リケジョ高校生、蚕が食べるクワの葉に植物の宝石「プラントオパール」を発見 本庄高等学院の高校生の論文が国際的植物専門誌に掲載へ

早稲田大学本庄高等学院の筒井音羽(つついおとは、研究開始時高校3年、現早稲田大学政治経済学部2年)さん、坂本玲(さかもとれい、研究開始時高校2年、現早稲田大学教育学部1年)さん、尾林舞香(おばやしまいか)さん、山川冴子(やまかわさえこ)さん(ともに現高校3年)、半田亨(はんだとおる)教諭、東京大学物性研究所松田巌(まつだいわお)准教授らの研究グループは、蚕が食べるクワの葉の中に植物の宝石「プラントオパール」を発見しました。さらに、葉の中のプラントオパールの分布が不均一であることを突き止め、そこから一ノ瀬クワの成長機構を明らかにしました。

プラントオパールはケイ酸の結晶で、植物が水と共に取り込んだ土中のケイ酸イオンから形成されます。その特徴的な形と物質の安定性から植物分類学や考古学などに利用されています。葉の成長に伴って、プラントオパールの元素組成や形状の変化を分析することにより、植物が根から吸収した物質の循環を知ることができ、植物の成長のメカニズムの解明に寄与します。

早稲田大学本庄高等学院は、スーパーサイエンスハイスクールとして文部科学省から指定されており、2010年より有志生徒がキャンパスに自生するクワの葉を対象に研究に取り組んできました。本研究は高校生自身が論文執筆を手がけ、教員の協力のもと、国際的な植物専門誌『Flora』に掲載されることになった快挙でもあります。

本庄高等学院は富岡製糸場で知られる群馬県とともに養蚕業が盛んな埼玉県北部に位置しており、今年度よりプラントオパールが蚕に与える影響の調査も開始しています。プラントオパールは蚕の食欲誘因物質の1つと言われています。今後は蚕の食欲増進や絹の増産につながる研究にも着手していきます。

なお、今回の研究成果は、オランダ系の植物学専門誌『Flora』オンライン版に、11月26日(現地時間)に掲載されました。

掲載論文:Light and SEM observation of opal phytoliths in the mulberry leaf
著者:O. Tsutsui, R. Sakamoto, M. Obayashi, S. Yamakawa, T. Handa, D. Nishio-Hamane and I. Matsuda

リケジョ高校生、蚕が食べるクワの葉に植物の宝石「プラントオパール」を新発見
早稲田大学本庄高等学院の高校生の論文が国際的植物専門誌に掲載へ

(1)これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

植物では種類によって鉱物をその内部に生成することがあり、その1つに植物オパールがあります。植物の遺伝や環境によって、このオパールの形は異なり、さらに物質として丈夫であることから、古くから植物の分類学から考古学まで広く利用されてきました。最近では、顕微鏡技術の発展から、その機能性や成長過程の研究が実施されるようになってきました。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

植物の中には1個体に形の異なる葉が存在する「異形葉性」という特徴を持つものがあります。クワは1つの木あるいは同じ枝であっても深い切れ込みをいくつか持つ葉と切れ込みのない葉のバリエーションが豊富で、この性質の顕著な植物として知られています(図1参照)。早稲田大学本庄高等学院ではスーパーサイエンスハイスクール(以下、SSH)として、2010年からキャンパスに自生するクワの葉を対象に有志生徒が「異形葉の規則性」の研究に取り組んできました。当初は、統計的な規則性を見出したのち、それが、異形葉が生じるメカニズムの解明につながればと考えていました。

2013年、その継続研究をしていた際、生徒の筒井音羽さん(当時高校3年)が光学顕微鏡で葉を観察したところ、大きさ50マイクロメートルの透明な鉱物があることを発見しました。そこでその鉱物を同定するためにSSHの運営指導員をしていた東京大学物性研究所松田巌准教授に依頼したところ、電子顕微鏡による元素分析の結果、鉱物は植物の宝石「プラントオパール」であることが分かりました(図2参照)。プラントオパールはケイ酸の結晶で、植物が水と共に取り込んだ土中のケイ酸イオンから形成されます。その特徴な形と物質の安定性から植物分類学や考古学などに利用されています。イネ科植物の葉におけるそれは良く知られていますが、蚕のエサである一ノ瀬クワの葉の中でのプラントオパールの観測は本研究が初めてでした。

早稲田大学本庄高等学院ではSSHの生徒たちが5年間に渡ってクワの葉を継続的に研究し(図3参照)、本発見と共に葉の中の空間分布の決定とオパールの成長機構の解明を行い、そして自ら論文を執筆して今回、国際的な植物学専門誌Floraに投稿して発表に至りました。

(3)そのために新しく開発した手法

 特にありません。

(4)今回の研究で得られた結果及び知見

今回の研究で蚕のエサとして知られる一ノ瀬クワの葉の中にプラントオパールを初めて観測し、さらに葉の中での分布も明らかにしました。プラントオパールの成長過程については、受動的か能動的か議論があり、最近では原因物質での論文も発表されました。現在のところ、各植物の状況証拠が世界的に求められており、本研究は日本を代表して我が国の一ノ瀬クワについて、国際植物誌に発表するものです。ミクロ領域の顕微鏡では、今回の結果は受動的であることが分かりました。

(5)研究の波及効果や社会的影響

下記、「(6)今後の課題」で述べているように、クワの葉におけるプラントオパールの存在が絹の増産につながる可能性があり、ひいては日本の絹産業振興のキーとなるかもしれません。クワの葉を灰化し、分離したプラントオパールをクワの葉に添加したものを蚕に食べさせる実験を今年から開始していますが、プラントオパールの分離がうまくできていません。この実験がうまくいけば、クワの葉のプラントオパールが化学的に合成できた場合、それをあたかもご飯のフリカケのように使って蚕に与えることにより絹の増産が可能になります。

また、理科離れがささやかれる中、今回、ごく普通の女子高生達が2000枚以上ものクワの葉の観察を地道に継続し、その中に宝石オパールを発見し、そして自身の手で英語論文にまとめて国際専門誌に発表することができたという一連の流れは、今後の高校における科学教育の方向を考える上で、非常に意義高いと考えます。日本人として誰もが目にするクワの葉にも光る研究テーマがあり、自身の科学的興味を形にした本実例は現在の高校生達や先生方の励みになると思われます。

(6)今後の課題

現在他種の植物の葉での確認作業をしていますが、多くの葉でプラントオパールに類した物質(元素同定をしていないため)を確認しています。植物によってその形状が異なります。葉の成長に伴う、この物質の元素組成や形状の変化を分析することにより、植物が根から吸収した物質の循環を知ることができ、植物の成長のメカニズム解明につながることを期待しています。

また、今年度よりプラントオパールが蚕に与える影響の調査も開始しました。プラントオパールは蚕の食欲誘因物質の1つと言われています。そこで蚕の食欲増進や絹の増産へとつながる研究にも着手したい、と思います。

(7)参考図
クワの異形葉性の例(同じ枝の中に様々な形状の葉が存在)

図1 クワの異形葉性の例(同じ枝の中に様々な形状の葉が存在)

図2 電子顕微鏡による一ノ瀬クワの中のプラントオパールの元素マッピング

図2 電子顕微鏡による一ノ瀬クワの中のプラントオパールの元素マッピング

図3 高校生がまとめた資料の様子(冬芽の分析)

図3 高校生がまとめた資料の様子(冬芽の分析)

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