Research Organization for Nano & Life Innovation早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構

ナノテクノロジー研究所

ナノテクノロジー研究所研究所長 谷井 孝至 理工学術院教授

概要 /Project

本研究所では、4大学ナノマイクロ・ファブリケーションコンソーシアム、6大学連携プロジェクト、ナノテクノロジープラットフォームおよびマテリアルDXプラットフォームなどの学学/産学連携プロジェクトを推進しています。無機材料、有機材料、金属など多種多様な材料に対する三次元加工技術・装置を有しており、これら最先端の設備利用を通して、共同研究や問題解決の最短アプローチの提供、ナノテクノロジー分野の人材育成・技術者教育などを実施しています。応用展開として、たとえば、微量での分析/計測・バイオ系薬品や酵素の高効率化学合成等を可能にするナノマイクロシステムの開発と、ポイントオブケアやホームヘルスケアテスティングの実現、あるいは三次元加工技術による高効率燃料電池の開発などの実現を目指します。

成果 / Topics

歯工連携による口の中の傷を治す材料の開発
~ヒトの構造を模倣するものつくり~
 

発表のポイント

  • ヒトの口の粘膜(歯肉)や皮膚は、表皮と結合組織の2層構造(シーツとマットレスのような構造)をしていて、その境界面は波状の構造をしています。しかし、これまで市販されている生体移植材には、波状の構造が付与されていませんでした。
  • 歯工連携によって、生体移植材に波状構造(マイクロパターン)を付与する技術を開発、確立しました。
  • 魚由来のコラーゲン材料は狂牛病などの未知の伝染性感染症にかかるリスクがなく、安心、安全、安価な生体移植材料なので、将来的な商品化を目指しています。
  • この開発をもとに、口の中だけでなく、外の傷も治すことのできる移植材の創出につながることが期待されます。

発表の概要

 新潟大学大学院医歯学総合研究科生体組織再生工学分野の泉健次教授、同大医歯学総合病院小児・障がい者歯科の鈴木絢子医員らの研究グループは、早稲田大学ナノライフ創新研究機構水野潤研究院教授、岸本一真(学部4年生)、および多木化学株式会社(兵庫県加古川市)との歯工連携により、魚コラーゲン製の移植材料に、ヒトの口腔粘膜特有の波状の構造を付与する技術を確立し、口の中の傷をより良く治す可能性がある新しい生体材料を開発しました

本成果は、2020年12月17日(木)19時に国際学術雑誌「Scientific Reports」に掲載されました 。
【論文情報】
・掲載誌:Scientific Reports
・論文名:Manufacturing micropatterned collagen scaffolds with chemical-crosslinking for development of biomimetic tissue-engineered oral mucosa.
・DOI: 10.1038/s41598-020-79114-3

 

発表の内容

Ⅰ.研究の背景

 ヒトの口の粘膜(歯肉)や皮膚は、上皮(シーツ)と結合組織(マットレス)の2層でできていて、その境界面を形成する結合組織(マットレス)の表面は、ちょうど台所用スポンジのような波状構造(マイクロパターン)をしています(図1)。この構造は剥がれやすい上皮と結合組織が接する面積を大きくして、はがれにくくする効果があります。生体模倣(※1)という観点からこの波状のマイクロパターン構造は、傷を治す上で重要な構造であることは明らかです。現在、手術後にできた口の中の傷に対しコラーゲン製人工皮膚(真皮欠損用グラフト(※2))を移植して、傷を治す治療が一般的に行われています。現在市販されている材料は、ウシやブタから抽出したコラーゲンが用いられ、材料の内部は多孔質と呼ばれる孔の開いたすかすかな構造で、傷を治す細胞が材料内に侵入しやすくなっています。しかし、材質が脆いため、術野の狭い複雑な形態の口の中では縫いにくく、動物由来のコラーゲンのためにやや高価で、未知の病原体による伝染性感染症(※3)リスクがゼロではありません。
そこで本研究グループは、生体模倣を実装し、CO2排出の面から地球環境にも優しい、安心、安全、安価な膜状のコラーゲン製人工歯肉の開発をめざしてきました。

図1 ヒト口腔粘膜の構造(左:模式図、右:顕微鏡組織像)
波状構造をもった結合組織(マットレス)の作成法を開発し、再現に成功しました

Ⅱ.研究の概要・成果

 本研究グループは歯工連携という異分野連携を図ることで、コラーゲン製人工歯肉の開発に向けて一歩前進しました。すなわち、安全性と安価を担保するために、未知の感染症リスクがなく、廃棄される材料である魚(イズミダイ)うろこコラーゲンを利用することにしました。魚のコラーゲンは、ドラッグストアで手に入る“コラーゲンドリンク”の主な原材料でもあるので、患者さんにとって安心感があります。このコラーゲンを膜状にして縫合しやすい形状とし、半導体の基板を作るのに活躍する微小電気機械システム(MEMS/NEMS)(※4)というマイクロ/ナノテクノロジーを駆使することで、ヒトの歯肉に存在する波状の形態(マイクロパターン)をコラーゲン膜の表面に加工・付与することに成功しました(図2)。

図2 魚うろこコラーゲン製材に付与されたマイクロパターン
   矢印で示す部分にマイクロパターン部分が確認できます

このマイクロパターンを付与したコラーゲン膜の面にヒトの歯肉の細胞を播いて培養したところ、ヒトの歯肉に非常に似た組織を再現することができました(図3)。

図3 ヒト培養口腔粘膜の顕微鏡組織像図1の上皮脚に相当する細胞層が形成されています

Ⅲ.今後の展開

 今後、ブタの口の中に作った傷に今回開発したコラーゲン製人工歯肉を移植して、傷の治りを検証する実験を予定しています。同時に、ナノテクノロジーをさらに発展させて、ヒトの様々な組織固有のマイクロパターンの形態とサイズを最適化することで、口の中の傷にとどまらず、皮膚などの口の外の傷にも応用できるコラーゲン製材の開発につながることが期待されます。さらに、現在動物実験が禁止されている化粧品の安全性試験では、人工のヒト細胞がモデル化されて用いられていますが、そうした製品への応用も期待されますので、今後一層の歯工連携を深めていく所存です。

Ⅳ.用語解説

※1 生体模倣(バイオミミクリー)

私達の身近で生活、存在している動植物の機能や構造からヒントを得て技術開発に活かすことを指します。1997年に『自然と生体に学ぶバイオミミクリー』という本を出版したサイエンスライターのジャニン・ベニュス氏が提唱したものです。この言葉は、生物の「Bio」と模倣の「Mimicry」を組み合わせてできた造語です。この考え方は学術研究の世界にとどまらず、すでにナノテクノロジーを中心に、工学的に応用され技術開発や製品開発でも使われています。代表的な例として、いわゆるベルクロ(マジックテープ)や競泳用水着は、それぞれオナモミの実と、サメの肌をヒントに開発されました。

※2 真皮欠損用グラフト

現在市販されており、医療機関で患者様に使用されているものとして、テルダーミス(ウシの皮膚由来)、ペルナック(ブタの腱由来)、インテグラ(ウシの腱由来)があります。

※3 未知の病原体による伝染性感染症

狂牛病(牛海綿状脳症)や、クロイツフェルト・ヤコブ病など。狂牛病は、プリオンという特殊な感染性タンパク質がヒトの体内に入り感染する伝染病です。

※4 微小電気機械システム

機械要素部品やセンサー、電子回路を一つのシリコン基板、ガラス基板、有機材料などの上に3次元構造として製作する微細加工技術が用いられます。加工精度が数10µm以下の加工法が代表的です。

Ⅴ.研究助成

 本研究は文部科学省のナノテクノロジープラットフォーム支援プロジェクト、および日本学術振興会科学研究費若手研究(20K18556)により助成されたものです。

Ⅵ.研究成果の公表

 これらの研究成果は、2020年12月17日(木)19時に国際学術雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。
論文タイトル:Manufacturing micropatterned collagen scaffolds with chemical-crosslinking for development of biomimetic tissue-engineered oral mucosa.(生体模倣した培養口腔粘膜作成用に化学架橋を用いてマイクロパターン化したコラーゲン足場材の作製)
著者:鈴木絢子、兒玉泰洋、三輪慶人、岸本一真、干川絵美、羽賀健太、佐藤大祐、水野潤、泉健次* *責任著者
doi:10.1038/s41598-020-79114-3

“Microfluidic White Organic Light-Emitting Diode
Based on Integrated Patterns of Greenish-Blue and Yellow Solvent-Free Liquid Emitters”
Scientific reports (Nature publishing group) 5, Article number: 14822 (2015)
小林直史, 桑江博之, 庄子習一(理工学術院)
水野潤(ナノライフ創新研究機構)

キーワード:マイクロ流体有機EL, 液体有機半導体, 液体有機EL, マイクロ流体技術

*成果のポイント

scientific report fig

  • 液体有機半導体の集積化、制御を目的として、液体有機ELとマイクロ流体技術を組み合わせたマイクロ流体有機ELを世界で初めて提唱、液体有機半導体を用いたピクセル発光を可能にした(Figure(a))
  • 本研究では集積化したマイクロ流路を作製し、流路に交互に注入した緑色と黄色の液体発光材料に同時に電圧印加することで、液体白色電界発光に成功(Figure(b))
  • 自在に形状が変形できる液体の利点を活かした新しいディスプレイや照明への応用に期待
  • 発光層が高真空プロセスを用いないために容易成可能なため、オンデマンド励起光源が実現でき、生化学や医療分野で待望されるポータブルバイオチップへの応用に期待
“Analysis of X-ray diffraction curves of trapezoidal Si nanowires with a strain distribution”
Thin Solid Films vol.612 (2016) pp.116–121
ナノ・ライフ創新研究機構 研究院教授 竹内輝明ら

キーワード:Siナノワイヤ,歪分布,台形断面,X線回折,シンクロトロン放射光

*成果のポイントnanowire1

  • 300nm周期で配列したSiナノワイヤーを作製し(Fig.1)、X線回折実験を実施。ナノワイヤーと基板とは結晶方位が同じであるが、ナノワイヤーの干渉効果を用いて、基板の回折を除去してナノワイヤーの回折のみを観測した(Fig.2) 。
  • 解析は、位相を考慮し歪分布と断面形状を仮定して、X線散乱振幅を全領域で積分して求めた回折強度理論曲線を実験曲線と比較して行った。
  • 歪には正のものと負のものとが共存することが分かり、かつ、それらを定量的に求めることに成功した (Fig.3a)。また、断面を台形と仮定すると理論の回折曲線が実験曲線とよく合うこと(Fig.3b)も判明。
  • 歪Si MOS-FETの解析や周期構造を有するフラッシュメモリ素子評価への応用が期待される。
“Plate-laminated Waveguides for 350GHz Band Fabricated by Silicon Process”
J. Hirokawa et al., Vietnam-Japan MicroWave, MO4-2, Aug. 2015
ナノ・ライフ創新研究機構 研究院教授 齋藤美紀子,同 次席研究員 加藤邦男ら

キーワード:無電解めっき、電解めっき、表面処理

*成果のポイントantenna

  • 密着性と被覆性を向上させた無電解Ni系下地膜と電解金めっき膜を用い、Si全面を覆って積層、接合し350 GHz帯アンテナアンテナを作製
  • 加工精度を10ミクロンから数ミクロンのSi プロセスにし、特性が改善
  • 未開拓未利用領域であるテラヘルツ帯(100GHz程度~1THz程度)の超高速無線通信利用へ
“High Efficient Synthesis of Manganese(II), Cobalt(II) Complexes Containing Lysozyme Using Reaction Area Separated Micro Fluidic Device”
TRANSDUCERS 2015, DOI:10.1109/TRANSDUCERS.2015.7180907
ナノ・ライフ創新研究機構 研究助手 田中大器,
ナノ・ライフ創新研究機構 研究院教授 関口哲志,理工学術院 教授 庄子習一

キーワード:マイクロ化学チップ, 錯体合成, 機能性蛋白質, MEMS

*成果のポイントtransducer

  • 従来法では、温度管理、雰囲気制御、長時間の撹拌が必要な金属錯体の合成について、マイクロ化学チップを用いることにより、室温、大気中、1秒以下での高効率合成に世界で初めて成功した。
  • マイクロ化学チップ内で初めて金属錯体含有蛋白質の合成に成功し、従来法に比べて3倍以上効率的に目的生成物を得ることに成功。
  • 今後、マイクロ化学チップ内で金属錯体含有蛋白質を結晶化、単離し、燃料電池の電極や医薬へ応用することを目指す。
“Microfluidic Stamping on Sheath Flow”
Small, DOI: 10.1002/smll.201600552
ナノ・ライフ創新研究機構 研究院助教 尹棟鉉,
ナノ・ライフ創新研究機構 研究院教授 関口哲志,理工学術院 教授 庄子習一

キーワード:マイクロ流体デバイス, 3Dシースフロー, 積層マイクロ流路, MEMS

*成果のポイントmicrofluidic

  • マイクロ流体デバイスにより、流路内の流れを制御し、複雑な形の流体断面を作り出すことに世界で初めて成功した。
  • マイクロ流体デバイスのファブリケーションの工夫により、簡単な構造のデバイスで複雑な流体断面の形状制御が可能である。
  • 今後は、高機能ファイバー等への応用を目指す。

研究者 /Member

研究所長

谷井 孝至 理工学術院教授

顧問

  • 大泊 巌   早稲田大学名誉教授
  • 庄子 習一   早稲田大学名誉教授
  • 堀越 佳治   早稲田大学名誉教授

研究所員

  • 岩瀬 英治   基幹理工学部教授
  • 宇高 勝之   基幹理工学部教授
  • 川原田 洋   基幹理工学部教授
  • 北 智洋   先進理工学部教授
  • 谷井 孝至   基幹理工学部教授
  • 野田 優   先進理工学部教授
  • 古谷 正裕   大学院先進理工学研究科教授
  • 本間 敬之   先進理工学部教授
  • 松方 正彦   先進理工学部教授
  • 松田 佑   創造理工学部教授
  • 森本 雄矢   基幹理工学部准教授
  • 渡邉 孝信   基幹理工学部教授
  • 酒井 求   先進理工学部講師(任期付)
  • 園部 義明   上級研究員(研究院教授)
  • 柏木 誠   次席研究員(研究院講師)
  • 田中 大器   次席研究員(研究院講師)
  • 野﨑 義人   次席研究員(研究院講師)
  • ハサン エムディー マフムドゥル   次席研究員(研究院講師)
  • 藤田 理紗   次席研究員(研究院講師)
  • リュウ ファンファ   次席研究員(研究院講師)

招聘研究員

  • 阿野 大史   ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社第3研究部門機能材料開発部2課
  • 雨堤 耕史
  • 荒川 貴博
  • ALLONGUE, Philippe   CNRS, Ecole Polytechnique, Palaiseau. Directeur de recherche Class Exceptional.
  • 石川 浩
  • 石村 昇太
  • 岩本 浩介
  • 大井 信敬
  • 河合 空
  • 管 貴志
  • 久保 拓夢   昭和電工マテリアルズ株式会社・社員
  • 河野 省三   東北大学名誉教授
  • 齋藤 美紀子
  • 新谷 幸弘   LG Japan Lab株式会社責任研究員
  • 菅原 徹   京都工芸繊維大・材料科学系教授
  • 関口 哲志   未定
  • 千石 洋一   メック株式会社・社員
  • 田中 英明
  • 錦谷 禎範
  • 平岩 篤
  • 福中 康博
  • 藤嶌 辰也
  • ベルツ モルテン   (株)東京インスツルメンツ研究員
  • 松島 裕一
  • 柳沢 雅広
  • 山口 健   株式会社ブリヂストン素材応用研究第一部材料評価法研究ユニット主幹研究員

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