【社会科学部報 No.51掲載】名「伯」楽、かく語りき。
1986年卒 平井 伯昌さん
Profile
平井 伯昌(ひらい のりまさ)
東京都出身
現在、東京スイミングセンター勤務。
今年北京オリンピックで金メダルを取った北島康介選手をはじめ、多くの選手を育て上げた名コーチ。
彼のマネジメント力、優れた指導力が世界で勝つことができる選手を育てた、と各界から注目を集めています。
Q.学生時代、どのような生活を送られていましたか?
A.水泳部に所属していて、毎日忙しく過ごしていましたね。3年生のときに選手からマネージャーに転向したのですが、練習だけでなく、部の運営やお金関係のことも管理していて…。マネージャーになるということは自分が泳げなくなる、ということで、好きな水泳の道が閉ざされたような気がして、本当に嫌だったんですよ。でも、「形は変わるけど、同じ“水泳”ということには変わりないじゃないか」と言ってくれた友人がいて、それもそうかな、と思えたんですね。で、実際にやってみたら、立場が変わり、サポートする方になり、今まで見えていたものとは全く違うものが見えてきたんです。才能のある優秀な選手が入部してきて、他の選手たちとの違いが分かった。自分が泳いでいたときには想像もしなかったことが見えてきた気がして、すごくおもしろくてね。当時コーチに面倒を見ろと言われた選手(現在水泳部監督の奥野さん)がオリンピックへ出場したときには本当に嬉しかったです。
Q.卒業後も会社の内定を蹴りスイミングスクールのコーチという道を選んだ理由は?他にもいままでに何度か選択を迫られる場面に遭ったときに、何を基準に選んできましたか?
A.OBを訪問して仕事の話を聞いたとき、「“良い会社”“人気の業界”なんて、10年後にはどうなっているかはわからない。今良い会社、ではなくて、将来良くなる会社とか、自分が“好きなこと”を選んだ方が良い」と言われて、確かに、自分はネクタイを締めて満員電車に乗るのも似合わないし、嫌だなと思い始めてね(笑)。好きな水泳をして、教えるほうがいいかなと思ったのがきっかけです。いままでも“好きなこと”を選んできました。
Q.当時の「社学」はどのような雰囲気でしたか?社学生で良かった、と思われたことは?
A.本当にユニークな人がたくさんいて、多くのおもしろい友人に恵まれました。変わったところでアルバイトしている人や仕事をしている社会人ももちろんいた し、他の大学に受かったのだけどやっぱり早稲田がいい!って何浪もして入ったなんていう人がいっぱいいて…「お前若いな」とか言われましたよ(笑)。とにかくみんなたくましいんですよ。授業もいろいろあるから、いままで勉強しなかったことに出会えたりもする。僕が印象に残っているのは、物理なのだけど、Newton(科学雑誌)を読んでレポートを書くというのをすごく一生懸命にやった。それ以来、今でも海外遠征に行く時に持って行ったりしてるんだ。
Q.大学での経験は、今に生かされていますか?
A.そうですね。大学のときの経験はやはり基本にあります。水泳部での経験は大きいし、部の運営もすべて学生がしているという感じだったから、はやく大人に なったような、そんな気がします。
Q.平井さんが普段心掛けていることはありますか?
A.人のアドバイスはしっかり聞くということです。見たり聞いたりしたこと、他人が言ってくれたことを自分のポケットに入れておいて、それを必要な時に、どう自分で咀嚼してうまく選手に伝えられるかを考えます。自分で納得した上で選手に伝えるように心掛けています。それから、普段の生活のさまざまな事象を水泳に結びつけて考えるようにしています。想像力というか、「これは水泳で考えたらどうなるかな」っていつも考えていますね。そうするとおもしろい発想が生まれるんです。
Q.今後の夢や目標を聞かせてください。現在はスポーツ科学部の大学院にも在籍されているそうですね。
A.そうなんですよ。そろそろ研究計画書も提出しないといけない(笑)。やはり今回のオリンピックで担当の選手が2人とも(北島康介選手・中村礼子選手)2大会連続でメダルを取ってくれた。ある意味区切りのような感じですね。今後は水泳連盟のヘッドコーチとして、選手を教える立場でありながら、それと同時にコーチのコーチのような、いままで以上に水泳界を引っ張っていかないといけないと思っています。そうしたら、コーチをただしているだけじゃダメだという思 いが出てきて、勉強する必要性が出てきたんです。たとえば、国立科学センターなどでスタッフを集めて何かを実行しないといけないとなると、人のマネジメントが必要になってくるし、メディアに対する反応の仕方も考えないといけなくなる。仕事に広がりが出てきたんです。そこで早稲田にそういったコースがあると知って入学しました。これからは早稲田の水泳部にも貢献できたらいいな。
Q.最後に、今の社会科学部生に向けてメッセージをお願いします。
A.自分にしか経験できない早稲田がある。たった4年間だけど、必ずその4年間は人間形成の基礎になります。学生時代を十分に楽しんで欲しい。得意な道を選ぼうが、好きな道を選ぼうが、自分次第。自分の良いところを見つけてください。
「自己に打ち克つことが結果に結びつく」と言う言葉が印象に残りました。名コーチとして超多忙な毎日を送られているにも関わらず、フランクにインタビューに応じてくれました。高い志と、強い「自分」がビシビシと伝わる30分間でした。
(聞き手・構成:志熊万希子)
掲載:社会科学部報No.51 2008年秋号