2010年度学部卒業生、大学院学位受領者および芸術学校卒業生の皆さまへ
2011年3月25日
早稲田大学総長の鎌田です。2010年度の早稲田大学学部卒業生、大学院学位受領者および芸術学校卒業生のみなさまならびにご家族、ご関係のみなさまに対し、早稲田大学を代表して、一言ご挨拶を申し上げます。
まず初めに、東北・関東地方を襲った大災害の犠牲となった方々にお悔やみを申し上げます。また、被災されたすべての方々にお見舞いを申し上げるとともに、被災地域の一日も早い復興を心よりお祈りいたします。
こうした広範かつ深刻な被害の状況を思い、また現在も余震が続く状況の下で多くの人が一堂に会することによる危険を回避する必要があること、電力や公共交通機関に対する負荷を可能な限り軽減するという社会的責任を果たす必要があることなどを勘案して、本学は、3月25日および26日に予定していた2010年度卒業式・学位授与式を中止することにいたしました。
みなさまも、ともに学んだ仲間たち、教職員、ご家族などとともに、これまでの大学生活を振り返り、新しい人生の門出を祝福しあうことで、卒業の感激を一層強く胸に刻み込むことを楽しみにしていたと思います。学生生活の最大の思い出になったであろう卒業式をとりやめることを、大変心苦しく思っていますが、世の中が落ち着いた頃に何らかの代替措置をとることも考えていますので、どうか先ほど述べたような事情をご理解のうえ、ご協力くださいますようお願いいたします。
さて、私たちはいま、この未曾有の大災害を目の当たりにし、改めて自然の脅威、日本の置かれた厳しい国土条件、科学技術の限界などを再認識させられました。また、その後の一連の出来事によって、私たちの豊かで快適な生活がきわどいバランスの上に成り立っており、いま後しばらくはいままでと同様な生活を続けるのは難しいことが明らかになりました。その一方で、私たちは、改めて一人ひとりの命の尊さ、家族の暖かさ、人と人のつながりの有り難さなどを強く心に刻んでいます。被災地のみなさまの忍耐強さとモラルの高さも特筆に値すると思います。本学においても、法科大学院が東北大学法科大学院の学生たちに学習の場を提供し始めましたし、体育各部の学生が謝恩会を中止し、その会費数百万円を義援金として拠出したのをはじめとして、被災地の復興に貢献したいという学生や校友の声がたくさん寄せられていることを、大変心強く思っています。
かつて大隈重信は、明治初期の激動期にあって、何よりも個性豊かで自立した精神をもった人材の育成こそが国の根本をなすという信念の下に、早稲田大学を創立しました。自由で独創的な学問とその活用を通じて社会に貢献するという建学の理念は、本学に脈々と受け継がれ、どんな困難にあっても進取の精神をもって世界の至る所で活躍するたくましい人材を陸続として輩出して参りました。
現在の日本も国家の存亡をかけた大きな危機に直面しています。もともと政治の混迷や経済の停滞、財政の逼迫等の閉塞感に覆われていたところに、この大災害に襲われ、経済活動のさらなる減速も余儀なくされています。しかし、私たちの先輩は、いくたびもの悲劇的状況から力強くこの国を建て直し、発展させてきました。その原動力となったのは、いまのみなさまと同じ年代の人たちだったのです。この未曾有の大災害から得たさまざまな教訓を踏まえ、新しい価値観を、新しい社会のあり方を見いだしていくのは、これからの時代を担う若い世代であり、みなさまは、その牽引車として活躍してくれるものと確信しています。
いま自分の胸に手を当ててみてください。みなさまには、それぞれご両親から授かった大切な命が息づき、早稲田精神の熱い血潮がたぎっているはずです。この災害の犠牲となった方々に思いを馳せ、自らの命に感謝し、世のため人のために精一杯の人生を送ってください。
みなさまは、私が総長に就任してから初めて送り出す卒業生・修了生です。華やかな式典を開催することはできませんでしたが、日本の再生に向けた歩みの先頭に立つ若者たちを、いま日このようなかたちで早稲田から送り出すことができたことを、一生忘れることのできない誇らしい思い出として持ち続けることとなるでしょう。
みなさまのますますの活躍を大いに期待しています。
早稲田大学総長 鎌田 薫
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2010年度学部卒業生、大学院学位受領者および芸術学校卒業生のみなさまへ
以 上