草間彌生美術館館長・建畠氏が語る「草間彌生の世界」
10月18日（木）、「早稲田地域Museum企画 草間彌生の世界－草間彌生美術館の設立を記念して－」が開催されました。草間彌生美術館館長の建畠晢氏に、制作の秘話や作品の放つ魅力について独自の視点でお話しいただき、大変貴重な時間を過ごすことができました。
精神的オブセッションから創造する
幼少期より、幻覚や幻聴の恐怖、精神的な強迫観念〈オブセッション〉に苛まれていたという草間さん。スライドに映し出された幼少期の作品には、既に「ドット」や放射状に広がる「ネット」が描かれていました。「迫りくる恐怖から逃れるためにその世界をあえて描き出し、精神的な負荷を解消していた。これは草間さんの創造の原点である。」
草間彌生と速水御舟
草間さんは京都の美術学校で日本画を学んだ時期があるそうです。後に建畠氏が「日本画からはどのような影響を受けられたのか」と尋ねたところ、「日本画は何も知らないし影響は受けていない。だけど速水御舟は私のライバルよ。」とのこと。
建畠氏は二人の共通点について、「御舟は“まぼろし”を見る画家だった。彼の不穏なまでの細密な描写は、草間さんの何かを幻視し描き出す力と共通する。御舟の作品と草間さんの初期の作品には共通して〈不思議なリアリズム〉を感じる」と述べました。
曖昧で心地よい空間
草間さんの代表作の一つ『無限の網』シリーズ。建畠氏によると、「網目一つ一つの決して均等ではない模様やさまざまな色の濃淡が、水平方向に優美な揺れを誘い、しかしながら背景色にも工夫がされていることから、画面奥に広がる揺蕩い（たゆたい）と共に心地良い振動やゆらぎを見るものに与えている。」「この作品はエナジーが吹き荒れており、とても崇高なものに感じる。私の大好きな作品の一つだ。」
たった一つの原理から
草間さんは、2004年からは白のキャンバスに黒いフェルトペンで描いたモノクロ作品シリーズ『愛はとこしえ』を、現在は2009年から続くカラフルに富む最新作『わが永遠の魂』シリーズを制作しています。このシリーズは現在550点を超えており、しかしながら制作意欲は落ちることなく、作品によっては2、3日で1枚を仕上げることもあるそうです。
建畠氏は「草間さんの幼少時代から現在に至るまで、ある一貫した原理によって作品が作られている」と言います。それは「無限の反復」。
「〈オブセッション〉に駆られ描かずにはいられない。彼女は飽きることもなく、またうんざりすることもなく、単調な作業＝〈無限の反復〉ができる。これは誰にも真似できないことである。そしてこれまでのペインティングはもちろん、版画や彫刻、映像、パフォーマンス、小説など一人のアーティストとしては考えられないほどの分野を手に入れ作品を生み出した。たった一つの原理からこれだけ豊穣な世界が沸き上がることは驚異だ。」
世界を救済する、愛
「人々を惹きつける不思議な魅力について、それは自己を救済するための創作活動が、実は他者の救済へつながっているところにある。」
「〈オブセッション〉がアーティストと人々のコミュニケーションの基盤をつくる、即ち自己の心理的闇や不安、特異なことを開放的に表現することによって、人々は作品との間にある何かしらの壁を取り払い、作品やアーティストと心を通わせることができる。さらに作品に惹かれてしまうのには、草間さんは自己の救済のみならず全ての人への同時救済を願い、作品を通して彼女の大きく深い愛に包まれることができるからだ。」
最後に
草間彌生美術館は早稲田大学の近隣に位置しています。「早稲田地域Museum企画」として今回の講演会が開催されました。今後も早稲田地域での連携を深め、文化や芸術の普及活動に貢献したいと考えております。
今回貴重なお話をいただきました建畠館長、ご協力いただきました草間彌生美術館スタッフの皆さま、またご参加いただきました皆さま、誠にありがとうございました。
草間彌生美術館は、事前のオンライン予約でのみ、館内をご覧いただけます。当日券はありません。詳しくは草間彌生美術館Webサイトをご覧ください。
問い合わせ先
早稲田大学 文化推進部 文化企画課（TEL：03-5272-4783（月-金9:00-17:00））
