世界へ向けて大学を開放する“Waseda Ocean 構想”

2014年にスーパーグローバル大学事業をスタートさせた文部科学省と、“Waseda Vision 150”を軸に改革を進める早稲田大学。

対談を通じて、文部科学省の考える日本の大学の姿と早稲田大学の目指す姿の接点が見えてくるとともに、未来のために今の日本の大学に求められているグローバル化とは何かを考えました。 (本文内敬称略)

CN214_p6大学のグローバル化は
日本全体の課題

―世界、未来を見据えたときに、今の大学の課題は何でしょうか。

 日本の大学進学率は世界の中でも高水準を保っています。ただ日本に比べてOECD(経済協力開発機構)諸国の大学進学率が大きく伸びており、学ぶ場を求めています。そして、世界では学ぶ側が教育・研究機関の国際的な評価に注目して進学・留学先を選択しています。つまり、現在の大学は、国際的な競争力が求められているわけです。日本で学ぶことに意義や価値を見いだせるような国際的に通用する教育・研究を提供することが前提になります。

大野 日本は、明治維新で欧米の文化や技術を取り入れる際に、すべて日本語に翻訳し、日本語で学問体系を整えました。それによって非常に早く効果的に日本人の教育レベル、技術レベルが高まった。そう考えると、これまでの日本の教育・研究が悪かったとは思いません。ただし、現在は日本語で完結してしまっている状況が逆にハンディキャップになっていることは否めないでしょう。日本語を大切にしながら、どう国際化に対応していくかを考えることが、とても重要だと思います。

 日本の研究者の個々の教育・研究能力は非常に高いと感じています。一方で、さまざまな指標を見ると、外国人教員や外国人留学生の比率といった国際社会における人材の流動性の面で日本は遅れています。その人材の流動性という部分を支援することで、日本の大学の国際化を図っていかなければならないと考えています。同時に、日本国内においても、地域社会がグローバル化に対応していくための人材が求められています。つまり、高等教育のグローバル化は、日本全体の課題でもあります。

大野 そうですね。早稲田大学においても、世界の人々の幸せのために貢献できるグローバル人材を育てることで、国・文化・宗教的背景による価値観のぶつかり合いが頻発している現代社会を良い方向へ導いていけると期待しています。

これからの日本の大学の
存在意義、使命、戦略

―日本の大学が目指すグローバル化の起爆剤となるのが、今回の「スーパーグローバル大学創成支援事業」だと思います。背景や目的、内容について教えてください。

 このたび、文部科学省では高等教育の国際競争力の向上を目的とした「スーパーグローバル大学創成支援事業」を始めました。日本の大学の世界ランキングを高めることに資するタイプA(トップ型)と、日本の大学全体の国際化をリードするパイロットとなるタイプB(グローバル化牽引型)の2タイプがあります。本事業の特徴は、大学におけるグローバル化、教育・研究の方法や内容の改革と、それを可能にするためのガバナンス体制の見直しも含めた10年間の目標を定めていただき、改革を進めていただいているところです。

大野 大学に対して「自分たちの存在意義、使命、戦略を考えなさい」という強いメッセージ性をもったすばらしい事業だと感じています。かつて1990年代に銀行が淘汰された際、地域密着という役割を果たしている地元の信用金庫などは生き残り、都市銀行は4つのメガバンクに再編されました。大学もそういう競争の時代にきたのだと思います。規模や伝統にかかわらず、自分の立ち位置を考えなければならないわけです。そういった意味で、本学は強い覚悟を持ってタイプA(トップ型)に手を挙げさせていただきました。森さんは、10年後の日本の大学の姿をどのようにイメージされているのでしょうか。

 グローバル化の面で言うと、現在よりもさらに海外の教員や学生が日本の大学を目指して集まるイメージです。特にタイプA(トップ型)に関しては、世界の一流大学と競い、優秀な人材を国内外から集め得るような大学となっていただきたいと考えています。とはいえ本事業に採択された大学だけがグローバル化すればいいという意味ではありません。本事業をきっかけに、各大学独自の取り組みが全国的に普及し、700を超える国内のすべての大学がそれぞれの形でグローバル化してほしいと考えています。

大野 本学では、創立150周年を迎える2032年に向けた中長期計画“WasedaVision 150”を2012年11月に発表し、グローバルリーダーの育成を含めた改革に取り組んでいます。そこで定義しているグローバルリーダーとは、必ずしも国連のようなグローバル機関で活躍する人材ばかりではなく、どの国・地域・コミュニティであってもグローバルな視点、グローバルな価値観を持って活躍できる人材です。そして、それぞれの地域のグローバル化に貢献する人材を育てる大学も数多く必要ですね。

日本の教育制度も含めた
抜本的な大学改革を!

―“Waseda Ocean構想”についてどのように評価されていますか。

 “Waseda Ocean構想”は、留学生1万名、留学経験者1万名、10年間で10万名のグローバル人材を輩出するという数値目標や、日本文化学をはじめとする「先行6モデル拠点」など、非常に具体的な道筋をイメージされていますね。

CN214_p7大野 “Waseda Ocean構想”が目指しているのは、世界から選ばれる早稲田大学になることです。選ばれるためには、グローバルな大学として教育・研究の質を高めなければなりません。そこで「多様性」「開放性」「流動性」をキーワードとする3つの具体的な目標と、それを実現させるための6つの具体的な取り組みを設定しました。さらに、教育・研究の質を高めるために、国際的に評価の高い6モデル拠点を選定し、先行的に集中投資を行っていきます。

 質という面では、国際的な大学としての質保証、つまり日本の大学を卒業したことが海外できちんと評価される仕組みを、引き続き整えていく必要があると考えています。また、大学の教育・研究を向上させる上で、経験値の高い外国人教員や優秀な外国人学生が来ることは人材の流動という意味でも重要です。

大野 そうですね。教育や研究に多様な視点を取り入れるために、外国人教員や女性教員の比率を上げる必要もあります。例えば先行6モデル拠点の一つの領域である「日本文化学」は、これまで往々にして日本人研究者が日本の中だけで研究し、日本語で論文を書き、日本語で発信していました。ところが気がついてみれば、アメリカのコロンビア大学がハブとなり、多くの外国人研究者が日本文学を研究し、日本人とは全く違う視点・価値観から『源氏物語』や『枕草子』といった日本文学を眺め新しい発見をしていたわけです。日本文学ですら多様な価値観、多様な視点が必要なのですね。

 国際的な大学としての質の向上のためにも、人材の流動を活発にさせる仕組みが必要です。文部科学省では2014年秋に大学設置基準を改正し、日本でもジョイント・ディグリー(複数大学が連携して学位記を授与)の制度を導入できるようにしました。このような仕組みも積極的に活用し、大学の国際化に取り組んでいただきたいと考えています。

大野 ジョイント・ディグリーが実現すれば、質の向上という面で双方の大学で相乗効果が期待できると考えています。お互いが「この大学となら一緒に何かを実現できる」と思えるためには、お互いの質を高めなければなりません。研究者に関しても、複数の大学で教育・研究を行うジョイント・アポイントメント(複数の機関に所属し、双方から報酬を得ることを可能にする制度)を進めることで、一人の優秀な研究者を一つの大学が囲い込むのではなく、早大に招くことも、そして早大の教員が他大学で教えることもできるようになります。それが教員への刺激となり、教育・研究の質向上につながると期待しています。

 全学的な大学教員採用システムの導入や大学運営に関するガバナンスの抜本的な改革が必要ですね。

CN214_p8大野 法改正も含めて文部科学省に非常に柔軟に対応していただけるので大変ありがたく思っています。「こういうかたちで高等教育のグローバル化を進めるんだ」という不退転の決意を感じ、非常に頼もしく感じています。

 早稲田大学は、留学生の受入れが国内最大規模など、これまで積極的にグローバル化を進められており、大変期待しています。

世界から選ばれる大学を
目指して

 早稲田大学はさまざまな面で他に先駆けた新しい取り組みをされていると思いますが、今回“WasedaOcean構想”で提示いただいた資金面での海外の大学との連携は、他大学にはない特徴的な取り組みですね。

大野 今後、教育・研究の質を向上させるために学費にのみ頼るのではなく、寄付でも賄える仕組みをつくりたいと考えています。寄付文化が根づいている海外を見ると、例えばハーバード大学は寄付による資産を約4兆円保有し、それを年率10%で運用することで生み出された約4,000億円の5割を大学の経常収支に繰り入れ、これが全体収入の約半分を占めると言われています。スタンフォード大学は約3兆円、イェール大学も約2兆5千億円の寄付による資産を有しているそうです。こうした事例を一つのモデルとして取り入れ、これまで卒業生や国内の企業など、日本の中だけで募っていた寄付を、世界中から集まるようにしたいのです。そのためにも、海外の方々が寄付したくなるような魅力のある、選ばれる大学を目指して改革を進めています。

 海外の企業から日本の大学へ寄付となれば、本当の意味で国際的に評価されている証と言えますね。大学のグローバル化という意味でも、強みになると思います。また、早稲田大学は“Waseda Vision 150”という目標を掲げてすでに改革に取り組んでおられ、その改革に対して全学的に共有されているとのことですが、“Waseda Ocean構想”により何か変化はありましたか。

大野 文部科学省の研究大学強化促進事業(2014年8月〜)やスーパーグローバル大学創成支援事業(2014年9月〜)は、私たちの考えるビジョンをさらに強力に進化させる推進力になっています。“Waseda Vision 150”は2032年、つまり20年後の達成を目指していましたが、スーパーグローバル大学創成支援事業の場合は10年で目標を達成しなければなりません。当然、他大学も10年後の実現を目指すわけですから、私たちが20年先を見てのんびりしていたら置いていかれてしまう。そういう意味で、スピード感がつきました。学内を一つにまとめるという意味でも価値あるものです。

日本の大学を
リードする存在へ

―最後に、今後の展望を踏まえて読者へのメッセージをお願いします。

 文部科学省の推進する施策の方向性としては、グローバル化と地域の活性化・地域貢献のどちらかを選択するのではなく、両者ともにさらに充実させていきたいと考えています。また、家計の負担が大きくなりがちな高等教育の状況も改善していくことで、日本の高等教育の発展に努めたいと思います。これまで日本の大学をリードしてきた早稲田大学には、ぜひグローバル化の対応をいっそう進めていただき、その成功モデルを示していただきたいと期待しています。

大野 この改革を進めることで、将来、本学で学ぶ学生たちにとって世界につながる素晴らしいチャンスが出てきますし、卒業生にとっても「スーパーグローバル大学になった早稲田大学で学んだ」というプライドが社会で活躍する際の後押しになるでしょう。現在・過去・未来のすべての学生が「早稲田で学んで本当に良かった」と誇りを持てるような大学を目指したいと思います。また、スーパーグローバル大学創成支援事業を通して培ったノウハウは自分たちの中だけに留めておくのではなく、どんどん他大学に公開することで日本の大学全体に貢献していきたいと考えています。

―ありがとうございました。

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