文学部長 谷口 眞子
大学は、小学校以来の長い学校生活の最終段階にあたります。一部の学生は大学院に進学しますが、多くは卒業して社会人となり、旅立っていきます。どのような仕事につき、どのような人生を送るのかは、皆さん次第です。社会人としてたくましく生きていけるように、文学部の4年間では、領域横断的な教養(ヨコ)と、専門性に裏づけられた深い洞察力(タテ)を身につけていただきたいと考えています。一言でいえば「T字型人間」を目指して欲しいと思っています。
近年では、オンラインでさまざまな情報が手に入るようになりました。日本の国立国会図書館やフランス国立図書館の電子図書館Gallicaでは、所蔵図書の一部を閲覧することができます。早稲田大学は図書館サービスが充実しており、学術情報検索で多分野の事典・辞書を使えるほか、研究論文をみることもできます。検索技能があれば、あるテーマについて関連する資料や論文を調べ、幅広い教養を身につけるのは、さほど難しいことではありません。ヨコに広げることは比較的簡単になったのです。
しかしながら、ネットで入手できる知見には限界があります。現代人はネット上の膨大な情報に圧倒されがちですが、実は長い学問的蓄積のうち、ネットでみられるのはほんの一部にすぎません。さらに問題は、集めたデータ・素材をどのように理解するかということです。興味をもってある事柄を調べていて、いろいろ知ることはできたけれども、全体像がますます見えなくなった、という経験は皆さんにもあるでしょう。キーワード検索で大量のデータを集めたり、隣接分野の研究成果を調べたりしても、それは、スーパーで買ってきた食材を並べたようなものです。素材の切り方や味つけの調理法を知り、その技術を身につけなければ、一品のおかずすら提供できないのと同じく、ある問題を考察するには、専門分野の基礎的考え方や分析手法を学び、過去の研究成果を知り、深い洞察力を身につける必要があります。
文学部は18コースに分かれており、皆さんの問題関心に合わせて専門を選ぶことができます。1年生で、さまざまな分野の本を読んだり資料を探したりしながら、興味のあるテーマをみつけ、2年生からコースに進級して、専門的に学べるスタイルです。そして、文学部の最大の特徴は、なんと言っても卒業論文です。文学部での学びの集大成、それまでの「あなた」の人生を凝縮したもの、それが「卒論」です。
ヨコにもタテにも長い「T字型人間」になれるよう、実り多き学生生活を送って下さい。