自在に変形できる液体材料を用い、可視光領域を幅広くカバーする白色発光光源を開発

早稲田大学理工学術院小林直史氏(こばやしなおふみ、基幹理工学研究科電子物理システム学専攻修士1年)、同 笠原崇史助手(かさはらたかし、基幹理工学部電子光システム学科(当時))、同 庄子習一教授(しょうじしゅういち、基幹理工学部電子物理システム学科)、早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構水野潤研究院教授(みずのじゅん)らの研究チームは、常温で液状の液体有機半導体を発光材料に用いたマイクロ流体白色有機ELデバイスの実現に成功しました。

デバイスの実現にあたっては、2013年に当研究グループが世界で初めて提唱したマイクロ流体有機ELの作製手法に基づき、微細加工技術のMEMSプロセスと自己組織化膜を用いた異種材料接合技術によって、電極間距離を数10µm以下に制御した集積化マイクロ流路を作製し、種類の異なる液体有機半導体が交互に並ぶストライプ構造を可能にしました。そして、青緑色と黄色の液体発光材料に同時に電圧を印加することで、チップ上のマイクロ流路から可視光領域を幅広くカバーする白色発光に成功しました。

自在に形状が変形できる液体材料を用いることにより、従来の固体有機半導体薄膜を用いた有機ELデバイスとは異なる特徴を有する新しいディスプレイや照明への応用が期待されます。また、マイクロ流路への液体の注入により発光層が高真空プロセスを用いずに容易に形成できるという特徴を活かすことでオンデマンド励起光源が実現でき、生化学や医療分野で待望されるポータブルバイオチップへの応用にも繋がると考えられます。

本研究は文部科学省の科学研究費補助金の基板研究(S)No. 23226010及び基盤研究(B) No. 25289241、ナノテクノロジープラットフォームサポートプロジェクトにより助成されたものです。

掲載論文:Microfluidic White Organic Light-Emitting Diode Based on Integrated Patterns of Greenish-Blue and Yellow Solvent-Free Liquid Emitters

Naofumi Kobayashi, Takashi Kasahara, Tomohiko Edura, Juro Oshima, Ryoichi Ishimatsu, Miho Tsuwaki, Toshihiko Imato, Shuichi Shoji, Jun Mizuno

なお、今回の研究成果は、英国Nature Publishing Groupのオンライン科学雑誌『Scientific Reports』に、10月6日(現地時間)に掲載されました。

自在に変形できる液体材料を用い、可視光領域を幅広くカバーする白色発光光源を開発
新しいディスプレイや照明、生化学や医療分野で待望されるポータブルバイオチップへの応用に期待

(1)これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

次世代ディスプレイや照明として注目されている有機ELは固体の有機半導体薄膜を2枚の電極で挟み込んで構成されており、面発光や広視野角、フレキシブル性等の従来のものとは違う特徴を有しています。一方、2009年に九州大学の研究グループから初めて報告された液体有機ELは、有機溶媒を用いずに常温で液体の液体有機半導体を発光層として用いており、固体有機ELで問題とされてきた曲げによるクラック発生を回避できフレキシブルデバイスの実現へ向けた第一歩となりました。しかし、従来の液体有機ELデバイスは1種類の液体有機半導体を透明電極付きの2枚のガラス基板で挟み、スペーサー材料によって発光層の厚さを制御した単純な構造で構成されており、1つのチップ内で異なる種類の液体の塗り分けやデバイスの屈曲が困難であるという課題点が有りました。そこで、早稲田大学庄子 習一研究室・水野 潤教授らは今までに、1チップ上で異なる種類の液体有機半導体の塗り分け及びEL発光を可能にする電極付きマイクロ流体デバイスの作製技術(マイクロ流体有機EL)を開発しました(T. Kasahara, S. Shoji, J. Mizuno, et al., Sensors and Actuators A, 195 (2013) 219.)(図1(a))。また、液体の流動性を活かした曲げに強いフレキシブルマイクロ流体有機EL作製(M. Tsuwaki, T. Kasahara, S. Shoji, J. Mizuno, et al., Sensors and Actuators A, 216 (2014) 231.)(図1(b))や、ピレン誘導体の液体有機半導体に微小量のゲスト分子を添加することによるマルチカラーEL発光技術(T. Kasahara, S. Shoji, J. Mizuno, et al., Sensors and Actuators B, 207 (2015) 481.)(図1(c))を展開してきました。

図1マイクロ流体有機EL技術

図1マイクロ流体有機EL技術

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

早稲田大学庄子研究室・水野教授らの研究チームは、今回の研究でこれまでのマイクロ流体有機ELの成果を基にして、集積化した微細マイクロ流路構造を有し、青緑色と黄色の液体発光材料を用いたマイクロ流体白色有機ELデバイスを提案しました(図2)。幅が60µm程のマイクロ流路を並列に形成した構造を作製して、その並列流路に青緑色と黄色の液体発光材料を交互に注入し、同時に発光させることで可視光領域を幅広くカバーする白色発光が可能であることを明らかにしました。

図2 マイクロ流体白色有機ELのコンセプト図

図2 マイクロ流体白色有機ELのコンセプト図

(3)そのために用いた独自の手法

マイクロ流体白色有機ELデバイスは、2013年に当研究グループが世界で初めて提唱したマイクロ流体有機ELの作製手法に基づき(T. Kasahara, S. Shoji, J. Mizuno, et al., Sensors and Actuators A, 195 (2013) 219.)、微細加工技術のMEMSプロセスと自己組織化膜を用いた異種材料接合技術によって電極間距離を10µm以下に制御した集積化マイクロ流路構造を作製しました。また、青緑色の液体発光材料としてピレン誘導体の液体有機半導体PLQ(日産化学(株)製)を用いました。黄色の液体発光材料はPLQを液体ホスト材料として用いそれに固体ゲスト発光材料を添加する手法を適用することで調整しました(T. Kasahara, S.Shoji, J. Mizuno, et al., Sensors and Actuators B, 207 (2015) 481.)。具体的には固体の黄色発光材料として蛍光量子収率が高いテトラセン誘導体の固体有機半導体TBRbをゲスト分子として用いました。

(4)今回の研究で得られた結果及び知見

2013年に当研究グループが提唱した1 mm幅、6 µm厚のマイクロ流体有機ELデバイスを用いて、青緑色の液体有機半導体PLQから420~650 nmの、黄色の液体発光材料TBRb-PLQから520~750 nmの幅広い光スペクトルを得ることができました(図3)。このことから青緑色と黄色の液体発光物質を同時に光らせることで白色発光に必要な可視光領域を幅広くカバーする発光が可能であると考えました。そこで、並列ライン流路構造のマイクロ流体デバイスを作製して、PLQとTBRb-PLQを交互に流路に漏れなく注入できることが確認でき、並列ライン状発光層を得る事に成功しました(図4)。我々の提案した作製技術は集積化した数十マイクロメートル幅の液体発光層を実現するのに有効で、今後様々な微小発光デバイス制作に応用できると考えています。図4のデバイスに電圧100 Vを印加することで、青緑色と黄色の液体発光材料が同時に発光し、白色発光に必要な可視光領域を幅広くカバーするスペクトルを得ました(図5(a))。また、色を数値で表現する方法(CIE表色系)を用いて測定した結果、目にやさしい暖かい白色が確認できました(図5(b))。

図3  PLQとTBRb-PLQのELスペクトル

図3 PLQとTBRb-PLQのELスペクトル

図4 マイクロ流体白色有機ELデバイス

図4 マイクロ流体白色有機ELデバイス

図5 マイクロ流体白色ELの(a)ELスペクトル及び(b)CIE値

図5 マイクロ流体白色ELの(a)ELスペクトル及び(b)CIE値

(5)研究の波及効果や社会的影響

自由に形状が変形できる液体材料を用いることにより、従来の固体有機半導体薄膜を用いた有機ELデバイスとは異なる特徴を有する新しいディスプレイや照明への応用が期待されます。また、マイクロ流路への液体の注入により発光層が高真空プロセスを用いずに容易に形成できる特徴を活かしてオンデマンド励起光源を実現することで、生化学や医療分野で待望されているポータブルバイオチップに開発にも応用できると考えられます。

(6)今後の課題

今後マイクロ流体有機ELの次世代のディスプレイ及び照明としての応用に向けて、固体有機薄膜の有機ELに相当する輝度や寿命を確保できるよう、未解明な点が数多くある液体半導体のメカニズム解明及び最適なデバイス構造設計指針を検討していきます。

※本論文は、株式会社SHUTECH、日産化学工業株式会社、九州大学との共著です。

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/top/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる