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特集|カーボンニュートラルなキャンパスを目指して Vol.1
Fri 28 Aug 26
Fri 28 Aug 26
特集|カーボンニュートラルなキャンパスを目指して Vol.1
2021年に発出した「カーボンニュートラル宣言」以降、早稲田大学では2032年の創立150周年に向け、キャンパスカーボンニュートラル化の実現を含む社会課題の解決に向けたさまざまな挑戦を進めている。
本特集では、学生、大学、企業が連携する先駆的な事例を通じて、本学の取り組みを複数回にわたり紹介する。
第1弾となる今回は、特に夏季におけるキャンパス需要削減に着目し、学生のウェルビーイングという観点から、期末試験日のシフトによる夏季電力需要のピークカット実験についてお届けする。
キャンパスを実証フィールドに
学生・教職員・企業が一体となって取り組む電力需要のピークカット実験
2026年7月28日(火)早稲田大学西早稲田キャンパスにおいて、本学学生・職員・教員および東京電力HDが参加して、電力需要のピークカット実験が行われた。ピークカットとは一般的に、日中に増加する電力需要の一部を夜間や早朝などの需要が低いタイミングに移動し、年間における電力需要のピーク(最大値)を削減することである。本取り組みにおいては、例年の傾向から電力需要のピークの発生が見込まれた7月21日から、需要が低いと見込まれる28日に、電気・情報生命工学科の授業のひとつである「電気エネルギーシステムと環境」の試験日を移動することで、試験が行われる教室一部屋分の電力消費を丸々移動させることを試行したかたちだ。
カーボンニュートラル実現に向けて大学が、企業がうごく
本学は、2022年12月に東京電力HDと「カーボンニュートラル社会の実現に向けた包括連携に関する基本協定」を締結しており、本取り組みもこの協定のもとに実現した。協定締結からさかのぼること約1年、本学はカーボンニュートラル実現へのビジョンを策定し、「カーボンニュートラル宣言」を行った。宣言において、CO2排出量を削減するための最先端の研究開発の推進、学生に対するカーボンニュートラル・マインドの育成と学習・研究環境の整備、そして、本取り組みのベースとなっている、創立150周年となる2032年を目途としたキャンパスのカーボンニュートラル(各キャンパスにおけるCO2排出量実質ゼロの実現)などを掲げている。今回取り組む「キャンパスの電力需要ピークカット実験」は、次に挙げるとおり、学生・大学・社会のそれぞれに対して価値をもつ、「三方よし」のテストケースとなっている。
①学生のウェルビーイング
猛暑時における学生の負担軽減、快適な学習環境づくり
②大学のカーボンニュートラル・持続可能な大学運営への貢献
電力ピーク削減による大学のエネルギー利用の最適化
③文理融合・産学連携による社会課題解決
東京電力との包括協定を活用し、大学キャンパスを実証の場として活用
電力需要を予測して、需要ピークを動かすことができるか?
具体的な実施内容や狙いについて、本実験を主導する早稲田大学スマート社会技術融合研究機構次席研究員(研究院講師)の金子奈々恵先生に伺った。
取り組みの趣旨や意義について丁寧に説明してくださる金子先生。金子先生の専門は機械学習を用いた各種エネルギー需要や市場予測・分析
「2024年頃から、東京電力様からキャンパスの電力需要のデータをいただき、解析を進めていました。その中で、おそらく7月のテスト週が一番気温の上昇が大きく、かつ電力需要のピークも出やすいだろう、ということが分かってきました。またテスト週は、学生が空き時間を過ごす場所が制限される、食事場所も学生が集中して快適に過ごせないなど、学生の生活にとってもストレスが大きいのではないかという仮説がありました。そこで今回は、「電気エネルギーシステムと環境」のテストを、予備日に設定されている翌週に移動させ、(1)電力需要がカットされて下がるのか、(2)電力需要をカットさせるためにテストの日程を変更することを、学生に受け入れてもらえるのかということをアンケート評価することにしました。良い結果が得られた場合、将来的にたとえば、半分の科目を翌週にずらして実施する、日中の時間帯のテストを夕方にずらすということで、電力需要に対するピークの削減が可能になるかもしれません。学生と科目を担当している教員に受け入れてもらいやすい電力需要ピーク削減の方策を探りたいというのが、今回の実験の目的になります。」(金子先生)
本取り組みは、先にあげたとおり、文理融合・産学連携による社会課題解決という側面ももつ。
研究の観点から、本取り組みの新規性についても伺った。
「まず、キャンパスの電力需要データは容易に手に入るものではないので、そのデータを扱うこと自体が新しい試みです。そしてこのデータを用いて、現在私が構築を進めている予測モデルにおいて、気象条件・授業数・学生数などの需要を変動させうる要因と電力需要量の関係を定量的に示せるようになることが当面の目標になります。本取り組みはひとつのケースでしかないものの、実データを取得できるため、予測データとの『答え合わせ』をすることができます。今日の取り組みだけでなく、台風で休校になった日などのデータも取得できますので、取得したデータを活用して、予測モデルの精度を上げていくことが可能だと考えています。精度を上げて、根拠を示しながらキャンパスの電力需要を抑える行動変容の提案をすることで、キャンパスのカーボンニュートラルに貢献できればと思います。」(金子先生)
取り組みの趣旨や意義について丁寧に説明してくださる金子先生。会場の早稲田大学52号館にはBEMSが導入されており、この日は、試験時間の終了とともに教室の空調がオフになる管理がなされていた
行動変容の提案には、具体的にどのようなことが考えられるだろうか。
「たとえば、電力需要のピークが最も立ちやすい7月は、授業の一部オンライン化を推奨することが考えられるかもしれません。コロナ禍以降、対面授業の重要性も指摘されていますから、すべての授業ではなく、通学・通勤がストレスになる最も暑い時期の数回分だけをオンライン化するなど、教員と学生にとって重荷にならない程度の行動変容の方針が必要です。これが、毎週の気温予報に応じて授業時間が変動的に決まる、あるいはエアコンを1時間単位で入切する必要がある、といった形では、行動そのものがストレスとなり、『我慢』になってしまいます。教員と学生のウェルビーイングという観点からも、どの程度の行動変容レベルが望ましいのかを判断するための一助となる根拠を示すことができればと考えています。」(金子先生)
アンケートとヒアリングから:学生はどのように考える?
今回の実験に参加した学生に実施したアンケートから、行動変容のための方針として受容性を比較した。提示した3つの案は次のとおりである。
案1「期末試験の時期を(1週間)シフト」
案2「一部の講義をオンラインにする」
案3「原則すべての講義をオンラインにする」
(賛成度:1=全く賛成できない、4=どちらでもない、7=強く賛成する)。
賛成度の平均は案2(一部オンライン、4.91)が最も高く、次いで案3(原則オンライン、4.65)、案1(試験シフト、4.44)の順であった。
肯定率(賛成度5〜7)で見ると案2(一部オンライン)が74%と突出する一方、案1(試験シフト)は46%にとどまった。他方、否定率を見ると案1(試験シフト、26%)は案3(原則オンライン、28%)よりも低い数値を示している。このことから、試験シフトの案は、受容できない案というよりも、受容の可否を判断しかねている学生が多いのではないかと考えられる。
学生アンケート結果
次に、数名の学生から直接ヒアリングした意見を紹介する。
今回の実験に参加した学生たちへのヒアリング
「インターンシップなどを検討していることもあって、他の科目と同じ期間にまとめてテストを受けられた方が良かった。電力需要を下げることには協力したいと思っているが、学生の行動を変えさせる前に、ライトアップを減らすなど大学が組織としてできることがあるのではないか。ウェルビーイングという観点では、自分が徒歩通学のため、1限授業を増やしてもらえると暑い昼間の時間帯の移動が減るので嬉しいと思う。」
「大学に行くこと自体への抵抗はなく、むしろ外に出る機会としてポジティブに考えている。テスト日程が変更になったことについては、テスト科目が多かったため1つだけでも遅く実施されることで勉強する時間を作ることができてありがたかった。」
「大学で自習する場合、空き教室を利用することも多いため、照明や空調の節電のためといって全室を閉められてしまうと、非常に困る。他方、全室開放していて大教室を数名で使っているのももったいないので、ある程度の部屋数を確保してもらえていれば問題ないと思う。」
おおむね、電力需要のピークをさげることへの協力については、良好な姿勢であった。アンケートの結果も踏まえると、学生のウェルビーイング向上に向けては、一部の講義をオンライン化する方針を考慮しつつ、試験シフトを学生に受容されやすい形で検討していくことがポイントになりそうだ。
今回のピークカット実験の分析結果が出次第、大学運営における環境負荷低減の視点を含めながら、続報をお届けしたい。
2026年8月 早稲田大学

