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【開催報告】公開講演会「同一労働同一賃金の意義と機能―日仏比較 」9月25日(金)開催
Dates
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FRI 2026- Place
- 早稲田キャンパス 8号館313教室
- Time
- 14:00~17:00
- Posted
- Tue, 25 Aug 2026
比較法研究所共催公開講演会
「同一労働同一賃金の意義と機能―日仏比較」
【日 時】2026年9月25日(金)14:00-17:00
【場 所】早稲田キャンパス 8号館313教室
【主 催】科研費・基盤研究C「同一労働同一賃金原則及び均等待遇原則の法規範性の研究―日仏比較を踏まえて」
代表者・島田陽一(早稲田大学名誉教授)
【講演者】 パスカル・ロキエク(パリ第1大学教授)、島田陽一(早稲田大学名誉教授)
【討論者】水町勇一郎(早稲田大学教授)、石田眞(早稲田大学名誉教授)
【世話人】竹内 寿(早稲田大学教授)
【対 象】学生、教職員、一般
【使用言語】 フランス語・日本語(通訳あり)
【参加者数】 27名
【概要】
「同一労働同一賃金」は、日本においては、正規労働者(正社員)と非正規労働者(パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者)との格差を是正するための法政策を主導するスローガンとして提起され、それが社会的にも一定の定着を見ている。しかし、「同一労働同一賃金」を法規範として考えた場合、その内容は必ずしもコンセンサスができているわけではない。日本の賃金制度が職務内容を基礎としていないために、社会的に「同一労働同一賃金」が定着しているわけではないからである。これに対して、フランスにおいては、産業別労働協約の普及により、社会的に「同一労働同一賃金」が定着している。もっとも、フランスにおいては、社会的差別の排除または日本の非正規労働者に当たる労働者に対する「同一労働同一賃金」は、立法によって実現されているが、一般的な「同一労働同一賃金」は、法規範としては判例によって確立されている。このように、「同一労働同一賃金」原則の有する意義と機能は、両国において、大きな相違が見られる。そこで、本シンポジュームにおいては、両国の「同一労働同一賃金」原則の意義と機能を比較することを通じて、法規範としての「同一労働同一賃金」原則について考察を深めることを目的とする。
【プログラム】
開会の挨拶 島田陽一(早稲田大学名誉教授)
司会 細川良(青山学院大学教授)
| 【 講 演 】 | ||
| 14:05 – 15:05 | 報告1 | パスカル・ロキエク(パリ第1大学教授) 「フランス労働法における『同一労働同一賃金』原則及び均等待遇原則の生成と展開」 |
| 15:05 – 16:05 | 報告2 | 島田陽一(早稲田大学名誉教授) 「日本労働法における『同一労働同一賃金』原則の意義と機能」 |
| 16:05 – 16:20 | 休憩 | |
| 【 討 論 】 | ||
| 16:20 – 16:30 | 討論者 | 水町勇一郎(早稲田大学教授) |
| 16:30 – 16:40 | 討論者 | 石田眞(早稲田大学名誉教授) |
| 16:40 – 16:55 | 一般討論 | |
| 16:55 – 17:00 | まとめ・閉会挨拶 | 島田陽一(早稲田大学名誉教授) |
| 17:00 | 閉会 | |
【開催報告】
2026年9月25日(金)、早稲田キャンパスにて公開講演会「同一労働同一賃金の意義と機能―日仏比較」が開催されました。本講演会は、日仏両国における同一労働同一賃金原則の成立背景、判例の展開、および近年の立法政策を比較して検討し、法規範としての同一労働同一賃金原則の意義と展望を解明することを目的として企画されたものです。当日は学内外から多数の参加者が集まりました。
講演
第1報告:パスカル・ロキエク教授「フランス労働法における『同一労働同一賃金』原則及び均等待遇原則の生成と展開」
パスカル・ロキエク教授は、フランス法における同一労働同一賃金原則の成立史と判例法理の到達点について報告されました。

フランスでは、特別制度や労働協約で性差別禁止に由来する集団的な権利として同一労働同一賃金原則を位置付けてきました。制度史における大きな転換点となった破毀院社会部1996年10月29日判決(Ponsolle判決)は、これを男女平等の文脈から一般平等規範へと拡張し、労使協定に依拠せず個人の権利として援用可能な原則として位置づけ、事由を問わず同一使用者に雇用される同一・同等職務の労働者間における恣意的な賃金格差を違法と判示しました。
同判決以降、判例法理は基本給や賞与にとどまらず、各種手当、福利厚生、昇進やキャリア形成に至るあらゆる職業的便宜へと適用範囲を拡張しました。裁判所は、労使協定の形式的分類に捉われず、個々の待遇が有する固有の性質・目的を特定した上で、経験や資格等の客観的要素が格差を合理的に説明できているかを厳格に審査する段階的審査手法を確立させました。

ロキエク教授は、同原則の本質を賃金の画一化強制ではなく、使用者の賃金決定権限に対し客観的・合理的理由の説明責任を課す統制の方法(審査手法)と位置付けられました。差異を設ける権限自体が消滅したのではなく、説明・正当化・統制され得る権限へと変容した点を強調し、今後は事後の裁判争訟による是正から、賃金透明性の確保(EU指令2023/970)を通じた事前の「予防の論理」へと向かう展望を示されました。
第2報告:島田陽一名誉教授「日本労働法における『同一労働同一賃金』原則の意義と機能」
島田陽一名誉教授は、日本における同一労働同一賃金論の展開と、将来的な法規範への発展可能性について報告されました。

日本では、属人基準賃金と正社員を事実上の身分とする雇用慣行が司法判断の障壁となってきました。職務給のシステムが定着しておらず、一般平等原則を命じる実定法規定を欠く法制度の下では、丸子警報器事件(長野地上田支判平成8年3月15日労判690号32頁)や日本郵便逓送事件(大阪地判平成14年5月22日労判830号22頁)等の従来の裁判例に見られるように、不合理な待遇格差に対して公序良俗違反を通じた例外的な事後救済をするにとどまっていた点に、日本の制度の限界があったと島田教授は分析されました。
その上で島田教授は、パート・有期雇用労働法第8条の成立により、基本給・賞与・手当等の待遇のそれぞれについて、その客観的性質・目的を個別に審査するモジュール的審査が定着した意義を解説されました。これにより、「正社員確保」のような抽象的スローガンによる待遇格差の包括的な正当化は封じられ、待遇ごとの客観的整合性を求める構造的転換がもたらされたと指摘されました。

島田教授は、同一労働同一賃金原則が実定法上の直接強制を超えて「職務」という共通軸を日本社会に定着させ、身分制的な正規・非正規の壁を解体する機能を果たしていると総括されました。さらに、この法理は非正規の格差是正にとどまらず、将来的には無期雇用労働者間(正社員同士)の不合理な格差是正へも適用され得る普遍的規範へと成熟する展望を示されました。
討論
報告を受け、石田眞名誉教授(早稲田大学)および水町勇一郎教授(早稲田大学)からコメントと質問が提示され、講演者両名との間で議論が交わされました。
1. 石田眞名誉教授のコメントおよび報告者の応答

石田眞名誉教授は、フランスで判例法理が「同一処遇」へ拡張した点を評価し、同原則がすでに「同一労働同一処遇」へ転化したと言えるかロキエク教授へ問いかけられました。また、名古屋自動車学校事件等に見られる労働者側の過重な立証負担を挙げ、「同一処遇」の制定法への明文化と立証責任の使用者側転換を求める立法論を提唱されました。
ロキエク教授は、処遇全般への拡張(同一処遇への転化)を肯定された上で、その理論的根拠として使用者の「権力(pouvoir)」への統制を挙げられました。雇用関係において権力を行使する以上、客観的説明責任を課す同一待遇原則は処遇全般に及ぶ必然的な帰結であると説明されました。
島田教授は、労働者側の立証負担の重さに関する問題意識を共有し、推定規定の導入を含め同一処遇の明文化や立証責任転換を将来の立法論として検討する意義を認められました。
2.水町勇一郎教授のコメントおよび報告者の応答

水町勇一郎教授は、日仏両国が待遇の性質・目的に応じた実態審査という構造を共有し、無期フルタイム間の格差を認めた判例(東北映像事件・仙台高判令和7年9月11日)に見られるように日本でも原則の一般化が進んでいると指摘されました。一方で、産業別協約を欠く日本独自の法理として、差異に応じた比例的給付を行う「均衡待遇原則」の意義を説き、フランスでの比例的救済の可能性と、日本企業での原則の浸透度について質問されました。
ロキエク教授は、産業別協約がない日本だからこそ個人の権利として同原則の重要性が一層高まると回答し、フランスに「均衡待遇」の明文概念はないものの、説明責任を通じた実質的な是正が行われていると説明されました。
島田教授は、裁判上の解釈論だけでは限界があり、企業内の労使コミュニケーションを通じて自社の待遇体系の目的・性質を確認し、均等・均衡待遇を自主的に具現化する仕組みが不可欠であると強調されました。
本講演会は、日仏の法制度および判例法理の対比を通じて、同一労働同一賃金原則が労働法において果たすべき役割と将来像を明らかにする、示唆に富む機会となりました。
(文:野村 春歌 比較法研究所 助手)
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