最先端の応用言語学研究を取り入れた早稲田の英語教育

“英語を学ぶなら早稲田で学べ” 実用的な英語教育の先駆け

そもそも私は応用言語学の理論を研究しており、エジンバラ大学(イギリス)大学院修士・博士課程の言語学、心理学、認知科学、人工知能などが組み合わさったコースで学びました。さらに、課題の統計のために自分でプログラミングや数学を勉強しました。早稲田大学着任後、“Tutorial English(チュートリアル・イングリッシュ)”の開発を始め、それをきっかけに「実践的な教育を実証しながら高めていくこと」がいかに重要であるか考えるようになったのです。

早稲田の英語教育は社会で使うことを前提とした実用的な英語教育であり、学生一人ひとりの語学レベルに合わせて段階的に上達できる仕組みを構築しています。特徴としては、教室での授業と学内や自宅のPCからインターネットを通じて受講できるオンデマンド授業を組み合わせることで学習と実践、強化、応用演習を効果的に行っているところです。

その始まりは1997年。当時の奥島孝康総長のもと、ITインフラ整備と英語教育改革を同時に開始することになり、遠隔教育システムによる英語教育の実験を文学部で実施しました。現在の“TutorialEnglish”の原型です。翌年には早稲田大学DCC(Digital Campus Consortium)と共にネットワークを活用した異文化交流プログラムの開発にも着手しました。これは高麗大学校(韓国)、デ・ラ・サール大学(フィリピン)、マラヤ大学(マレーシア)、エセックス大学(イギリス)の学生と早大生がお互いの国の習慣や文化についてテキストチャット機能を使ってコミュニケーションするものです。

2001年には3つのレベルの“GeneralTutorial English”プログラムおよび学生用の教材やチューター(講師)用の教材を開発し、翌年にはオープン教育センターの正規科目として開始しました。社会で使える実用的な英語教育にするためには、高校までに学習した英語力を定着させ、自動的に使えるようにしなければなりません。そこで参考にしたのは語学のコミュニケーション能力を6レベルに分類した国際標準規格CEFR(CommonEuropean Framework of Reference forLanguages)です。初めは、初級・中級・上級の3つのレベルからスタートし、2007年にようやく初級から上級までの6つのレベル全てを完成させました。それに合わせて、レベルごとの到達目標を明確に設定したオリジナル教材を開発。CCDL異文化交流実践講座では「ニューヨーク・タイムズ」に載っている話題などを参考に「食の安全」「ワークライフバランス」「グローバル・パートナーシップ」「起業家精神」「特許のライセンス問題」といった、当時としては画期的なテーマを教材に取り入れました。国際人になるためのグローバルリテラシー(国際対話能力)を養成するという意味で非常に有益であり、「社会に出てからも役立つ」と、実際に受講した学生からも好評を得ています。

さまざまな視点から検証し教育に反映させる“LAK”

また、Web版英語能力判定テストWeTECを用いて受講生の語学力に合った受講レベルを選定しているほか、学習達成度を測定するためのアチーブメントテストを実施し、CEFRとの対応関係と学習効果を継続的に検証しています。さらに、6回の授業ごとにレビューユニットテストを行い、語ごい彙・慣用句・リスニング・具体情報の聞き取り能力などが身についているかを一人ひとりに対して細かく評価します。

現在進めているのはリーディングの効果測定です。技術が進歩し、新しいツールが開発されることで教育の内容が充実すると同時に、学習効果を詳細に検証することができるようになりました。例えば読解に関することでは、英語能力レベル、学習への心構え、テーマに対する興味、知識、ストラテジー、トップダウン・ボトムアップ処理など、ページごとに詳細な学習者ログを習得することで、時間軸に沿った学習者の行動や記事を読むために費やす時間を把握することができます。多様な視点から効果を検証し、学習指導の改善に活用しています。これは“Learning Analytics and Knowledge(LAK)”といい、最先端の研究領域です。こうした研究にかかわることができるのも、ICT企業や理工学総合研究所の「次世代e-learning」特別研究部会などの協力があるからこそですね。

今後もICT企業などと協力しながら、スピーキング能力や、ライティング能力の判定を自動化する方法を模索し、分析を進め、フィードバックすることで“CriticalReading and Writing”をより効果的なものにしていきたいと考えています。

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学生のためとの思いが研究を後押ししてくれる

私が英語教育にここまで注力することができたのは、「学生のために、早稲田大学のためになることをしたい」という強い思いがあったからです。どういった学生を育てたいかを明示した大学のビジョンをもとに「英語で議論のできる英語教育」という方針を出し、それに沿って“Tutorial English”を開発しました。開始直後に学生が「Tutorial Englishはすごく良いぞ!」と友人に勧めている様子を目にしたときは感動しましたね。留学した学生からも「Tutorial Englishで実践力をつけたおかげで留学先でも困ることがありません」と感想をもらいました。また学生の英語力がぐんと伸び、初級と準中級が多かったスタート当時と比べ、今では準上級の受講者が大半という状況になっています。

25年にわたる早稲田での研究生活は楽しかった思い出でいっぱいです。どんなに忙しくても、学生のためと思えばエネルギーが湧いてきました。2015年3月で定年退職となりますが、これからも研究は続けていきたいと考えています。

中野美知子eyecatch中野美知子 教育・総合科学学術院教授 プロフィール

津田塾大学卒、同大学院修士課程、エジンバラ大学大学院修士課程・博士課程修了。応用言語学博士。愛知大学に勤務中に2年間エジンバラ大学・認知科学研究所で研修。1990年早稲田大学助教授、1992年教授。スタンフォード大学言語情報研究所での研究を経て、2002年より隔教育センター所長(現在、大学総合研究センター副所長、教育方法研究開発部門(CTLT)部門長)。2015年3月末で定年退職。主な著書に『英語は早稲田で学べ―ネットワーク型教育が「大学英語」を変えた』(東洋経済新報社)、『英語教育グローバルデザイン』(早稲田教育叢書)、『英語教育におけるメディア利用』(英語教育学大系)等。

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