School of Culture, Media and Society早稲田大学 文化構想学部

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「〈大衆〉が求める物語の構造――何を、どのように、誰に向かって語るのか?」文化構想学部 小松史生子教授(新任教員紹介)

自己紹介

私は日本近現代文学における大衆文学および大衆文化の研究者で、卒業論文・修士論文・博士論文とも、テーマは江戸川乱歩でした。

江戸川乱歩旧居後跡記念碑(名古屋市栄):記念碑建立実行委員として名古屋の偉人としての乱歩の功績を顕彰。
文学と風土の関係性も重要な研究テーマです。

30年前は、まだまだ江戸川乱歩、ひいては探偵小説で国文学の学位を取ることは珍しい時代で、私も博士課程は国文学系から総合文化研究系に移籍して研究を続けることになりました。メディアミックスが激しく、軽々とメディアをまたいで伝播・展開していくミステリ・ジャンルを研究するには、総合文化研究という場こそ適していたからです。この経験が就職してからも役立ち、文学と地域を結ぶ数々のイベント企画の立ち上げやジャーナリズムとのスムースな連携を可能にしてくれたと考えています。

2021年に火災で焼失した三重県鳥羽市の江戸川乱歩館の復興に尽力。
23年に復興が適った乱歩館の記念フォーラムに登壇しました。

大衆文学や大衆文化という言葉が意味する内実は、特に現代社会の文化コンテンツにおいては非常に定義が曖昧で、かつて文壇に存在した〈純文学/大衆文学〉という区分けも、もはや今を生きる皆さんにとってはアナクロニズムな感覚となっているかもしれません。

とはいえ、それでも皆さんはなんとなく、「これは高尚な芸術作品」「こちらはエンターテインメントに振り切った作品」といったような類別をしてしまうことが多々あるのではないでしょうか。そして、その類別を促す価値判断は、たいてい自分の内部からというよりも世間一般に流通している価値の尺度に従ってなされてしまっているのではないでしょうか。もしそうだとすれば、芸術の価値を決定する主体は、はたして自分なのか他者なのか――こうした疑問が、私の研究のモチベーションの基盤をなしています。

 

私の専門分野、ここが面白い!

私が思春期を迎えた70年代半ば~80年代は、日本のポップカルチャー・コンテンツが充実し、急速なメディアの発展・普及もあって、いわゆるオタク文化が注目され始めた時期で、マス・コミュニケーションの力が芸術文化の価値判断の傾向を決定する流れが顕著になってきた時代でした。私も学部生時代、マンガ研究サークル(いわゆる漫研)に所属して毎年コミケに参加していたものです。急速なポップカルチャー・コンテンツの波及力は、既存の芸術価値の尺度を根本から問い直すエネルギーを持っていました。換言すると、芸術を価値づける権威性への疑義のまなざしです。特に、私が中心的な研究領域としているミステリは、既存の文壇の芸術尺度とは別の価値体系を作り出したジャンルと言えます。過去のミステリ作品が扱ったトリックを常に意識しているという点は、まるでコミケで売買される二次創作の生産過程を思わせるようなところがあります。その作家や作品のファン共同体が形成されやすいという特徴も同様です。つまり、作品を生み出す過程で「何を、どのように、誰に向かって書くのか?」が恒常的に意識されるジャンルで、その意味では「作家の孤高性」や「芸術のオリジナル性」への単純な信奉に疑義を呈していると言えましょう。

大衆文学・文化を研究するということは、過去・現在・未来の各時代における自分自身を含めた〈大衆〉の欲望の形を、欲望される物語ロマンの構造から抽出し、私達が生きるこの現実を突き動かしているエネルギーの方向性を見極めることに繋がります。誰もが物語ロマンを追い求める――そのエネルギーの行方を探す学問的トラベルに出発してみませんか?

2022年6月、巣鴨のジオラマ専門店「さかつう」で開催されたジオラマ展に、
「怪人二十面相の夢」と題して乱歩作品をイメージしたジオラマを出品しました。

 

プロフィール

こまつ しょうこ。1972年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。博士(学術)。金城学院大学文学部教授を経て、2024年4月より現職。主著に『乱歩と名古屋――地方都市モダニズムと探偵小説原風景』(風媒社、2007年)、『探偵小説のペルソナ 奇想と異常心理の言語態』(双文社出版、2015年)。共編著に『〈怪異〉とナショナリズム』(青弓社、2021年)、『〈怪異〉とミステリ――近代日本文学は何を「謎」としてきたか』(青弓社、2022年)など。

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