2012年度9月入学式 鎌田薫総長による式辞

9月22日、大隈講堂にて9月入学式が行われました。多くの留学生が参加し、早稲田大学の国際化を象徴した1日となりました。

2012年度9月入学式式辞

鎌田薫総長による式辞

鎌田薫総長による式辞

新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。

さて、本学は、いまから130年前、明治15年(1882年)に、この早稲田の地に創設されました。当時の日本は、政府によるいわば上からの近代化を進めることで、欧米に必死で追いつこうとしていました。そのために、当時の大学は、主として官僚を養成するために、欧米の制度等を学びとることを主な目的としていました。これに対し、本学の創立者である大隈重信や小野梓らは、これとは異なる理念をもっていました。それは、第1に、真の近代国家を作り上げるためには、単に制度を作るだけでは足らず、市民の一人ひとりが、自立した精神と豊かな教養を身に付け、一国の利益よりも世界全体の利益のために力を尽くそうとする高潔な人格を備えることが重要であり、そのためには自由で独創的な学問と個性を尊重した高等教育が必要であるということであります。第2には、欧米の文明に拝跪し、日本を含む東洋の文明を卑下し去るのではなく、東洋文明と西洋文明の調和を図らなければならないということであります。

このようにして、「学問の独立」と「東西文明の調和」の理念の下に設立された本学には、全国各地から、またアジアを中心とする世界各地から、個性豊かで進取の精神にあふれた若者が多く集まり、政治家・ジャーナリスト・文学者など多彩な人材を数多く世に送り出して参りました。ここでは、その中から、奇しくも同じ時代にアメリカにおいて活躍をした3人の卒業生を紹介したいと思います。

1人目は、本日、この入学式にご来臨いただきましたドナルド・キーン博士の師にあたる角田柳作先生です。角田は、1896年に東京専門学校文学科を卒業し、努力の末にコロンビア大学教授に就任しました。なかなか剛胆な学生だったようで、在学中に、坪内逍遙に向かって「シェイクスピアなんて評判ほど面白いものじゃありませんね」とうそぶいたところ、「全集も通読してないのに、そんな暴言を吐くものでない」とたしなめられました。そこで、さっそくシェイクスピア全集を読破してから、再び逍遥に「やっぱり面白くありません」と報告したと伝えられています。角田は、コロンビア大学に日本文化研究所を設立し、キーン博士をはじめ数多くの碩学を輩出して、日本学の一大拠点を形成しました。 太平洋戦争が勃発すると、角田は敵性外国人として拘留されますが、その誠意溢れる人格や同僚らの懸命の弁護により、じきに抑留を解かれ大学に戻ることができましたが、アメリカに戦争協力することは拒絶し続けたそうです。

2人目は、外交官の埴原正直です。埴原は、1897年に本学政治学科を卒業後、当時官学が圧倒的に優位であった外交官試験に合格し、外務次官を経て、46歳で駐米大使に就任しました。この間、シベリアのポーランド人孤児の救済等に尽力する一方、ワシントン会議の全権委員等として外交の表舞台で活躍しました。ところが、1924年、いわゆる排日移民法の審議に際し、その不当性を訴えるため、埴原はヒューズ国務長官あてに書簡を送りますが、その結びに書かれた言葉が、アメリカに対する威嚇であるとみなされ、これが結果的に法案の成立を駆り立てたことで、埴原は責任を取り帰国することになりましたが、最後までアメリカにおける自分への信頼の回復を信じ続けたと言われています。

3人目は、歴史学者の朝河貫一です。朝河は、1895年に東京専門学校を卒業すると、大隈重信や勝海舟らの援助によって米国留学を果たし、イェール大学教授に就任しました。外国の大学で正教授の職に就いた日本で最初の人と言われています。朝河は、その学問的な業績だけでなく、常に国際的視野に立って世界の幸福の実現に向けて労を惜しまなかったことにより、「平和の使者(Peace Advocate)」と称されるようになりました。日露戦争に際しては、全米各地で日本の立場に対する公正な理解を説いて歩き、ポーツマスでの講和会議においては両国の譲歩を促し、決裂寸前だった交渉を妥結に導く重要な役割を演じました。また、日米開戦が差し迫ったときには、戦争回避のためぎりぎりまで努力を重ねます。その誠実な生き方は世界中の人々の尊敬を集め、戦後に浅河が亡くなった際には「現代日本の最も高名な世界的学者」の死去として、世界中に打電されました。

これら3人の先生方は、日米の懸け橋として、大隈らの抱いた建学の理念を身をもって実践したということができると思います。本学では、こうした偉大な先達と同様に「学問の独立」や「東西文明の調和」をはじめとする建学の理念を体現するグローバル・リーダーを世界へ送り出すため、現在もさまざまな取組みに力を注いでいます。早稲田大学の教室で、サークル活動等を通じて、また学生寮での生活において、日本人学生と外国人学生が緊密に交流し、議論を重ねることで、さまざまな文化的背景を持ち、異なる価値観をもった人々が相互の理解を深め、自らの学識と人格を磨いていくことで、世界の平和と人類の幸福の実現に一歩一歩近づいていけるものと思います。

本日、入学式を迎えられた新入生の皆さまには、早稲田大学の長い伝統の中で蓄積された学問的・文化的資産と優れた教育・研究環境を最大限活用し、それぞれの目指すところに向かって着実に前進されるとともに、本学の建学の理念に象徴される理想を実現するための長い道のりをともに歩んでいく親友やライバルを見つけ出してくださるよう、切に希望いたします。

新入生の皆さまのこれからの大学生活が実り多いものになることを心から願って、お祝いの挨拶とさせていただきます。皆さん、本日は誠におめでとうございます。

早稲田大学 総長 鎌田 薫

以上

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/top/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる