道に、早稲田大学も友誼と同志愛をもって、ともに進み行かれるであろうことを信じております。なによりも、21世紀の韓・日間の和解協力と相互発展を導いてゆく指導者を、共同で育成する仕事は、両校が他に先んじてやらねばならない任務であります。わたくしは、その一環として、日本と韓国の知性を代表する早稲田と高麗大が推進機関となって、韓-日対話、日-韓対話を構築することを提案いたします。

わが高麗大学校は、ロシアのサント・ペテルブルク大学とともに、韓-ロ対話(Korea-Russia Dialogue)を推進しております。この韓-ロ対話は、官僚と学舎、企業家と社会活動家等が参加する大規模の民間フォーラムとして、韓・ロ両国間の理解と和解を目指すという役割を果たしております。両校が推進機関となって、韓-日対話のチャンネルを構築すれば、両国間の複雑な懸案を解き、未来に向かった共同目標を達成するのに効果的であろうと信じます。

わたくしには、早稲田大学ととてもよい学問的なご縁があります。1977年9月、わたくしが青雲の志を抱きドイツ留学に発つよりも前に、初めて訪問した外国の大学が、まさにこの早稲田大学であったのです。当時、交換教授として出発する先輩教授とともに、早稲田大学に足を踏み入れた時の感動は、わたくしの学問の道を歩んでゆくのに大きな力となりました。それから20年が過ぎた1997年には、高麗大学校のサッカー部副部長として、早稲田と交流戦を持ちながら、当時総長でいらした奥島孝康・前総長と深い交友関係を結びました。

以後、韓日法学会-日韓法学会で学問的交流を持ちながら、多くの教えをいただき、また2005年3月からは奥島先生の招聘により、早稲田大学のロースクールで1年間交換研究員として過ごしながら、日本の奥深い法学の伝統に触れることになりました。この時に、白井・現総長と交友を重ね、これが、今回の行事に同席した大学院長と5名の処長たちが、早稲田大学の実質的な交流のためのMOU締結をなすにいたった直接的な要因となるのです。

また最近では、岡田卓也・(株)イオン名誉会長と日枝久・(株)富士メディアホールディングス会長に高麗大学校名誉博士号を授与いたし、教授と学生の関係を超え、両校の校友会も旺盛な交流を行ないながら、厚い友情を一層深めております。

本日は、早稲田大学に大学院生が入学する意味深い日であります。本日、わたくしの前におられる新入院生たちは、日本の信望される知性として、アジアと世界を導くリーダーとなられることでありましょう。学問の道は、決して孤独で大変なものではありません。むしろ、みなさんは、学問する愉しみを享受し、学問する喜びを味わう機会を得たのです。いま現在の決意のまま、学問にいっそう精進され、偉大な学者、尊敬される研究者となられることを。そして、多様な学問的経験を通し、深い眼目と広い世界観を備えた、世の中に精通した大学者、未来を作る指導者となられることを願っています。学問の道をまず歩んできた者として、みなさんに語ることができたことを嬉しく思い、みなさんの前で名誉博士号を受けることを光栄に思います。

本日、この厳粛な式場で、法学のみを探求してきた本人に、名誉博士の栄誉をお与えくださることは、学問の初心を忘れるなという戒めであろうかと存じます。これからも、両校の関係が、新たな発展を督励する同志として、永遠に続くことを望みます。早稲田大学が、わたくしと高麗大学校にくださった大きな栄光に、もう一度感謝申し上げ、両校の無窮の繁栄と、固く変わることのない友情を心より願うものです。

 

2010年 4月 2日

 

 

以 上

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