Institute of Comparative Law早稲田大学 比較法研究所

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【開催報告】シンポジウム「コーポレートガバナンス・コードと会社法制―コードの比較法的検討と会社法への熱意を巡って―」を開催しました。

主催:早稲田大学比較法研究所
共催:早稲田大学産業経営研究所、早稲田大学先端社会科学研究所
早稲田大学≪企業法制と法創造≫総合研究所

 

シンポジウム「コーポレートガバナンス・コードと会社法制

-コードの比較法的検討と会社法への熱意を巡って-」

 

1.趣旨

2015年6月から上場会社に対して「コーポレートガバナンス・コード」(CGコード)が適用されるようになった。CGコードのcomplyを当然視した組織づくりや会社経営のあり方など、専ら実務的な対応が優先されているが、会社法理を中心に据えた法理論的な検証は甚だ不十分であり、議論の対立軸も明らかでないように見える。

そこで、本シンポジウムでは、CGコード先進国である欧州各国の法状況について各国法の専門家から報告をいただき、各国におけるCGコードと会社法制との関係、日本の議論の特色と問題点を検証したい。そのうえで、同じく英国のソフトローとされながら日本でまったく関心が寄せられていない英国テークオーバー・コードについての報告、さらには、一般に公正な会計原則とされる会計規範をソフトローの観点から如何に評価するか、といった問題をも取り上げる。最後に、全体の報告を受けて、報告者全体で議論を行いたい。これには、経済学者として広田真一教授のご参加もいただくこととする。

2.日時・場所

2017年3月18日(土)13時~18時 場所:8号館106教室

3.司会者・報告者・コメンテーター

・司会・挨拶:上村達男・法学学術院教授

第一部 欧州と日本におけるコーポレートガバナンス・コード

・報告1:川島いづみ・社会科学総合学術院教授
イギリスのコーポレートガバナンス・コードと会社法

・報告2:正井章筰・早稲田大学名誉教授・常葉大学法学部教授
ドイツのコーポレートガバナンス・コードと会社法

・報告3:石川真衣・法学学術院助手
フランスのコーポレートガバナンス・コードと会社法

・報告4:若林泰伸・法学学術院教授
日本のコーポレートガバナンス・コードと会社法

第二部 その他のソフトロー

・報告5:渡辺宏之・法学学術院教授
日本がテークオーバー・コードに熱心でないのは何故か

・報告6:尾崎安央・法学学術院教授
会計ルールはソフトローか

第三部 コメント・討論

・経済学からのコメント:広田真一・商学学術院教授
・法律学からのコメント:上村達男・法学学術院教授

 

成果の概要

このシンポジウムでは、2015年6月から上場会社に対して適用されることとなったコーポレートガバナンス・コード(CGコード)について、英・独・仏との比較法や日本のCGコードの問題点の指摘を通じて検討し、さらにCGコードと同じソフトローとしての性格を有する英国テークオーバー・コードについての検討や会計規範のソフトローとしての意義を通じて検討することとした。

第一部

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川島報告では、イギリスのCGコード(UKCGコード)の沿革(1980年代後半からの企業不祥事とCombined Codeの成立)が説明され、上場規則として採用された経緯や、CGコードの内容の会社法制への取り込みなど会社法制との関係が説明された。また、UKCGコードの内容として、主原則・補助原則・コード規程に分けられており、そのうちExplainの対象になるのはコード規程のみであることや主原則を実施していくための説明が必要とされる点で、日本のCGコードのComply or Explainとは異なる点が指摘され、さらにUKCGコードの策定や検証・見直しの責任を負うFRCの法的地位が説明された。その上で、UKCGコードと会社法との関係が説明されたが、イギリスの特徴としては、業務執行組織に関する規定が会社法上原則として存在しないこと、取締役の各種義務については会社法上規定が置かれており、特に172条が重要であること、取締役会についての規定はUKCGコードに置かれており、会社法を補完する構造となっていることなどが指摘された。

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次に、正井報告では、まず、DCGK策定の背景として、「社会的市場経済」政策が採用されている中で、資本市場からの資金調達の必要性が意識され法制整備が図られてきたが、1980年代から1990年代にかけて企業不祥事が多発したこと、UKCGコードの影響、民間のCGコードが契機となって、DCGK政府委員会が設立され、DCGKが策定された経緯が報告された。次いで、DCGK策定の目的(前文①「投資者・顧客・労働者・一般大衆の、ドイツの企業経営への信頼を高め、かつ強固にすることによって、国内外の投資者に「ドイツの立地」を魅力的なものにする」)・機能(コミュニケーション機能、秩序機能)・規制対象(上場会社が規制対象であり、非上場会社にも推奨される)・法的性質(法(Recht)ではなく、遵守は強制されない)について説明があり、さらにDCGKの内容として前文の意義が強調され、企業の存立・持続的な価値創造に配慮する取締役・監査役会の義務を明らかにするものであることなどが指摘された。DCGKの規定に種類としては、株式法の規制の再現、勧告規定(Soll規定)がComply or Explainの対象となること、提案規定(Sollte規定)はComply もExplainも不要であることが説明された。その上で、DCGKと会社法との関係については、ドイツ株式法161条において、上場会社の取締役・監査役会は、毎年「ドイツ・コーポレート・ガバナンス政府委員会」の勧告の遵守、不遵守、不遵守の説明を行うべきこと、ドイツ商法289a条における状況報告書の記載事項として株式法161条に従った説明を行うべきことが規定されており、これらの規定によって制定法との結合が図られていることが説明され、DCGKに違反した場合の法律効果として、上場会社が遵守の説明をしないときやそれが虚偽であったときに、取締役・監査役会の責任解除の株主総会決議が取消の可能性を有する旨が指摘された。

第三に、石川報告では、フランスにおける問題意識として、一方的な決定に基づく法形成の体制からの離脱などフランス独自の事情があることが説明され、フランスにおいては一層制機構における執行と監督のあり方がCGコードの主たる関心であることが紹介された。フランスにおいては、2006年6月14日の欧州委員会指令(2006/46/EC)の国内法化として2008年7月3日の法律第2008-649号の制定により商法典に導入されたこと、他国のCGコードと異なる点として、取引所などの市場規則で取り込まれたわけではないこと、フランスにおいてはコードは任意の準拠対象であり、コードに従わない選択肢も残されている点が指摘された。次に、フランスのCGコードは1種類に限られておらず、AFEP-MEDEFコードが大規模上場会社向けコードとして策定されており、コーポレートガバナンス上級委員会が年次報告書を公表すること、2016年11月の改訂からパブコメを実施するようになったことなどが説明され、大規模上場会社以外の上場会社向けのコードとしてMiddleNextコードがあり、支配株主・多数は株主がいることが多い中小規模上場会社を主たる対象として策定されていること、しかしそうした会社であってもAFEP-MEDEFコードに準拠している会社があることなどが説明され、さらに非上場会社向けコードとしてADAEコードがあることが説明された。その上で、フランスにおけるCGコードの特徴として、規範形成(事前)・規範遵守(事後)に何らかの問題があった場合に、立法による対処の道が閉ざされていないことに加えて、目指された水準に達した段階で立法により対処する事前規制の形としてソフトローが用いられることなどが指摘された。また、CGコードの監視を行う主体としてAMFとコーポレートガバナンス上級委員会の役割の違い(法的根拠、報告書の調査対象など)が説明され、AMFによるソフトローが越権訴訟の対象になる可能性があることなどが明らかにされた。

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第四に、若林報告では、CGコード制定の経緯として、CGコードがアベノミクスの成長戦略の一環であり、憲法改正・財政再建などの重要な政治的課題を解決していくための1つの手段として用いられている可能性があること、アメリカ流ガバナンスの手法とは異なる内容が含まれているが、CGコードの内容としてはアメリカ流ガバナンスに近づけるものが含まれていること、また株主に対する分配圧力という経営判断に関わる事項について、上場規則の名のもとに行政介入的なルールが設定される危険性があることなどが指摘された。また、CGコードの具体的問題として、Comply or Explainのアプローチの効果により事実上強制が働いているものが含まれていること、規則制定者・執行者としての証券取引所の地位が問題となり得ること、CGコードの適用範囲が市場区分によって異なる理由や違反に対する制裁がきわめて軽いことなどが指摘された。株主との対話の促進は、公開会社法要綱案による「株主の随時質問権と会社の回答義務」に相当するものとも考えられるが、「対話」は双方向のコミュニケーションを意味し、また「対話」の中でも「面談」を、主として「機関投資家」との間で行うことを想定していると考えられる点で異なる。経営者報酬については、報酬委員会の構成や報酬コンサルタントの利用について立法的課題があるほか、報酬の内容についての実体的規制や開示規制についても同様であることが指摘された。

第2部

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渡辺報告によれば、日本で英国テークオーバー・コードに対する関心が低い理由としては、英国型(欧州型)企業買収規制への誤解やそれを過度に迂回しようとする論調があるためであると指摘する。また、英国(欧州)型の企業買収規制との比較でよく言及される米国型のテークオーバー規制は法規制上の制約は少ないが、トータルで見た場合には必ずしも実質的な規律付けが緩いわけではないと指摘される。英国テークオーバー・コードの具体的な運用においては、明文のルールに基づかず、テークオーバー・パネルの裁量に基づいて運用されているとの誤解があり、実際には詳細な明文の企業買収ルールを有しているとされる。また、規制の型が日本の企業買収ルールは米国のそれに近いものであるから米国が参考になるとの論調が多いが、表面的な米国模倣に過ぎないと批判する。さらに、英国(欧州)企業買収ルールは過剰規制であり、効率的な企業買収を抑止するとされるが、「支配株主が存在していない状態での買収」では、英国型企業買収ルールの下では、企業価値を高める買収は成功し、企業価値を低める買収は失敗する結果になるという文献を紹介し、日本の株式保有構造に基づいた理論の再構築が必要であると主張された。

 

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次いで、尾崎報告では、ハードローに対するソフトローの意義について述べられ、近時ソフトローが多用されているのは、柔軟な対応をする必要性、立法事実の不存在、立法によるよりも迅速に対応する必要がある場合があるためであり、また、現場主義の要請、商慣習など民間に委ねた場合がよいルールがあるため、ソフトローが用いられると指摘された。また、近時、公権力を背景とした自主ルールが増加しており、それには、行政庁の告示・通達・ガイドライン、行政指導、各種の規格、研究会報告・有識者会議等の報告書といった自主ルールがあるが、こうした自主ルールは、時にハードローに近い機能を有することが指摘される一方、ハードローのような慎重な手続が要求されていないため、その法的正当性についての理論を抽出することは難しく、規範化において政治的恣意が入るおそれがあると指摘された。次いで、会計ルールの高度の専門性から具体的な会計処理の「方法」は会計基準等によらざるを得ないが、法制度の一部に組み込む以上、企業会計の法理論としての正当性・合理的説明が必要とされ、その意味で会計基準の設定は法規範の定立に当たるとされる。そして、商法ないし会社法と会計ルールについての歴史的経緯が述べられ、会社法会計の意義としては情報提供、分配可能額算定や訴訟利用といったものがあるが、分配可能額算定については会社法独自の政策的要素があること、会計監査人制度については、金商法において監査人についての法的規律が欠けていることが指摘された。また金商法会計については、複数の会計基準の選択が許容されており、金商法規範の一部を構成しているが、比較可能性や情報利用者の利便性の観点から、企業会計理論による各基準の適用条件・適用可能企業の明確化の必要性が説かれた。会計基準設定主体の問題については、法規範の形成である以上、立法に代わるものとして一定の条件が必用であり、組織それ自体の条件や手続における慎重なプロセスを要するとされる。最後に、会計ルールは法規範の一部となっているが、現実の機能から見ればソフトローよりもハードローに近いと指摘され、会計情報の作成の「方法」のルールとしては、企業会計の内容の法的意義を常に検証する必要があること、会計ルールについてもComply or Explainが妥当し、デフォルト以外の選択肢が採られた場合には合理性の説明を要するとされ、実質的に遵守することの重要性が強調された。

第3部

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まず広田コメントでは、第一に、CGコードの導入に疑問を持っているが、その前提とされている上場企業のパフォーマンスについては、日本の上場企業の業績を資本効率だけで見ている点が疑問であり、利益の額でみると日本企業のパフォーマンスは必ずしも悪くない。ROEは、内部留保ゆえに分母が膨らみ、分子が増えないと上がらない状態となっている。また、成長戦略については、GDPをあげる方法が不明確であり、GDPのマスはガバナンスによって増やすことができる問題ではないといった指摘がなされた。第二に、CGコードの内容については、日本では低成長を背景としてアメリカ流のガバナンスに近づけることが経済成長につながるという考え方が主張され、アメリカ流の株主主権論者が多いが、アメリカでは家計の半分が株式に投資されているのに対して、日本では家計の5~10%程度しか株式に投資されていないため、株主利益の確保によって家計が必ずしも潤うことにはならない。また、国によって会社の目的に対する考え方が異なっており、アングロサクソンの株主重視の考え方をとる英米では企業の存続年数が短く、アメリカでは上場企業の半分が10年でなくなってしまうけれども、日本などではそうではない。この点に関連して、コードの内容にはステークホルダーとの適切な協働が入っており、それは望ましいことと考えるが、会社法の考え方では株主利益の最大化が目的とされているように見受けられ、この点をどう考えるべきかが各国の会社法ないしCGコードにおいても問われるといったコメントがなされた。

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また、上村コメントでは、株主=合理的経済人といった抽象的な株主像を前提に株主価値最大化といった主張をするべきではなく、生身の人間が会社の株主であり労働者であり消費者でありその他のステークホルダーであるという視点から見ると、株主が会社の主権者であってステークホルダーも大事であるという発想は間違いであるとの指摘や、現在の会社法制は、任意法規中心の会社法の上に会社の選択を許容するCGコードが乗るという構造となっており、会社は選択することに疲れているのであって、会社法改正により区分立法を徹底して行うことが重要であるといった指摘がなされた。

シンポジウムは、各国の会社法やCGコードにおける株主・その他のステークホルダーの位置づけ、効率的市場仮説の評価の仕方、各国におけるソフトローの地位などを巡って活発な議論が行われ、盛会のうちに終了した。

以上

参考
開催概要

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