School of Humanities and Social Sciences早稲田大学 文学部

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「お寺の蔵からAIまで」文学部 師茂樹教授(新任教員紹介)

自己紹介

子どものころから哲学や宗教に関心があり、高校生の頃には、当時“現代思想”っぽかった仏教が学べる大学に行きたいと思うようになっていました。縁あって入学できた早稲田大学第一文学部では、迷わず東洋哲学専修(現在の東洋哲学コース)を選びました。

私は、一つのことにのめりこむタイプというより、あれもこれもやってみたいと思うタイプですので、第一文学部の授業の多様さや、東洋哲学専修で仏教だけでなく儒教・道教・神道などを横断的に学ぶことができたのは、よかったと思います。また、早稲田大学では、当時始まりつつあったコンピュータを使った仏教研究についても学ぶことができました。“現代思想”に対する関心も続いていましたので、インド哲学や中国哲学、歴史学を学ぶ友人たちと、デリダ、ブルデュー、ヘイドン・ホワイト、ドミニク・ラカプラなどの勉強会をして、過去や他者を扱う研究について、その方法を批判的に見直す、といったことも議論していました。

筆者は会津磐梯山のふもとで育ちました。
平安時代初期、この地で最澄や空海と論争をした徳一という学僧を卒業論文のテーマで選んで以来、ずっと研究し続けています。

 

私の専門分野、ここが面白い!

私の専門分野は、一言で言えば「仏教学」です。その名の通り、仏教について研究する学問領域です。もうちょっと限定すると、日本を中心とした東アジア仏教研究となります。東アジア仏教というのは、インドの言葉から漢文(古典中国語)に翻訳された仏典をベースに、主に漢文を用いて発展した仏教のことです。

この分野の魅力は、身も蓋もなく言ってしまえば、文献に書かれていることがおもしろい、ということです(他の哲学・思想・宗教研究と同じだと思います)。何百年も前の“天才”たちに、漢文資料を通じて出会うことができるのは、本当にありがたいことです。

それとともに、この分野の大きな魅力は、様々な研究方法があるということだと思います。たとえば、東アジア仏教は日本で盛んに学ばれましたので、まだ研究されていない写本などが各地に残されています。仏教学者たちは、寺院や博物館の収蔵庫などに入れていただき、時には埃まみれになったりしながらコツコツと調査をしています。ありがたいことに私は、日本だけでなく、中国や韓国、そして欧米でも資料調査をする機会に恵まれました。先人の残した文化遺産を後世に伝えるという意味でも、重要な仕事だと思っています。

韓国の研究者と、仏教写本にある角筆(先が尖った器具を用いて紙に記号や文字を記入したもの)の調査をしている様子。

一方、この分野は資料のデジタル化が進んでおり、意外に思われるかもしれませんが、日本の人文学のなかでもコンピュータ利用が盛んな分野です。データサイエンスやAIを用いた文献解析なども行われており、情報科学をはじめとする他分野の研究者との交流も盛んです(私もその関係で、携帯電話の顔文字――😅とか😲とかです――の国際規格化に携わったりしました)。

コンピュータを使って漢文資料の研究をするために、他の研究者と協力しながらいろいろなツールを自作しています。

また最近では、AI・ロボット開発や再生医療の発展によって「人間のようなもの」「生き物のようなもの」が普及し始めています。私は、そういったものの倫理的課題について、仏教の視点から考えるとどうなるか、といったことにも取り組んでいます。倫理というのは、個々の文化・伝統が持つ多様性を考慮すべきである一方、地域・時代などを超えた普遍性も求められるものです。仏教はアジアの文化・伝統の背景であると同時に、世界宗教としての普遍性も持っていますので、仏教倫理に基づく提言が求められているのです。

このような感じで、お寺の蔵からAIまで、文化財保護からELSIまで、幅広い研究の選択肢があり、世界中の研究者と連携しながら研究できるのが、この分野の魅力かと思います。あれもこれもやってみたい私自身が、日々この幅の広さを楽しんでいます。

 

プロフィール

もろ しげき。早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒業(サークルは早稲田大学・日本女子大学室内合唱団)。東洋大学大学院文学研究科仏教学専攻博士後期課程単位取得退学。博士(文化交渉学・関西大学)。花園大学専任講師、准教授、教授を経て、2025年4月より現職。日本学術会議連携会員(第26–27期)。

専門は、日本仏教・東アジア仏教の思想。学部時代に、石井公成氏(現駒澤大学名誉教授)から仏典のテキストデータベースを紹介されたのをきっかけに、人文学におけるコンピュータ利用の研究(デジタル・ヒューマニティーズ)・開発にも従事。

主な著作として、『論理と歴史: 東アジア仏教論理学の形成と展開』(ナカニシヤ出版、2015年)、『最澄と徳一: 仏教史上最大の対決』(岩波書店、2021年)など。

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