2016年度卒業設計
紀伊半島・和歌山県南部、「熊野三山」と呼ばれる三つの大きな神社は三本の構成軸を有する。急峻な山岳地帯で深い森に覆われているため、自然崇拝に起源をもち、浄土思想の広まりと共に「よみがえりの聖地」として信仰を集める。
この地には、お盆に川へ灯篭を流しお見送りする祖霊信仰の風習がある。川は神聖な場で、浄土へ還る道となる。熊野古道は巡礼ルートである。熊野本宮大社は、もともと三本の川の中洲「川に浮かぶ森」であったが、明治22 年社殿が流出し現在の高台に移された。そのため忘れ去られつつある、本来の神聖な場を精神的な拠り所とし、対岸にいくつかの祈りの場を計画した。古宮・大斎原は川を渡ることで初めて、彼岸・浄土に入ることができるため、禊の橋が架けられている。かたわれどきには、西方の光を受け祈りの空間はより一層光り輝き、黄泉の国と同化する。
この地域一帯は日の光によって、あの世・この世が反転しうるのではないだろうか。その狭間の世界をつなぐ装置として、火葬炉があり、日の光が消えていくと共に、魂は橋を渡り西方の地へと旅立つ。現代の火葬は、産業的な観点から見られることが多いが、この地域には効率よりも大切なものがある。
[敷地]和歌山県田辺市本宮町
[用途]祈りの場・火葬場・宿坊・レストラン・橋