2012年度 学部卒業式、芸術学校卒業式ならびに大学院学位授与式 鎌田薫総長による式辞

2012年度 学部卒業式、芸術学校卒業式ならびに大学院学位授与式 式辞

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鎌田薫総長

皆さん、ご卒業おめでとうございます。

本日、晴れて2012年度3月の学部卒業式・大学院学位授与式を迎えられたのは、学部卒業者9,281名、芸術学校卒業者60名、川口芸術学校卒業者19名、大学院修士課程修了者2,106名、大学院専門職学位課程修了者713名、博士学位受領者260名、合計12,439名の方々です。

これらすべての皆さんに、早稲田大学を代表して、心からのお祝いを申し上げます。また、これまで長い間さまざまな面で卒業生の皆さんを支えてこられたご家族・ご友人の皆様に対し、衷心よりお慶びを申し上げます。

卒業生・修了生の皆さんは、今、人生の新たな段階へ歩みを進めるにあたり、大きな希望に胸を膨らませていると思います。と同時に、入学時に思い描いた目標を達成した満足感を抱いている人もいれば、不十分な成果に悔しさを感じている人もいるだろうと思います。 すべての皆さんが、そうしたさまざまな想いを糧として、これからの人生を実り多いものにしていって頂くことを、強く期待しています。

とはいえ、皆さんがこれから歩み出そうとしている日本社会の現状は、極めて厳しいと言わざるを得ません。 皆さんのうちの多くの方が早稲田大学で過ごしたであろう4年間に限って、これを振り返ってみても、2009年9月と2012年12月の2度の政権交代、2011年3月に発生した東日本大震災などがあり、また、領土問題や核兵器開発をめぐって近隣諸国との緊張関係が高まっており、激動の4年間であったと言っても過言ではないように思います。

最近では、円安の進行等を背景として株価が急上昇するなど、経済活性化への期待感が高まっています。しかし、少子高齢化の進行や新興諸国の台頭などの構造的な問題に変化の兆しはなく、欧州信用危機などの不安要因も払拭されていませんので、楽観は許されないように思います。 こうした事情を背景として、1990年代初頭には世界第1位であったわが国の国際競争力が30位近くにまで低下しており、産業界等から、大学に対して、グローバル人材、イノベーション人材の育成に向けた改革を行うよう求める声が強まっています。

幸い、早稲田大学では、他の諸大学に先駆けてグローバル人材の育成に努め、それが大きな成果をあげてきたことは既に広く認められてきたところです。この場にご出席の卒業生の皆さんが、これから、それぞれの進路において大いに活躍されることを通じて、ますますその評価が高まっていくものと確信いたしております。

閉塞感のある現状を打開して、希望に満ちあふれた明るい社会を築き上げることができるのは、若い世代の力以外にはありません。その中で、長年にわたりわが国の発展に、とりわけ危機的状況の打開に力を発揮してきた早稲田大学卒業生に期待されるところは極めて大きいものがあります。

そうした重要な役割を担う皆さんに、ここではさらに次の2点を期待したいと思います。

第1は、皆さんが、早稲田大学で学んだこと最大限に活かして、就職先である企業の利益を向上させ、それを通じて国力を回復させることなどに大いに寄与して頂きたいとは思いますが、皆さんが早稲田大学で幅広い教養、深い専門的知見、豊かな人間性などを涵養してきた、その究極の目標は人類全体の幸福の実現にあることを忘れないでほしいということです。

早稲田大学は、今からちょうど100年前、1913年に、建学の理念を「学問の独立」「学問の活用」「模範国民の造就」を3本柱とする「早稲田大学教旨」として取りまとめ、高らかに宣言いたしました。

そのうちの「模範国民の造就」について、大隈重信は、次のように語っています。

大隈自身の考え方は、当時の時代状況の中で理解されなければなりませんが、私は、これを西欧にいう“ Noblesse oblige.“ と同趣旨のものとして受け継いでいくべきと考えています。民間企業が自社の利益を追求し、国家公務員が自国の利益を追求するのは当然でありますが、それが人としての本分に牴触する場合には、この理念が各人の行動の規範として活かされるべきであると考えます。

本学で学んだ先輩たちの中には、この理念を体現した誇るべき方々が大勢いらっしゃいます。

例えば、皆さんもよくご存じのことと思いますが、第二次世界大戦中に、リトアニアの在カウナス日本領事代理として、本国からの命令に背いて、「命のビザ」を発給し続け、ナチス・ドイツの迫害から逃れてきたポーランドのユダヤ人難民6千名以上の命を救った杉原千畝さんもその一人です。

本学では、杉原さんの没後25年にあたる一昨年に、杉原さんが学んだ高等師範部、現在の教育学部が使用している14号館の前にある広場に顕彰碑を設置しました。そこには「外交官としてではなく人間として当然の正しい決断をした」という杉原さんの言葉が刻まれています。

こうした杉原さんの行動は、人間がいかに生きるべきかという普遍的な問いを、時代を超えて私たちに投げかけています。一人ひとりが自由で豊かな個性を持って、いかなる局面にあっても自分自身の頭で考え、自らの信念に基づいて行動し、世界の人々の幸福のためにできる限りの力を尽くす。そうした人格を涵養して社会に送り出すことが、教育の真の目的であり、本学が建学以来引き継いできた理念なのです。

第2は、東日本大震災の教訓を風化させないでほしいということです。

東日本大震災と福島第一原子力発電所事故から、私たちは多くの教訓を得ました。それらをいちいち枚挙するいとまはありませんが、これを最も包括的に表現するならば、科学技術や行政のあり方、さらには私たち一人ひとりの生き方を考える際に、人類全体の幸福を実現するにはどうすべきなのか、という視点を忘れてはならない、ということだろうと思います。これは、詰まるところ、先ほど述べた建学の理念「模範国民の造就」と同じことだと言うことができます。

本学の学生・教職員・校友の皆さんは、震災後今日に至るまで、それぞれの立場から、さまざまなかたちで被災者支援・被災地復興支援に力を尽くして参りました。私は、そのことを大変誇らしく思っています。この場を借りて、在学中の皆さんのご尽力に、改めてお礼を申し上げます。と同時に、直接・間接にこの震災を体験した我々が、震災から得た教訓をもって自らを省み、それを風化させることなく後世の人たちに引き継いでいくことが大切であり、私たち一人ひとりがその責任を負っているということを強調しておきたいと思います。

さて、本学理事会は、昨年11月に
、教育・研究の質を飛躍的に向上させ、「アジアのリーディングユニバーシティ」として世界へ貢献する大学であり続けるという目標の下に、2032年の創立150周年を見据えた中長期計画“Waseda Vision 150”を、策定し、公表いたしました。

そこでは、世界に貢献する高い志を持った学生が日本各地のみならず世界中から集い、互いに切磋琢磨する中で自らの人間力を高めていく大学、世界の平和と人類の幸福の実現に貢献する独創的な研究を行う大学、国内外の至る所でグローバルリーダーとして社会を支える卒業生を数多く輩出し、それらの卒業生や地域社会と緊密な協力関係を築いている大学、アジアの大学のモデルとなるような仕組みと運営体制が確立している大学、こうした大学像を本学のVisionとして提示するとともに、その実現に向けた具体策を掲げています。

ここに言う「グローバルリーダー」とは、世界を舞台として華々しく活躍する人だけに限りません。日本社会の一隅にあって、地域の活性化やまちづくり、文化・芸術・スポーツの普及・発展などに尽力する人も含め、鋭い洞察力と豊かな人間性を備え、地球規模の視点と進取の精神をもって、世のため人のために主体的に活動する人を広く意味しています。

学問の独立、学問の活用、模範国民の造就という建学の理念の下に、早稲田大学での授業や課外活動を通じて幅広い教養と高度の専門的知見、そして豊かな人間性を身につけた、この場にいるすべての卒業生の皆さんが、世界の平和と人類の幸福を実現するため、社会の至るところで、またありとあらゆる分野で、グローバルリーダーとして大いに活躍してくださることを、心より期待して、私からのお祝いと送別の辞とさせて頂きます。

皆さん、ご卒業おめでとうございます。

早稲田大学 総長鎌田 薫

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