ストロンチウム等の新吸着剤「カテナチオPA(仮)」を開発 安価かつ耐久性向上、福島第一原発の汚染水にも効果

早稲田大学循環型環境技術研究センター(住所:新宿区、所長:松方正彦教授)と株式会社AZMEC(本社:岐阜県美濃市、代表取締役:正田武則)は、セシウムやストロンチウム等の放射性元素を吸着する、安価かつ耐久性を向上させた新しい吸着剤「カテナチオPA(仮)」の開発に成功しました。福島第一原発は今現在も高濃度汚染水の対策に迫られており、大量の汚染水処理だけでなく、放射性廃棄物の中間貯蔵施設にも対応できるなどの万能性を有する同吸着剤は、大きな効果が期待できるといえます。

記者説明会で発表する山崎淳司教授と正田武則代表取締役(奥)

記者説明会で発表する山崎淳司教授と正田武則代表取締役(奥)

従来の放射性元素吸着剤は極めて高価(1kg当たり数万円程度)であり、天然ゼオライトは安価だが吸着性能が低く、焼却灰などの高アルカリ環境下では溶解してしまい性能が発揮できない場合がありました。しかし、「カテナチオPA(仮)」は、シリカとアルミを原材料とする無機ポリマー質吸着剤で、原材料が非常に安価(1kg当たり600円程度)なうえ、製造も容易であり、耐酸性・耐アルカリ性に優れています。また、中間貯槽の期限とされる少なくとも30年間は取り換えする必要もないことから、長期にわたる活用が可能です。

汚染水処理や中間貯蔵施設で効果が期待されるカテナチオPA

汚染水処理や中間貯蔵施設で効果が期待されるカテナチオPA

循環型環境技術研究センターは、セメントの代替材として使用されているジオポリマーと呼ばれる無機ポリマーの陽イオン交換能力に注目し、この機能を利用して開発に成功しました。「カテナチオPA(仮)」は、原発の汚染水処理のほか、とりわけ現在計画されている放射性廃棄物の中間貯蔵施設等で、放射性物質が外部に漏えいすることを防ぐなど、安全面での大きな貢献が期待されます。

カテナチオPA(仮)研究開発担当
  • 理工学術院・山崎淳司教授
  • AZMEC 代表取締役・正田武則氏
  • 理工学術院・松方正彦教授(循環型環境技術研究センター所長)

問合せ先:早稲田大学循環型環境技術研究センター(03-5292-1661)担当:松岡

放射性廃棄物の中間貯蔵施設等で利用可能な安価で耐久性に優れた新規放射性元素吸着剤の開発に成功

(1)これまでの研究で分かっていたこと

国内外の従来のセシウムやストロンチウム吸着剤は、一般的に高価なものが多く、特にストロンチウムに対応のものは極めて高価であると聞き及んでいる。安価な天然ゼオライトは、吸着性能が低く、また高アルカリに晒されると壊れてしまい、その吸着性能が発揮できなくなる課題がある。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

高アルカリ等の環境下で使用しても問題のない(耐久性の優れた)、セシウムとストロンチウムのそれぞれ,または同時に対応できる安価で高性能な吸着剤を開発・実用化することを目指し、実現化した。

(3)そのために新しく開発した手法

セメントに代わるものとして、以前から国内外でシリカとアルミナが主成分のジオポリマーと呼ばれる無機ポリマーが研究され、一部実用化されている。しかしながらほとんどがセメント代替材としてのものであった。ジオポリマーには実は陽イオン交換能力があり、その機能を利用することはあまり検討されていなかった。今回開発した吸着材は、この機能に着目した結果開発できた、無機ポリマー質吸着剤(図1参照)である。

(4)今回の研究で得られた結果及び知見

原料を吟味しシリカアルミナ比などを調整することによって、ゼオライトのようなイオンの交換性や吸着固定性をもたせ、かつジオポリマー本来の特性である耐酸性・耐アルカリ性を併せもった吸着剤の開発に成功した。これら一連のラインナップを「カテナチオPA(仮)」として発表し商品化することになった。

この吸着剤は、セシウム及びストロンチウムイオンに対してCECでおよそ400 cmol(+)・kg1 の陽イオン交換容量を有し(図2)、原材料が安くて製造が容易なことから、いずれも600円/㎏程度の価格で提供することができる。

(5)研究の波及効果や社会的影響

上記したように、無機ポリマー質吸着剤は耐久性に優れた安価で高機能な吸着剤であるため、基本的にどんな用途にも利用できるものと思われる。

とりわけ、現在計画されている中間処分場の底面や側面のセーフティガード用などに利用できる。現状は主にゼオライトで計画されているようであるが、雨水などが焼却灰等の高アルカリ性の処分物を経た浸出水の影響で強アルカリ環境下となりゼオライトが壊れてしまうため、ゼオライトが吸着機能を喪失し、セーフティガードとしての機能が発揮できなくなる恐れが大きい。無機ポリマー質吸着剤はこのような高アルカリや酸等に晒されても壊れることなく、吸着機能を喪失しないのみならず、膨大な量を必要とするこうした用途にも容易に製造・対応することが可能である。

(6)今後の課題

本吸着剤は、開発したてのものでもあり、研究室スケールでの基本的な機能の確認は出来てはいるものの、各種実廃水での性能評価は充分とは言えない状況である。

そのため、2015年1月よりサンプル出荷をおこない、第3者の評価を得る予定である。

図 1 無機ポリマー吸着剤の構造様式

図1 無機ポリマー吸着剤の構造様式

図2 各種イオンの吸着量

図2 各種イオンの吸着量

※試験方法:各種陽イオン0.1mol/Lの溶液を調製した。これに無機ポリマー質吸着剤を液固比500:1の条件で添加し3時間撹拌し吸着試験を行った。ろ過により固体を回収し純水で洗浄後、EDS分析を行い吸着試験後の組成を調べた。

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