日本人は声の調子に敏感 比較文化実験で明らかに

日本人は声の調子に敏感
比較文化実験で明らかに

2010/09/24

早稲田大学高等研究所の田中章浩助教らの日蘭国際共同研究グループは、日蘭の大学生を対象とした実験によって、日本人は声の調子に敏感で、顔の判断をする際に声を無視できないことを発見しました。見たものと聞いたものを結びつける仕組みが、文化的背景によって異なることを検証したのは世界初の成果で、異文化間コミュニケーションでの誤解の原因解明などにつながることが期待されます。成果は米科学誌サイコロジカル・サイエンス(Psychological Science)9月号に掲載されました。

研究内容概要「日本人は声の調子に自動的に注意を向けてしまう」

話し相手の感情を読み取る能力は、円滑な人間関係に不可欠なものです。しかし、感情の表現や読み取り方には文化差があり、これがしばしば異文化コミュニケーションを阻害する原因となっています。これまでの心理学や脳科学の研究では、相手の顔の表情に基づいて感情を判断するプロセスを中心に研究が進められてきました。しかし、日常場面のように、顔と声など複数の感覚器官からの情報に基づいて感情を判断する能力の文化差については、研究されてきませんでした。

本研究では、日蘭の計36名の大学生を対象として、相手の顔を通して読み取った感情と声を通して読み取った感情をどのように結び付けて、感情を「解読」しているのかを比較文化的に検討しました。実験では、登場人物の顔と声の感情表現が一致しているビデオと一致していないビデオを作成し、参加者に視聴してもらいました(図1)。そして、顔または声のどちらか一方のみに着目して、人物の感情を判断してもらいました。実験の結果、日本人はオランダ人と比べて、顔に着目して判断する場合には、無視すべき声による影響を強く受け、声に着目した場合には、逆に日本人は無視すべき顔による影響を受けにくいことがわかりました(図2)。つまり、日本人は相手の感情を判断する際に、声の調子に自動的に気を配ってしまう傾向が強いことが示されました。

今回の成果は、見たものと聞いたもののように異なった感覚器官からの情報を脳が統合するメカニズムにまで文化の影響が及んでいることを示す重要な発見だと考えられ、これにより、脳における異種感覚統合メカニズムの研究が大幅に加速することが期待できます。また、異文化間コミュニケーションでの誤解の原因解明や、顔と声を併用した感情翻訳技術の開発などにつながることが期待されます。

図1:実験参加者が視聴したビデオの例。登場人物が意味的には中立な言葉に喜びまたは怒りの感情を込めて発話したビデオを編集して、顔と声の感情が一致した条件(例:顔も声も喜び)と不一致の条件(例:顔は喜び、声は怒り)を設定した。参加者は、条件によって顔または声の一方に着目し、他方は無視して、人物の感情を推測した。顔にはノイズをかけて、顔と声の判断の難しさが等しくなるように調節した。

図2:感情判断時に、無視すべき情報から自動的に受けた影響の強さを日蘭学生で比較すると、顔に着目する場合、日本人(21.0%)はオランダ人(12.3%)と比べて、無視すべき声から強く影響を受けた。逆に声に着目する場合には、日本人は無視すべき顔からの影響をほとんど受けなかった(日本人2.6%、オランダ人10.0%)。

 

今後の展開

今回の研究によって、日本人は相手の感情を判断する際に、声の調子に自動的に気を配る傾向が強いことが明らかとなりました。これは日本の文化ないし言語のもつ何らかの特徴が原因だと考えられますが、今後はさまざまな文化的・言語的特徴をもつ対象者に実験を展開することで、この原因を突き止めていく予定です。また、今回観察された感情判断の文化差がどのような脳神経基盤に基づいているのかを明らかにしていく予定です。

 

論文題目

I feel your voice: Cultural differences in the multisensory perception of emotion
(あなたの声を感じとる:感情の多感覚知覚における文化差)

著者:
田中 章浩 (早稲田大学高等研究所 助教、蘭・ティルブルグ大学 客員研究員)
小泉 愛 (東京大学大学院人文社会系研究科 大学院生)
今井 久登 (東京女子大学現代教養学部 教授)
平松 沙織 (東京女子大学 学部生)
平本 絵里子 (東京女子大学 学部生)
Beatrice de Gelder(蘭・ティルブルグ大学 教授)

論文の英文抄録:
http://pss.sagepub.com/content/early/2010/08/09/0956797610380698.abstract

出版社による英文プレスリリース:
http://www.psychologicalscience.org/index.php/news/releases/perception-of-emotion-is-culture-specific.html

 

問合せ先

田中章浩研究室(電話:03-5286-1266、E-mail:[email protected]

 

 

以 上

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