和物を継承する文学座の歴史と未来

2017年12月6日、早稲田大学演劇博物館が行う「文化庁地域の核となる美術館・歴史博物館支援事業」の関連イベントとして、「日本物(和物)の芝居の継承とこれからの文学座—百周年に向けてと題したシンポジウムが開催されました。

文学座は、1937(昭和12)年に岸田國士、久保田万太郎、岩田豊雄らによって結成され、2017年には創立80周年を迎えた日本を代表する劇団として演劇界をリードしてきました。日本物(和物)をめぐる本シンポジウムには、児玉竜一教授(演劇博物館副館長/文学学術院)の下、演劇評論家の大笹吉雄氏とともに、文学座から俳優の新橋耐子氏と山本郁子氏のお二人にお越しいただきました。

新橋耐子氏

山本郁子氏

はじめに大笹氏から、築地小劇場から文学座旗揚げに至るまでの歴史、文学座における和物のレパートリーの重要性などについて、貴重な舞台映像を交えてのレクチャーがありました。とりわけ、『華岡青洲の妻』で杉村春子氏が台詞を発しながら巧みに着付けをする場面で、その所作の美しさに思わず客席から拍手が沸き起こったというエピソードは、杉村春子という俳優の偉大さとともに、和物を見る醍醐味がよく示されていました。

必ず自宅から着物を着て稽古場へ向かうという新橋氏には、文学座のみならず、日本の演劇界のスター的存在であった杉村氏をはじめとした諸先輩方や、戌井市郎氏などの演出家から得た和物や芝居に関する様々な教えの大切さを語っていただきました。また、杉村氏の当たり役であった『女の一生』を見て文学座への入団を決意したという山本氏は、自身が主人公「布引けい」役を演じられることの喜びや、晩年の杉村氏との思い出などを語っていただきました。そして最後に大笹氏と司会の児玉教授から、生活習慣が大きく変わった現代において、和物を継承していくことの難しさが増す一方、新しい才能も生まれつつあるという文学座に対し、今後のさらなる期待が述べられました。これまでの80年、そしてこれからの100周年へと向けて、文学座の歴史と未来を考察する大変充実したシンポジウムとなりました。

左から、児玉副館長、新橋耐子氏、大笹吉雄氏、山本郁子氏

現在、演劇博物館は、今年迎える創立90周年に向けた準備のため長期休館中です。この間に収蔵資料の調査・整理や建物のメンテナンス、常設展示の大幅な刷新などを行い、2018年3月23日(金)にリニューアルオープンします。新しく生まれ変わるエンパクでの様々な展示や活動にどうぞご期待ください。

登壇者

新橋耐子(しんばし たいこ)

東京・神田生まれ。俳優座養成所を経て、文学座付属演劇研究所入所。1971年座員となる。初舞台の『女の一生』以来文学座の代表的作品『にごりえ』『華岡青洲の妻』など多数出演、『怪談 牡丹燈籠』『ふるあめりかに袖はぬらさじ』では杉村春子の当たり役を引き継ぐ。こまつ座の旗揚げ公演『頭痛肩こり樋口一葉』の花蛍役を通算で500回以上演じる。『元禄港歌-千年の恋の森-』(Bunkamura)など外部出演も多数。昭和52年度 第12回紀伊國屋演劇賞個人賞(『雨』『山吹』)、平成6年度 第2回読売演劇大賞優秀女優賞。(『頭痛肩こり樋口一葉』)、平成28年度 第42回菊田一夫演劇賞(『食いしん坊万歳!』) 。

山本郁子(やまもと いくこ)

新潟県生まれ。1987年文学座付属演劇研究所入所。1992年座員となる。初舞台の『好色一代女』以来、『十二夜』『好色一代男』『華岡青洲の妻』『ゆれる車の音』『くにこ』(以上、本公演)『グリークス』『みみず』『ぬけがら』『NASZA KLASA-ナシャクラサ-私たちは共に学んだ』(以上、アトリエ)など文学座の舞台にコンスタントに立つ。『きらめく星座』『イーハトーボの劇列車』『頭痛肩こり樋口一葉』(以上、こまつ座)『ミツコ』『新・乾いて候』(以上、松竹)など外部出演の機会も多い。2016年より『女の一生』で布引けい役を演じている。平成29年度 第24回読売演劇大賞優秀女優賞 (『越前竹人形』『舵』)。

大笹吉雄(おおざさ よしお)

演劇評論家。1941年大阪府生まれ。今治市で育つ。早稲田大学文学部卒。出版社を退社後、演劇評論活動を始める。著書に1985年『日本現代演劇史』全8巻(サントリー学芸賞)、1991年『花顔の人 花柳章太郎伝』(大沸次郎賞)、2007年『女優二代 鈴木光枝と佐々木愛』(読売文学賞)、2010年『新日本現代演劇史』全5巻(河竹賞)、2013年『最後の岸田國士論』(芸術選奨文部科学大臣賞)など多数。今秋、『日本新劇全史』(全3巻)の刊行を開始。

 

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