2022年度卒業設計 稲門建築会賞
我々はどこからきてどこへ行くのだろうか。
社会や歴史は、科学的事実とは異なり、再現性のない一回きりの事象である。そして、我々は、自身をいつの間にか規定しているこの一回性のこの環境を引き受けた上で生を全うするほかない。つまり、我々の今立っている場所を知るためには、あるいは生きるためには、歴史を知るほかない。言論や映画、演劇など、様々な場所で歴史の記述への挑戦がなされている。しかしそれらは、語り部の存在からか、未だ功を奏していない。
建築の分野では、歴史をその場に遺すため、記念碑という形式がよくとられる。しかしそれは、多くの場合単一の事実を記録するのみであり、歴史の流れや事象の経緯を示すことは少ない。よって今回の計画では、非言語である建築による歴史の叙述に挑戦した。武家屋敷、代々木練兵場、ワシントンハイツ、NHKという、20世紀の日本をとりまく様々な事象を背負ったこの敷地を、時間断面で切断し、その事実のみを形態に落とし込むことで、20世紀の日本とはどのようなものであったかを非言語的に浮かび上がらせた。語り部を持たないが故にイデオロギーに縛られず、強い場所性に規定されたこの方法は、建築という分野によってのみ可能であり、同時に、全く新しい歴史叙述の方法であると思う。