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論文掲載:マイクロスケールの微小液滴内でアゾ化合物の合成に成功

研究の概要

早稲田大学理工学術院の庄子習一(しょうじしゅういち)教授、早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構の田中大器(たなかだいき)次席研究員(研究院講師)らの研究チームは、マイクロスケールの微小液滴内でアゾ化合物の合成に成功しました。従来法と比較すると、pH濃度が1/10にまで下がり、合成時間も1/1000以下となりビーカーとは全く異なる合成条件となることを明らかにしました。

田中大器次席研究員によって発表された研究成果は、英国王立化学会が発行する科学ジャーナル”RSC Advancesに論文として掲載されています。

 

研究の内容

現在の化学合成は、反応性の低い合成スキーム(※1)に対して、熱、触媒、試薬濃度、光、反応時間および反応経路等の工夫により合成法を構築しています。しかし、従来の方法は大きなエネルギーを要したり、貴重試薬の大量消費、環境汚染等の問題を抱えています。また、これらの反応条件を駆使しても合成に至っていない化合物も多々あり、新たな合成スキームの構築は喫緊の課題となっています。

早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構・田中次席研究員らは、化学反応場を小さくすることによって化学反応性を向上させる研究を行っています。微小領域における化学反応では、化学種の拡散時間が早いために化学合成が早く進行することが知られています。これまで、マイクロ流体デバイス(※2)を用いて金属錯体の合成を行い、微小領域中の化学反応速度に関する研究を行ってきました。微小領域中で金属錯体を合成すると、従来法(ビーカー)と比較して1万倍以上化学反応時間が短縮することを明らかにしました(D. Tanaka, S. Shoji, RSC Adv., 2016, 6, 81862–81868)。
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本研究では、微小領域中の反応場の特性を応用して複雑な合成操作が要求される化学合成を行いました。

具体的には、マイクロ流体デバイスを用いてマイクロドロップレット(※3)を生成しドロップレット内部でアゾ化合物(※4)を合成しました。微小領域中では、化学合成の反応速度の向上の他に、pH試薬の濃度条件が従来法と異なることを明らかにしました。従来のアゾ化合物の合成には高濃度の塩酸(5.6 mol L-1)が用いられますが、本研究では、塩酸の濃度が0.5 mol L-1とビーカーの10分の1以下でアゾ化合物が合成されました(図1(a))。マイクロドロップレットを用いて合成された生成物は、赤外分光法や質量分析法、NMRなどにより分析されました(図1(b))。

図1. (a)アゾ化合物の生成の様子(bar: 200 μm)、(b)NMRによる化合物の同定結果

本研究により、化学反応場の大きさをマイクロスケールに小さくするだけで合成時のpH条件が大きく変化することを世界で初めて明らかにしました。
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アゾ化合物の合成では、図2(a)に示すように酸性、アルカリ性、中性と3段階の精密なpHコントロールが要求されます。本研究では、マイクロドロップレット内部の合成環境を厳密にコントロールが可能なマイクロ流体デバイスを開発しました。デバイスの概念図を図2(b)に示します。まず、酸性エリアでジアゾ化反応が進行し、その後、アルカリ性に調整されたo-バニリンが加えられてドロップレット内部が瞬時に中性にコントロールされることによって最終目的生成物であるアゾ化合物が合成されます。マイクロ流体デバイスは耐薬品性の高いPDMS(polydimethylsiloxane)とガラスから作製しました(図2(c))。

図2. (a)アゾ化合物の合成スキーム、(b)実験の概要、(c)実験に使用したマイクロ流体デバイス

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本研究により微小領域場では化学反応のpH条件が大幅に変化することが明らかになりました。

化学反応条件の変化は様々な分野で応用が可能です。例えば、創薬の際に高濃度のpH試薬により化学構造が壊れてしまうため創り出せなかった新薬の開発に応用できる可能性があります。また、植物や人体内での化学反応は未解明な部分が多いですが、微小領域での化学反応の特異性を解明することによって生体内での化学反応を理解することが可能になると考えられます。

今後の課題と研究者の見解

現在の微小化学反応場は100マイクロスケールで合成実験が実施されていますが、それよりも小さい10マイクロスケール以下での化学反応は未開の領域です。

今後は、10 μm以下の超微小な領域で様々な化学反応を行い”超微小領域場”特有のさらなる化学反応の特異性を探究していきます。

通常、化学合成実験はビーカーを用いた方法が一般的ですが、マイクロ流体デバイスを用いた合成は化学反応性の向上や反応条件の変化など興味深い特性があります。また、合成実験に際して必要な試薬量がビーカーと比較して1000分の1以下に削減できるなど環境問題や貴重試薬削減の点でもメリットがあります。
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※1合成スキーム
化学合成における反応経路や合成手順・方法などのこと。
※2マイクロ流体デバイス
半導体製造技術の一つであるソフトMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を応用して、微小な流路を樹脂(フォトレジスト)などを用いて基板に形成することで、液体もしくは液体中を流れる生成物などの分離、濃縮、反応、解析といった操作をマイクロスケールで行うための小型の装置。
※3マイクロドロップレット
マイクロスケールの微小な液滴
※4アゾ化合物
化学構造内にアゾ基(N=N結合)を持つ化合物。アゾ化合物にはシス-トランス立体異性体が存在し、光や熱の作用で異性化する性質を有する。
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雑誌名 :RSC Advances, 2020, 10, 38900–38905
論文名 :Microdroplet synthesis of azo compounds with simple microfluidics-based pH control
執筆者名:Daiki Tanaka, Shunsuke Sawai, Shohei Hattori, Yoshito Nozaki, Dong Hyun Yoon,
Hiroyuki Fujita, Tetsushi Sekiguchi, Takashiro Akitsu and Shuichi Shoji
掲載URL:https://www.rsc.org/
DOI  :10.1039/d0ra06344d
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研究費名:キヤノンメディカルシステムズ
研究課題:マイクロドロップレットの生成と応用に関する研究
研究代表者名(所属機関名):庄子 習一教授(早稲田大学理工学術院)

研究費名:科学研究費助成事業 基盤研究(A)
研究課題:20H00336
研究代表者名(所属機関名):庄子 習一教授(早稲田大学理工学術院)

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