School of Humanities and Social Sciences早稲田大学 文学部

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「朝鮮古代史:となりの国の歴史を学ぶ」文学部 植田喜兵成智講師(新任教員紹介)

自己紹介

私の専門は朝鮮史です。特に、1000年以上前の古い時代、新羅、高句麗、百済などの王朝が興亡した、いわゆる古代の歴史を中心に研究しています。もしかすると「朝鮮」というと、韓国(大韓民国)ではなく、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)のことを勉強していると勘違いする方がいるかもしれません。私がいう「朝鮮」は、あくまでも歴史的に朝鮮半島に存在してきた国家、社会、人々に対する呼び方として用いています。

少し堅い話から入ってしまいましたが、かならずしも早稲田大学入学当初から朝鮮史をやろうと思っていたわけではありません。たしかに歴史や韓国のこと、あるいは文化人類学や言語学などなど、当時の私は、興味の関心が定まらない状況でした。なので、興味のある授業には片っ端から出てみることにしました。ずいぶんと無茶なことをしたものですが、今にして思えば、そのときに勉強した知識は役に立っていると思います。ほかにもバイトやサークルにいそしんでいました。とりわけサークルでは狂言研究会に所属して、実際にプロの能楽師狂言方の野村万之介先生に師事しておりました。一時はずいぶん入れ込んでおり、生活の大半を狂言に費やしていたこともありました。

「学生時代の活動」※狂言「昆布売」の大名に扮する筆者

そういう意味で文学部の1年生は専門的なコースの進級前ですから、学生のみなさんは、ぜひとも早いうちから少しでも興味をもったことに関して、いろいろなことを体験し、見聞してもらいたいと思います。

そんなこんなで色々なことに手を出してみたのですが、最終的に一番関心のあった朝鮮と歴史を専門にすることとなり、学部・大学院の指導教授の李成市先生のもとで本格的に朝鮮古代史を研究することとなりました。

 

私の専門分野、ここが面白い!

ところで、なぜ朝鮮古代史を勉強しようとしたのか、と親族や知人からよく質問されることがあります。その質問の答えの一つが隣国の歴史を学ぶことで、異なる視点から考える機会を得られるということです。

たとえば、日本史の重要な事件として663年にあった白村江の戦いというものがあります。高校まで日本の教育課程を経た方ならば、おおむねその事件のことを知っていると思います。この戦争は、日本と百済の連合軍が唐と新羅の連合軍に敗北したもので、日本は朝鮮半島での影響力を失い、その後、律令体制を築くなど国家体制の転換をはかった契機とされます。ですから、日本の歴史にとっては非常に重大な事件として記述されます。

『三国史記』新羅本紀(部分) 白村江の戦いを伝える新羅側の記録

しかし、一方で朝鮮の視点、ここでは新羅の視点で考えてみてはどうでしょうか。実は、新羅にとって白村江の戦いはそれほど重要なものではなかったのです。日本側の記録『日本書紀』には白村江の戦いとその前後の過程について極めて詳細に書かれているものの、新羅側の記録である『三国史記』にはたった60文字ほどしかありません。

 

 

 

 

 

 

 

新羅はこのあと高句麗との戦争、唐との戦争を控えており、これらの戦争を経て、いわゆる三国統一(朝鮮半島統一)を達成します。それゆえ、白村江の戦いは、あくまでも新羅の統一過程の一コマに過ぎず、日本ほどには重要な事件とは考えていないようです。

このように、新羅と日本では同じ戦争であっても認識が異なり、当然、史料の描き方も異なっているわけです。同じ事件によっても史料によって異なる書き方になっていることを把握することは、歴史学の基本であり、王道でもあります。そういう意味で、日本と密接な関係のある朝鮮史を学ぶことは、自分の常識や当たり前だと思っていた出来事を考え直させてくれます。

また古代史には新たな史料を見つけ出す楽しみもあります。古代という時代は、検討の対象となる歴史資料が少ないです。だからこそ、出土資料と呼ばれる新たに発見された史料を活用することがあります。こうした史料には過去の研究では見落とされていたもの、知られていなかったものがあります。

私は、これまでの研究で、朝鮮半島ではなく、中国で発見された、朝鮮に関係する墓誌という史料を活用してきました。一般的にこれらは、亡くなった人の業績を記したもので、お墓に一緒に埋められるものです。従来、中国で発見された史料は、中国史の記録として活用されるのが普通だったのですが、なかには朝鮮半島から移住した人の墓誌や、中国から新羅に派遣された軍人や外交官の墓誌がありまして、これらを活用すると朝鮮古代史の新たな事実などが浮び上ってきます。最近では中国の博物館にもあふれるほどの墓誌が発見されています。

「墓誌調査の様子1 中国・千唐誌齊」

「墓誌調査の様子2 中国・龍門博物館」

そういう意味で、朝鮮史はまさしくアジア史というフィールドのなかにあって、広い地域のなかで史料を見出し、研究することになるわけです。

朝鮮史は、自分の常識や先入観に気づく・克服するという点で、非常に貴重な視点を提供してくれます。そして古代史は、けっして古い決まり切った出来事を覚えるような時代ではなく、新たな歴史資料をも活用しながら最新の研究を行っているのです。ぜひみなさんも魅力ある朝鮮古代史の世界に触れてみてください。

 

プロフィール

うえだ きへいなりちか。1986年東京都生まれ。東京都立大学附属高等学校卒業。早稲田大学第一文学東洋史学専修卒業後、同大学大学院文学研究科東洋史学コース修士課程修了、博士後期課程単位取得退学。博士(文学)。

日本学術振興会・特別研究員(DC2)、韓国・ソウル大学校国史学科および同大学校韓国学研究センター奎章閣に留学。学習院大学東洋文化研究所・助教を経て2023年4月より現職。

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