2021年度卒業設計 稲芽会賞
あの日、一瞬にして「無」へと化した広島。子どもに覆いかぶさり身代わりとなった母親。祖国のために青春と学業を犠牲にして働き、命を、未来をも失った若き動員学徒たち。そして、白紙となった都市の復興のために亡母への想いを胸に重責を担ったモダニストと、その意志を受け継ぎ強固な未来の都市ビジョンのもとに活動したメタボリストたち。崇高なる人々の精神が息づくこの地はしかし、いま、高齢者と残留孤児の孤立、若年人口の減少、人権問題などの現代社会の闇を抱えている。戦後77年経ったいまもなお、社会の片隅で苦難の境遇に置かれている人々にとって、戦争は終わったと言えるのだろうか。世界平和を訴えるこの地は果たして、平和を実現できたのだろうか。
本計画は、矛盾した現代人に対する真の平和への問いとして、メタボリズム建築の空間構成を継承し、老人介護施設、小学校、保育園、アートギャラリー等を擁する新たな造形へと昇華させることによって、人々を孤独から救う交流体験を提供し、再び、未来へと続く都市ビジョンを示すものである。