School of Humanities and Social Sciences早稲田大学 文学部

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「1300年前の日本語と人間を知る」文学部 澤崎文専任講師(新任教員紹介)

自己紹介

私の専門は、古代の日本語の文字・表記です。幼い頃から、言葉や漢字は好きだったのですが、それと同じくらいに動物・植物問わず生き物が大好きでした。自然が豊かなところで育ったので、蝉の羽化を観察したり、草花で色水を作ったりして遊んでいました。

高校時代は、生物学者か獣医師になるのもいいなと思い、理系に進もうか文系に進もうか迷いました。しかし最終的には、国語の授業で文章を読んで考えることが楽しいという気持ちが強く、文系を選びました。国語に関することを仕事にできたら幸せだと思い、国語教師か研究者になろうと考えて早稲田の第一文学部へ進学しました。

大学では日本古典文学を専攻しようと思っていたのですが、『万葉集』の原文が「春過而 夏来良之 白妙能 衣乾有 天之香来山」(はるすぎて なつきたるらし しろたへの ころもほしたり あめのかぐやま:巻1・28番)のようにすべて漢字で書かれていることを知り、どうなっているんだこれは!?と興味をもったのがきっかけで日本語学の世界へと足を踏み入れました。今思えば、人間という生き物がどのようにして言葉を使っているのかに強い関心があったのだと思います。今でも動物や植物は大好きですし、子供の頃からあまり変わっていないようです。

私の専門分野、ここが面白い!

私が研究対象とする古代日本語の中でも、奈良時代以前を指す上代と呼ばれる時代にはまだ平仮名や片仮名がなかったので、先ほどの『万葉集』のように漢字だけでことばを書き表していました。その中には「良之」(らし)のような万葉仮名も使われており、私はこういった表記が当時どのように捉えられ、どのように実現したのかを研究しています。

写真1:埼玉県稲荷山古墳(2018年夏撮影)。ここから出土した鉄剣は西暦471年のものかとされる。 銘文には「獲加多支鹵」(ワカタケル)という人名が刻まれており、万葉仮名の古い用例として貴重である。

 

万葉仮名を使った上代の表記システムには、現在とは異なるものが見られます。たとえば現代はガギグゲゴなどの濁音を表すため、清音の仮名に「゛」(濁点)を付けますが、万葉仮名では清音の「可」(カ)に対する濁音の「我」(ガ)のように字の形そのもので書き分けることがありました。ただし、全ての万葉仮名資料でそのように書き分けられているわけではなく、「可」でカにもガにも併用してしまうような表記システムを採用している資料もあります。このように、「万葉仮名」と一口にいっても資料や時代ごとに性格の違うものが使われているのです。どのように書かれているのか?なぜそのように書かれているのか?資料の性質や表記システムを明らかにしていくことは、暗号の解読のようにスリルがあります。

基本的な作業は文献に現れた文字をひとつひとつ拾って分類していくというとても地味なものですが、地味な作業の後、条件ごとに法則や傾向がないか調べたとき、世界中で自分しか気づいていないんじゃないかと思える新たな言葉の法則を発見すると、とてもわくわくします。そして、そのような法則が現れる理由を考察するのが研究の醍醐味です。それが他の人のこれまでやってきた研究と関連づけられたりすると、つながった!という感じがしてさらに充実感があります。

私が扱う資料は、今から1300年ほど昔の言葉を反映したものですが、時間や空間に隔たりはあっても、そこに生きた人々の営みに触れられることに感動します。そこには現代と通じるところも異なるところもあり、たまたま生きる時間と場所が違っただけの同じ人間として、その多様なあり方を見ることができると考えています。

 

 

写真2:江戸時代の国学者、春登による『万葉用字格』。『万葉集』に使われた文字が用法ごとに分類されている。

プロフィール

1985年生まれ。福井県出身。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。早稲田大学文学学術院助手、宇都宮大学教育学部講師を経て、2019年4月より現職。専門は日本語学・国語学。

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