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関電×早大 産学連携で描く未来のかたち
Tue 18 Aug 26
Tue 18 Aug 26
関西電力と早稲田大学は2025年にカーボンニュートラル実現などに関する包括連携協定を締結した。1年余りが経過し、取り組みはどこまで進んだのか。今後の将来像をどう描くのか――。
関電の藤野研一代表執行役副社長、早稲田大学カーボンニュートラル社会研究教育センター所長・スマート社会技術融合研究機構会長の林泰弘教授、同大理工学術院創造理工学部社会環境工学科の森本章倫教授に聞いた。
※本記事はDOW JONES 読売新聞 Proに掲載された記事全3回分を転載したものになります。
関電と早大は包括連携協定を結んだ(左から森本教授、藤野副社長、林教授)Photo:読売新聞社
■戦略とビジョンを共有
――関電と早大が協定を結ぶに至った経緯は。
藤野氏「関電は、以前から早大の土木、建築、機械、電気など、様々な分野の先生と個別に共同研究などを行ってきた。一昨年、林教授から『包括的に一つにまとめてはどうか』と提案を受けた。当初はイメージが湧かなかったが、窓口をまとめて研究を進められるのであればありがたいと考えたのがスタートだ」
「もともと林教授とは、経済産業省の『次世代エネルギー・社会システム実証事業』の時代からつながりがあった。早大に設置された『スマート社会技術融合研究機構(アクロス)』に我々も当初から参画し、リソース・アグリゲーションのビジネスモデルなどを共に検討してきた。そうした関係性をすべてまとめ上げ、半年ほどかけて全体像を構築していった」
関電の藤野副社長Photo:読売新聞社
――関電と協業する意義や魅力は。
林氏「私は2009年に早大に着任し、それ以来ずっと関電と共同研究を続けている。特に14年頃からは、藤野副社長らが法人営業部門で取り組んでいたデマンド・レスポンス(需要応答)の仕組みづくりに共に取り組んできた。『我慢する節電』ではなく、ビジネスとして成立する節電の仕組みをゼロから構築し、現在のビジネスモデルへとつなげてきた信頼関係が基盤にある」
「早大には『一身一家、一国のためのみならず、進んで世界に貢献する抱負が無ければならぬ』という精神がある。単にCO2を減らすだけでなく、教育・研究・貢献の三位一体で社会に貢献するというビジョンだ」
「22年12月にカーボンニュートラル社会研究教育センターを総長がスタートさせた際、これまでの個別に行われていた共同研究ではなく、早大と関電のトップ同士が自ら方針をすり合わせ、大きなビジョンと戦略を共有して包括的な共同研究を行うことになった。カーボンニュートラル社会の実現には、社会インフラ企業である関西電力の存在は不可欠だ」
早大の林教授 Photo:読売新聞社
森本氏「私の専門は都市計画や交通計画だ。特にエネルギー消費量を抑えた持続可能なまちづくりを研究テーマとしている。これまでは個別の研究を進めてきたが、林教授のプロジェクトに携わる中で、脱炭素の実現には『分野横断』が絶対に必要だと痛感した。交通だけでなく、土地利用や電力など様々な分野を掛け合わせなければならない。そうしたフレームワークの中で、今回の包括連携の提案をいただき、私の専門分野でも協力できると考え参画した」
■モビリティとエネルギーの融合
――早大は首都圏、関電は関西圏にある。意外な組み合わせという受け止めもあるのでは。
林氏「地理的な要因よりビジョンの合致が重要だった。各電力会社で電源構成や戦略は異なるが、関電は原子力発電を活用しており、カーボンニュートラルの実現で明確な強みを持つ。単なる電力供給だけでなく、森本教授が提唱する『シェアリング』の概念を取り入れ、最先端の暮らしやまちづくりを志向するという点で両者の思いが一致した」
「森本教授は宇都宮市のLRT(次世代型路面電車)導入を主導した研究者だ。行政や住民を巻き込みながら社会実装を進める『都市計画のプロフェッショナル』だ。モビリティとエネルギーを融合させた新しいまちづくりを実践できる」
森本氏「まちづくりや都市計画における基礎的な技術は、東日本か西日本かといった地域性には縛られない。我々が構築しようとしているのは、日本全国、あるいは海外でも通用する『分野横断型の共通技術』だ。もちろん、社会実装して地域に落とし込むには、地域の特性に合わせたデザインやコーディネートが必要になるが、スタート段階では共通する技術基盤が極めて重要だ」
早大の森本教授 Photo:読売新聞社
藤野氏「関電の強みという点では、水力や原子力といったゼロエミッション電源を安定的に提供できることが挙げられる。これを早大が構想するスマートシティに提供すれば、『完全にカーボンニュートラルな街』を実現できると考えた」
「さらに、早大と組む魅力は、各分野のトップランナーである研究者がそろっていることだ。国の審議会委員や学会の重鎮を務める先生方が集結しており、その発信力や知名度は圧倒的だ。早大とタッグを組む意義は極めて大きい」
■「関電は東へ、早稲田は西へ」
――あえて「包括連携協定」という形を作って対外的に発表した狙いは。
藤野氏「窓口を一本化するという実務的なメリットに加え、やはり『早大と組み、新しい社会実装を進めていく』ということを世の中に広く公表するPR効果が大きい。『関電は東へ、早稲田は西へ』というキャッチフレーズを作り、社会に対する強力なメッセージとして発信したかった」
林氏
「大学側も変わらなければならないという危機感があった。社会課題が巨大化し、複雑化する中、もはや一人の教員が自らの専門分野だけで解を導き出せる時代ではない。モビリティ、電力、行動変容、経済、法律など、すべての知見を結集し、チームで取り組んで初めて解決の糸口が見える」
「特に災害時のレジリエンス(強靱性)を考えると、太陽光、蓄電池、電気自動車(EV)、ヒートポンプ給湯機などを組み合わせ、住民の暮らしを守る仕組みが必要だ。実現には様々な専門家が連携する必要がある。早稲田大学が『ファーストペンギン』としてモデル構築に挑戦し、アグレッシブでフットワークの軽い関電と組むことで、かつてない推進力が生まれる」
森本氏「大学の研究者は基本的に自分の特定分野に閉じこもりがちで、研究費を獲得する際も縦割りになりやすい。しかし、今回の包括協定を一つの契機として、これまで接点のなかった全く分野の違う教員同士が横につながり、同じ方向へ向かって走れるようになった。大学にとって非常に大きな成果だ。『分野横断』と口で言うのは簡単だが、目的が共有されていなければ意味をなさない」
――とはいえ、大学の教員を束ねるのは至難の業ではないか。
林氏「そこで機能しているのが『アクロス』という研究機構だ。ここには理工系の教員だけでなく、政治経済学、社会科学、商学などの人文社会科学系の教員も多数参加している。大学が正式に承認した組織であり、私が機構長を務めていた際に森本教授らを研究所の所長に迎えるなど、信頼できるネットワークをもとに人選を行った。大学の教員は独立性が高いが、『この先生と組めば、何か面白いこと、新しいことができる』という純粋な知的探求心と共鳴によって結びつく。早大内の『最強チーム』の一つができたと自負している」
藤野氏「企業側としても、その熱量を受け止める体制を整えている。特に政治経済など文系の先生方との共同研究は、我々電力会社にとって初めての経験であり、非常に新鮮だ。例えば、住民の行動変容や社会受容性に関するアプローチなど、技術だけでは解決できない側面を補ってもらえるので、非常に面白い化学反応が起きている」
■「スマートシェアリングタウン」実証へ
――今回の大きなテーマである「スマートシェアリングタウン」はどのようなまちづ
くりなのか。
森本氏「これまで社会は、個別の技術の最適化や、個人の便益の最大化を追求してきた。交通で言えば、個人が車を所有し、空間を占有するようなやり方だ。しかし、これからの環境問題や社会課題に対応するには、単独の分野が特化するのではなく、社会全体の資源を上手に『共有』していく社会が望ましい。『スマートシェアリング』という概念は、限られた資源を分割し、個人や企業の便益を高めながら賢く共有していく仕組みだ。無駄を省き、持続可能なエコシステムを構築することが最終的な目的となる」
藤野氏「この構想を、我々はまず福井県高浜町やおおい町といった、比較的小さな自治体から実証していこうと考えている。2026年6月に、高浜町において関電、早大、福井大学の三者でスマートシェアリングタウンの実現に向けた連携協定を結んだ。昨年から進めてきた研究成果を、ついに実際の地域社会へ落とし込む体制ができあがったところだ。大都市を一気に変えるのは難しいため、まずは地域に根ざした小さな町こそ、将来あるべき町の姿への変革のチャンスがあると思うので、一緒に取り組めたらと思う」
関電と早大が構想するスマートシェアリングタウンのイメージ図 Photo:関西電力提供
■「暮らしのレジリエンス」高める
――様々な技術や分野がある中で、何から手をつけていくのか。
森本氏「まずは『エネルギー』と『モビリティ』の掛け合わせから始めている。エネルギーの専門家と、私のようなまちづくりの専門家が基礎技術を持ち寄り、分野を融合させることでどのような相乗効果が発現するかを探っている。これは10年単位の長期的なプロジェクトだ。すべてを一度に作ろうとすると破綻するため、強い分野を連携させながら、徐々にシェアリングの考え方を広めていく」
――この地域には原子力発電所がある。
林氏「私の出身は福井県で、高浜町やおおい町の地域事情はよく理解している。高齢化が進む地域では、通院に必要なバスなどの移動手段が不足しているという深刻な課題がある。我々が目指すのは、単に太陽光パネルを設置して終わりという机上の空論ではない。住んでいる高齢者や子どもたちが、いかに幸せに暮らせるかという視点から『暮らしのレジリエンス』を高めることだ」
「EVを『走る蓄電池』としても考え、必要な時にエネルギーを無駄なく分け合う。自治体に過度な費用負担をかけずに運用できる、持続可能なエコシステムをデジタル技術で作り、森本教授が提唱するシェアリングの概念を導入することで、『この仕組みのおかげで暮らしに困らなくなった』と住民が慣れ親しんだ土地で安心して暮らしていけるビジョンを描いている。モデル構築が成功すれば、日本のどの地域でも応用できる可能性がある」
森本氏「分かりやすい例えをすると、デパートの『エスカレーター』だ。エスカレーターに乗るたびにお金を払う人はいない。デパートもエスカレーター自体では儲からないが、それが移動の足として機能することで、建物全体での経済効果が高まるから無料で提供できる。モビリティやエネルギーもこれと同じだ。社会の中に必要な足や基盤として適正に提供・シェアすることで、社会全体が豊かになり、結果として利益が循環するシステムを目指している」
藤野氏「関電の強みとして、グループ内に不動産会社を持っている点が挙げられる。早大と研究したスマートシェアリングの概念を、我々が保有する実際の土地や施設を使って実装し、提供することができる。最終的には、学問的な研究を具体的なビジネスやインフラとして社会に定着させていくのが我々の役割だ」
■先端技術がいかに市民生活に溶け込むか
――まちづくりにおいて、原子力発電はどう位置づけられるのか。
森本氏「シェアリングという言葉には、『共有する』という意味と同時に『適正に分担する』という意味がある。都市計画の観点から言えば、一つのエネルギーソースや特定の企業に強く依存する『企業城下町』のような構造は、社会情勢が変化した際に極めて大きなリスクを抱えることになる」
「エネルギーも同様で、多様なエネルギーソースが存在し、それぞれの強みと弱みを補い合う仕組みが必要だ。将来的には自然エネルギーだけで暮らしていける社会が理想かもしれないが、そこに至るまでのトランジション(移行期)において、原子力発電は一定の重要な役割を果たすと私は考えている。原子力発電と共存し続けてきた高浜町だからこそ、新しいエネルギーのあり方を示すスマートシェアリングタウンの出発点として、非常に大きな価値を持つ」
林氏「AIの普及やデータセンターの増設に伴い、日本の電力需要は今後、増加に転じると見込まれる。カーボンニュートラルの実現とエネルギー安全保障の強化を両立する上で、安定供給を支える脱炭素電源として、原子力発電の重要性は揺るがない。ただし、その活用に当たっては、安全性の確保を最優先とし、立地地域の理解と協力を得ることが大前提だ。その上で、原子力発電所を単なる電源として捉えるのではなく、地域住民の暮らしの向上や医療関連支援の充実など、地域の持続的な発展を支えるまちづくりと一体で位置づける必要がある」
――将来的に、水素エネルギーの活用やワイヤレス給電といった次世代技術の実装も視野に入れているのか。
藤野氏「水素については、社会にどこまで受け入れられる状況になるか未知の部分があるが、将来的に原子力発電由来の電力を使ったクリーンな水素を活用する可能性は当然あり得る」
森本氏「技術の社会実装において最も重要なのは、『技術の進歩』と『社会の受容性 』のバランスだ。ワイヤレス給電や自動運転など、どれほど優れた技術であっても、市民がそれに恐怖を感じたり、拒絶したりすれば社会には根付かない。だからこそ、政治学や社会学の専門家にもプロジェクトに入っていただき、先端技術がいかにして市民生活に自然と溶け込むか、その社会的なデザインをセットで提案している」
■EVバスのワイヤレス給電「まちづくりに大きな示唆」
――関西万博でも様々な次世代技術が展示されていたが、そこからのフィードバックの可能性は。
林氏「大いに期待できる。万博で展示されていたEVバスのワイヤレス給電は、モビリティとエネルギーを一体で考える今後のまちづくりに、大きな示唆を与える技術だった。将来、非接触による双方向の充放電が実用化されれば、建物のそばに車を停めるだけで、車両への充電と車両から建物への給電が可能になる。太陽光発電の余剰電力が生じる日中に車両へ蓄電し、電力需要が高まる時間帯には車両から建物へ給電する。こうした電力需給に応じた充放電制御によるデマンドレスポンスの仕組みが社会インフラとして当たり前になるのではないか」
森本氏「万博のような場は、『空飛ぶクルマ』のような夢の技術を市民に体感してもらうことで、社会の意識を変える大きな価値がある。それが直ちに全国の空を飛ぶわけではないが、意表を突く技術を見せることで人々の想像力を刺激し、社会実装への土壌を耕す役割を果たしたと思う」
藤野氏「関西経済連合会でも「万博のレガシーをどう生かすか」が最大のテーマとなっている。万博で実証された様々な先進技術を、まさにこのスマートシェアリングタウンの中で社会実装していく。それが我々の次のチャレンジだ」
■「暮らしのエネルギー安全保障」
――日本のエネルギー安全保障はどうあるべきか。
林氏「現在、日本のエネルギー自給率はわずか16%程度にとどまっている。国内電源の確保や燃料調達先の多角化は当然進めなければならない。その上で、私は『暮らしのエネルギー安全保障』』という視点を強調したい」
「2024年度末までに各家庭へのスマートメーターの設置はほぼ完了しており、電力使用量の自動計測が行われている。今後は、スマートメーターが備える通信機能を活用し、電力の需給や料金の情報に応じて、家庭内のエネルギー機器が生活の利便性を損なうことなく自動で応答するデマンドレスポンスを推進すべきだ。例えば『明日は太陽光発電による電力が余るため、電気料金が安くなる』という時には、家庭内の機器がスマートメーター経由でシグナルを受け取る。それに応じて、ヒートポンプ給湯機はお湯の沸き上げ時間を自動で調整し、蓄電池やEVは自動で充電する」
「余剰電力を効率よく使い切る仕組みが必要だ。停電時には蓄電池やEVが電力供給源となり、家庭で電気が使用できる。家庭や地域が電力を賢く使い、蓄え、融通し合うことで、エネルギー価格の高騰や停電、厳気象など、外部環境の変化に耐えられる暮らしの基盤をつくる。それこそが、これからの『暮らしのエネルギー安全保障』だと考える」
森本氏「エネルギー安全保障には、供給側の『安定供給』と、需要側の『賢い使い方』という二つの視点が必要だ。同じエネルギーをどう効率的に使うか。例えば、コロナ禍でオンライン授業が普及したが、100人の学生がそれぞれの自宅で個別にエアコンを稼働させるのと、大学の1つの教室に集まって1台のエアコンをシェアするのでは、どちらが本当に環境に優しいのか」
「大量にエネルギーを消費し続けながら、安定供給だけを国や企業に求めるのは筋が通らない。市民の側も、『足るを知る』という価値観や、空間や資源をシェアして賢く使う行動変容が求められている」
藤野氏「電力会社としては、安定供給に加え、『できるだけ安価な電力』を供給し続けるという重い責任がある。電気代が高騰すれば、日本の産業は海外へ流出してしまう。数年前まで、省エネや人口減少で電力需要は減っていくと思い込まれていた。だが、ここに来て半導体工場やデータセンターの急増により、逆に電力が逼迫するリスクが顕在化している」
「サプライチェーンの断絶や地政学リスクに対し、我々もリスク管理を徹底しているが、一企業・一業界の努力だけでは限界があるのも事実だ。国全体で、今後のエネルギーのあり方を正面から議論しなければならないフェーズに来ている」
藤野研一・関電代表執行役副社長
1989年、早大大学院理工学研究科修士課程都市工学専攻修了、関電入社。2020年、執行役員営業本部副本部長兼法人営業部門統括、21年執行役員関電不動産開発出向、24年執行役副社長。
森本章倫・早大理工学術院/社会環境工学科教授
1989年、早大大学院理工学研究科修了。マサチューセッツ工科大学研究員、2012年、宇都宮大学大学院工学研究科教授。専門は、都市計画、交通計画。
林泰弘・早大理工学術院/電気・情報生命工学科教授
1994年、早稲田大学大学院理工学研究科博士課程修了。2022年、早大スマート社会技術融合研究機構(ACROSS)会長、カーボンニュートラル社会研究教育センター所長。専門はエネルギーマネジメントシステム。

