2010年度学部入学式式辞 「建学の理念と伝統を知り 未来を拓け」

本日、ここに2010年度大学院入学式を挙行するにあたり、大学を代表して新入生の皆さんならびにご列席の皆様に心よりお祝いを申し上げます。

本日、早稲田大学大学院に入学される方々は修士課程2,347名、専門職学位課程771名、博士後期課程442名、合計3,560名の多きにのぼり、研究心旺盛な精鋭を迎えることに大きな喜びと誇りを感じています。国際レベルの研究大学への飛躍をめざす本学は、修士課程を置く大学院17、博士後期課程を置く大学院18、専門職学位課程を置く大学院6つの体制を敷いており、研究者養成を主体とする研究型大学院と、生涯教育に対応し高度の実務家養成を主体とする専門職大学院を併設し、理論と実践の融合を通じて学問領域の拡充を図っています。本年は、より専門的で高度の社会的要請に応え、日本で初めての共同大学院として、東京女子医科大学との共同先端生命医科学専攻、東京都市大学との共同原子力専攻、東京農工大学との共同先進健康科学専攻を設置し、その一期生の皆さんも入学しています。

本学は2007年に創立125周年を迎えました。大隈重信が説いた「人生125歳説」をもとに、創立125周年を「第二の建学」と位置づけ、新たな一歩を踏み出すに際し、「アジアの中核的大学として、世界に存在感を示すことのできるWASEDA」という目標を鮮明にしました。この目標の実現に向けて「地球市民の育成」「持続可能性のための学問」「学問の活用による社会改革」を掲げています。その方向性は次の4点に集約されます。

1つは「多文化が共存・融合する地球社会における知の基盤を構築する」ことです。これは、世界レベルの大学間競争の中で、アジアの中心的大学として、アジア太平洋地域における大学間ネットワークを強固なものとすることです。人類の直面する環境、エネルギー、資源などの諸問題に地球市民として取り組むことです。

2つ目は「総合大学の強みを生かした学術研究を推進する」ことです。独創的な学問を生み、それを活用することが早稲田大学の伝統ですが、社会科学・人文諸科学・理工学を融合して、現代の諸問題に挑んでいます。地域研究も、総合的かつ学際的な課題の典型ですし、健康医療は医学と理工学・生命科学の融合する分野であり、今後、本学が積極的に取り組む領域です。さらに、未来社会の持続可能性は根本的な問題となっていますが、この解決には、革新的な科学技術研究に加え、自然科学、社会科学からのアプローチが重要ですし、哲学や倫理などの人文科学も深くかかわっています。

3つ目は「地球上の至るところを学びの場とし、地球共同体のリーダーを育成する」ことです。学生の受け入れと送り出しを通じて、地球上の至るところを学びの場とするグローバル・キャンパスのもとで教育研究を展開し、グローバルリーダーを育成することを考えています。

4つ目は「日本文化・アジア文化の国際的研究拠点を形成する」ことです。「世界の中の早稲田」「アジアの中の早稲田」として、早稲田から世界に向けて日本研究を発信し、日本学、日本文化の世界的な研究拠点の形成をめざします。

言い換えれば、多くの先人によって培われてきた“早稲田の心”、すなわち自分の所属する組織や立場を離れて、人類全体のために行動するという理念をより広く浸透・深化させることが求められています。

大学を取り巻く環境も大きく変わってきました。その変化を端的に言い表すならば、「グローバリゼーション」と「イノベーション」です。現代社会は地域紛争、人口問題、環境問題、経済問題など人類共通のテーマを数多く抱え込んでいます。国や地域の枠組みを超えたイノベイティブな叡智、それを生み出す新しい学問、これを体得して実践できる広い視野をもった人材によって問題は解決されると考えます。早稲田大学は他の4つの大学と協力して米国ワシントンDCに日米研究所を設立し、日米を中心とするグローバルな問題の日米研究者の情報交換と研究、そして次代を担う若手研究者の育成の場を作りました。今後、実際的な政策提言などを積極的に進めようとしています。今、知の拠点であり創造性の源である大学に問われているのは、個々の学生たちの知的創造力を伸ばすと同時に、大学自体の総合的な機能を地球社会への貢献に振り向けることです。

この3月下旬、国立の7大学と早慶をあわせた9大学の学長が、政府に対して「知の拠点」「国力の源泉」としての大学の果たすべき役割や使命はますます重要となっていること、大学への投資は国の成長にとって不可欠な「未来への先行投資」であるとの考え方に立って緊急提言を行いました。先進国中最下位にある高等教育への公的支出、つまりGDP比で0.5%という数値をOECD諸国平均並みの1.1%以上にすることなど、我が国の未来を切り開くため、大学の研究・人材育成基盤の抜本的強化に向け、①若手研究者の育成・支援、②研究者の自由な発想に基づく基礎研究等の推進、③大学の国際競争力の強化など、早急に取り組むべき政策を提言しました。

大隈重信は創立30周年祝典において、「世界の文明は学術が根本である。しこうして学術の根本は大学にある。真理に国境なし。真理は大学を透して世界の上に働いて居るのである」と述べています。大隈は、そもそも教育研究がグローバルな性格を持つこと、また、グローバルな世界における大学の役割を、先見性をもって説いていたのです。総合大学としての早稲田大学は、多様な学問・文化・言語・精神が交流する場であり、これらの多様性・多彩性・総合性がさまざまな分野におけるイノベーションをもたらし、科学技術の創造、社会の変革、制度の設計につながるといえます。早稲田大学が社会的な使命を果たすべく、皆さんにも国境を超えた真理の討究に徹底的に取り組んでほしいと思います。

おわりに皆さんに約600年前に能楽者として活躍した世阿弥が最も重視した言葉、「初心忘るべからず」を贈りたいと思います。初心には、「是非の初心」「時々の初心」「老後の初心」があり、その意味は、まず芸に取り組み始めた頃の未熟さを頭に刻み込んでおくべきこと、そして、成熟したと思っても常に次の段階がある。未知の領域に挑戦しなさい。年齢を重ねても極めつきることはない。老後なりの新たな挑戦をしなければいけない。そして一人一人が初心を忘れずに初心を幾代も積み重ねていかないと進歩が止まる。「初心を重代すべし」と書き記しています。また、政治家であり教育者であった大隈は人生を回顧し、「失敗と挫折の連続で絶えず逆境と戦ってきたが、戦えば戦うほど勇気が増してそれを跳ね除ける力が沸き、ますます奮闘することになる」と述べました。128年経った早稲田大学では今も、その志は若者に脈々と受け継がれています。

実は私は、この3月、教員としての最終の講義を行いました。40年以上の教育研究の結果として、研究室から500名に近い学生達が巣立ちました。若い学生とともに学びながら研究を行うことは実に楽しいものです。しかし、実際は、研究が順調に進むとはかぎりません。必死であがいている割には、何も成果がないということもあります。初心を忘れずあきらめないで努力を続けられるかどうかが決定的に作用します。

みなさんの大学院における勉学と研究生活が実り多きものとなることを祈念して私の式辞といたします。ご入学本当におめでとう。

 

2010年4月2日(金)戸山キャンパス・記念会堂にて

以 上

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