2020年3月25日
文学部長 草野慶子
教員にとって、長く親しい時間を過ごしてきた卒業生の皆さんに、改めてひとりひとりと向き合いながら学位記をお渡しする、これは1年のうちでもっとも感慨深い瞬間です。今年はそれができません。晴れ姿の皆さんを見たかった。ただ、ぜひともお伝えしたく思います。私にとって学生の皆さんは、常に晴れやかで美しく、たとえ皆さんが悲しみに沈み、その悲しみに私自身胸を痛めているときでさえ、希望としか名づけようのないあたたかさを心身に届けてくれる存在であったことを。こうした貴い思い出をくださった皆さんに心から感謝をしています。
節目の儀式はやはり大切で、ですから今年は、春が終わらない、あるいは始まらない、といった気持ちを私たちは抱きます。けれどもこの、いわば宙ぶらりんの状況は、私たちの生そのものであるようにも思います。生きるということは常に、どこかへの途上、それとも目的をもたない彷徨であり、瞬間ごとの充溢や、あるいはいつの間にか始まっていて終わりも見えない複数の感情、感覚、体験を同時に生きること、つまりはいつ中断されるかわからない果てしなさ、だからです。この春、戸山キャンパスは、別れの儀式という句点を打たずに、私たちの関係を宙ぶらりんにとどめました。皆さんと皆さんの母校の「果てしなさ」はこれからも続くのです。