前回ご紹介した、本プロジェクトにおける「社会連携教育」の考え方で重要となるのが、「他者」と「自分」です。ここでポイントとなる「他者と関わりを持つ」ということは、一見、普通にあちこちで起こっているようで、実はそうでもありません。
そのことについて考えるために、「社会連携教育の推進」プロジェクト会議の中で、具体的に検討した内容をご紹介します。
「社会連携教育の推進」プロジェクト会議
第1回
参加教職員全員が教育に関わる者として、「私は学生に関わって、今、こんなことにモヤモヤしています」というテーマで個々のケースについて考え、大学という教育現場で生じている現実的な課題から「教育とは何か」にという問いに至るまで検討、議論した。
第2回
前回の作業に関し、各自の検討をグループワークで共有しその問題点を深めた。これにより、実際に教職員が直面する具体的な問題やその解決策を通じ、議論した。
第3回
以下のようなケース・スタディについて検討し、次いで、「社会」「連携」「教育」という単語毎に、より組織的な方向へ向かうベクトルと個人へ向かうベクトルという尺度で、各事象をマッピングした。
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ケーススタディ[私のミクロな原因作り]
~職員Cさんの場合~
【キャンパスツアー・スタッフ募集!】
「あなたもツアー・ガイドになれる!~ガイドになるまでのステップ~」
面接(所要時間:30~60分)→採用→研修→最終チェック→合格→ガイドデビュー!
*面接や研修の過程で不採用になることもあります。
私がキャンパスツアーの担当だった当時、A君は教育学部2年生でした。
A君はキャンパス・ツアーのガイドに応募して採用にはなったものの、何時間研修を積んでも一向に成果が出ません。生来の不器用者なのか、何かのはずみで申し込んでしまったのか...。先輩のガイド学生も、「いや、無理っすよ。厳しいですね、彼。向いてないんじゃないですかね」と匙を投げかけていました。
そこで、私が個別面接をすることになった訳ですが、心の中では、半分以上「諦めて欲しい」と伝える気持ちが占めていました。A君だって、キャンパスツアーがやりたくて大学に入った訳ではない筈です。本当の気持ちを明確にして、その手段としてツアー・ガイドが適切でなければ、これ以上やっても時間の無駄じゃないか、と話をするつもりでした。
「いや、...頑張ります」
「うーん。じゃ、A君はどうして早稲田に入りたかったの?」
「あの、...今は、ガイドになりたいんです」
「色々と経験することは大切だと思うけど、手段は一つじゃないから」
「僕、どうしても、ガイドになりたいんです」
この他に、A君が履修している科目や、専門のこと、将来の夢や、サークル、アルバイト、好きな本や映画の話...etc.
なるべくA君を一つの解答へ誘導することなく、元々、自分が何をやりたかったのかに気付いてくれるよう、2時間ほど本当にいろんな話をしました。
そして、再度、何のためにツアー・ガイドになりたいのかを訊きました。
「他の先輩方と比べて自分ができていないのは分かっています。
でも、ここで諦めたら、全てに自信が持てなくなる気がするんです」
彼の眼には涙がにじんでいました。
「わかった。じゃあ一緒に頑張ろう。
でも、あと3回研修して、それで駄目だったら、その時は諦めようか?」
「はい。分かりました」
「繰り返すけど、ポイントは内容を覚えることと、お客さんを楽しませる
こと。この2つ。たった2つさえクリアすれば大丈夫だからね」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
A君は深々と頭を下げました。
その後のA君は見違えるようでした。
3回どころか、1回目の研修後に見せたガイドっぷりは、別人かと思うほどでした。若干のぎこちなさは残るものの、必要な知識を諳んじるだけでなく、お客さんをもてなすための笑顔を絶やさず、工夫の努力が見受けられます。
こうして「ツアーガイド・A君」が誕生しました。
数年後、卒業式当日、バタバタしている広報課の事務所にA君が訪ねてきてくれました。
「卒業だね。おめでとう」と声をかけると、
「はい。Cさんに一言お礼を言いたくて...。」と、笑い返してくれました。
「お礼?」
「はい。あの時、とことん話を聞いてもらえたおかげなんです。僕は何がしたいのかって考え直して、で、やっぱりツアー・ガイドをやりきることだって思い直して。諦めないでガイドになれたことで、変われたんだと思います」
この仕事の担当者になって、本当に良かったと思った瞬間でした。
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◆核心戦略2「グローバルリーダー育成のための教育体系の再構築」
社会連携教育の推進PJ
http://www.waseda.jp/keiei/vision150/core/02.html
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