2014年度 学部入学式 総長式辞

2014年度 学部入学式 総長式辞

総長式辞(2014.03)

鎌田薫総長

皆さん、ご入学おめでとうございます。
2014年度学部入学式にあたり、早稲田大学を代表して、新入生の皆様ならびにご列席のご家族・ご関係者の皆様に対し、心よりのお祝いと歓迎のご挨拶を申し上げます。

本日、めでたく早稲田大学に入学された学部生は、13学部合わせて総計9,666名に上ります。
本学では、毎年4月と9月に入学式を行っており、昨年9月には283名の学部生が入学していますので、本日現在の学部1年生の総数は9,949名になります。数多くの優れた若者や社会人が、世界各地から早稲田の森に集ってくださいましたことを、たいへん嬉しく思っています。

皆さんも、近年、政界・財界・言論界をあげて大学改革を求める声が高まっていることはよくご存じのことと思います。
政府の教育再生実行会議も、昨年5月の第三次提言において、大学等が、①グローバル化に対応した教育環境づくりを進めること、②イノベーション創出のための教育・研究環境づくりを進めること、③学生を鍛え上げ社会に送り出す教育機能を強化すること、④社会人の学び直し機能を強化すること、⑤ガバナンス改革と経営基盤の強化に取り組むことを提案するとともに、政府においても平成29年までの5年間を「大学改革実行集中期間」と位置づけ、速やかに具体的政策を立案・実行することを求めました。現在は、実際にこれらの提言を実現するための施策が検討され、一部は既に実行に移されるなど、急テンポで改革が進んでいます。

政財界・マスコミをあげて大学改革を強く求める動きが活発化している背景には、グローバル化が進展し、少子高齢化が急速に進む中で、わが国が国際社会において再びその存在感を示していくためには、洞察力と独創性に富み、豊かな人間性と指導力・実行力を備えたグローバル人材の養成とイノベーション創出の活性化を急がなければならないという強い危機感が存在しています。
実際にも、売上の大部分が海外との取引であり、新規採用者として日本人よりも外国人を優先させている日本企業も少なからず見られるようになっています。日本人学生の皆さんも、やがて就職するときには、外国人留学生や外国の有力大学出身者と競争をしなければなりません。日本人学生に外国人学生と対等に競争する力を身につけさせることが、今日の大学の責務であると言えるでしょう。

幸い、本学は、他大学に先駆けて、グローバル化対応のための改革を精力的に進めてまいりましたので、現在では、わが国で最もグローバル化対応の進んだ大学、わが国で最も多くの外国人学生を受け入れ、またわが国で最も多くの在学生を海外に送り出す大学となっています。
本学では、世界の主要12都市への海外拠点の設置、約660の海外の有力な大学・研究機関との交流協定、セメスター(半期)制の完全実施とクォーター(4学期)制の部分的導入を基礎として、6学部11研究科での英語の授業のみによって学位を取得できる体制を整備していることなどを通じて、昨年度実績で約4,700名の外国人学生が在籍するに至っており、その約半数が学部に在籍しています。その結果、本学では、学部の日々の授業やサークル活動で、さらには国際学生寮での共同生活等を通じてさまざまな文化的背景をもった学生たちと外国語で議論をし、異文化理解を深めることができるようになっています。
また、在学生の海外派遣に関しては、学生のさまざまなニーズに応じた多彩な留学プログラムを提供したり、外国大学で取得した単位をできるだけ本学の要卒単位に算入できるようにしたりすることで、本学在学生の海外留学を促進しており、現時点で、20%以上の学生が卒業までの間に長期または短期の海外留学を経験するようになっています。
新入生の皆さんも、是非、こうした機会を積極的に利用して、グローバル化対応能力を伸ばしてください。

このようにグローバル化対応に関する基盤整備は他に先駆けて進んできていますが、教育の本来の目的は、企業の求めるスキルを身につけさせることに止まるわけではありません。教育とは、本来、個人の有する潜在的能力を引き出し、それぞれの個人がその時々の限界に挑戦し、一生かかって能力を伸ばし続ける、そのための基礎的なスキルとマインドを涵養することにあります。
この点、わが国における教育、とりわけ高等学校教育は、大学の入学者選抜にマークシート型の客観テストが重視されていることもあって、過度に知識偏重、正解志向に傾斜してきたことを否めません。そのことが最近の若者の独創性や社会性の欠如の一因になっているという認識から、大学入試を変えることで中等教育のあり方を変えるべきだとして、近時、ほとんどすべての有力大学から入学者選抜制度の改革が提案されるようになり、教育再生実行会議が第4次提言で高大接続の在り方と大学入試制度の改革を取りあげることにもなったのです。
新入生の皆さんも、これまでは、すべての問題に唯一無二の正解があるという前提で勉強してきたかもしれませんが、現実の社会には、容易に正解を見出しがたい問題、あるいは複数の正解がありうる問題が満ちあふれています。大学では、未だ正解の見つかっていない問題にどのように取り組むべきかを学ぶことが主な課題になるのです。是非とも、皆さんも、大学入試のために蓄積した豊富な知識を知恵に転換させるよう努めてください。

本学が一昨年11月に策定した新たな将来計画 ”Waseda Vision 150”においても、学生が、問題の本質を見抜き、自ら必要な調査・分析を重ねて、仮説をたて、議論や実験を通じてそれを検証し、あるべき解決策の成案を得た上で、それを実行していく力を涵養するための教育を実現すべきであるという観点から、すべての学生が、学部の壁を越えて、実践的外国語能力・学術的文章作成力・数学的論理的思考力などの基本的なスキルの修得を前提として、幅広い教養を身につけるための真のリベラルアーツ教育の充実、大講義中心の授業から少人数での対話型・問題解決型授業への転換の加速、インターンシップやボランティアなどの体験型授業やキャリア教育を通じた社会との接点の拡大に努めているところです。
また、早稲田大学は、創立以来サークル活動その他の学生の自主的活動が極めて盛んであり、そうした活動の中での個性豊かな学生たちの切磋琢磨を通じて才能を伸ばし、人間力に磨きをかけてきたという伝統があります。

しかし、これらを十分に活用するか否かは、基本的に学生の自主的な選択に任されています。自分から積極的に探してみれば、早稲田大学には、長い伝統の中で形成されてきた学問的・文化的な資産が驚くほど大量に蓄積されていることに気づくと思います。
大学生活は、自ら主体的・能動的に学び取ろうとすれば限りなく豊かになりますが、消極的・受動的な姿勢でいるときには、なにもしないまま時間が過ぎていってしまうと言っても過言ではありません。多くの新入生諸君にとって、これから始まる学部生としての4年間は、人生において、最も自由に、自らの望むところに従ってさまざまな学びや芸術・スポーツなどに挑戦し、また、一生の宝となる貴重な人間関係を構築することのできる最後の機会となります。是非、この貴重な4年間を意義深いものにしてください。

ところで、皆さんを取り巻く社会状況を見ますと、わが国は、経済的にも社会的にも、また文化的にも、価値観が大きく変わりつつあり、大きな曲がり角にさしかかっているように思います。少々大げさな言い方をするならば、明治維新の近代化に歩み出した時代、第2次大戦後の戦後復興の時代と並ぶ、第3の大きな変革期を迎えつつあるように思います。

その最初の大きな変革の時代に、大隈重信の右腕として、本学の創立を実質的に支えた小野梓は、明治15年(1882年)の東京専門学校開校式において、「国を独立せしめんと欲せば、必ず先ずその民を独立せしめざるを得ず。その民を独立せしめんと欲せば、必ず先ずその精神を独立せしめざるを得ず。而してその精神を独立せしめんと欲せば、必ず先ずその学問を独立せしめざるを得ず」と述べています。
この開校の辞が、本学の建学の理念の冒頭に「学問の独立」が掲げられるに至った由縁でありますが、国や社会の基は国民・市民であるべきところ、その国民・市民が目先の利益に誘導されたり、時代の風潮に無批判に流されてしまったりするのでは、国民・市民の役割に期待することは全く無益となるので、学問と教育を通じて自立した精神を有する広範な国民・市民を育てていかなければならないと考えて、早稲田大学を創立したのです。この理念は、時代と地域を越えて、常に我々の胸にとどめておくべきであろうと思います。

早稲田大学建学の理念を謳った「早稲田大学教旨」は、「学問の独立」に続けて、「学問の活用」(学理を学理として究めつつ、その応用の道を講ずることによって社会の発展に寄与すること)、「模範国民の造就」(個性を尊重し、心身を発達せしめて、学問の成果を私利私欲にではなく社会全体の利益のために用い、広く世界で活動する人格を養成すべきこと)を説いており、大隈重信は、この利他的な人格の涵養こそが本学の教育の根本をなすべきであると強調しています。

日本社会が、さらには地球社会全体が大きな曲がり角にさしかかろうとしているこの時期に、次の時代、新しい時代を作り上げていくという崇高な使命を担うべき立場にある本学新入生の皆さまには、この建学の理念をかみしめて、是非とも誠実かつ真剣に学問に取り組み、学問の成果を人類の幸福のために活かしていってくださることを、切に期待しています。
皆さんの学生生活が実り多いものとなることを祈念して、私からのお祝いと歓迎の挨拶とさせていただきます。

早稲田大学 総長 鎌田 薫

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