早稲田大学文学学術院教授(国際日本文化論プログラム設立準備委員長)
安藤 文人
文化人類学者のフランツ・ボアスは、誰も現実をありのままに捉えることはできないし、また他人と同じように認識することもない、という事実を、「文化メガネ」という比喩を用いて説明しました。つまり、私たちは誰もが自分の生まれ育った文化によって作られた「メガネ」をかけ、それを通して物を見ている。なお悪い事には、そのようなメガネをかけていることにもたいてい気づかない。わたしたちはよく、文化を異にする人々が、自分たちの文化についてあれこれ言うのを「誤解」だとか「偏見」だとか決めつけがちですが、しかしそのような判断の根拠である自文化に対する見方自体、自らの「文化メガネ」によって歪められているかもしれない、ということには思いが至らないのが普通だということです。
「国際日本文化論プログラム」の目的のひとつは、この「文化メガネ」を自分たちがかけているのだ、という自覚を高めることにあります。そのために、さまざまな文化に対する見方、考え方に触れ、さらにはお互いに異なる文化観をぶつけ合うことができるような学習・研究環境を用意しました。このプログラムでは日本の文化の「中で」育った学生ともっぱら「外で」育った学生が共に学びます。その中で、それぞれのモノの見方の違いを知り、そしてその差異を見つめる、そして考える。その体験を通じて日本文化についての見方をひろげ、深めていき、さらには自らの日本文化観を構築していくことを目指します。「文化メガネ」は外せないかもしれません。しかし、それを越えてモノを見る力を養ってほしいと強く願っています。
[略歴]
安藤 文人(あんどう ふみひと)
早稲田大学文学学術院教授(国際日本文化論プログラム設立準備委員長)
1980年早稲田大学第一文学部卒業、都立高校教員を経て1984年大学院文学研究科修士課程修了、博士課程中退。現在文学学術院教授。1998-2000年ケンブリッジ大学客員研究員(ペンブルック・コレッジ)。専門は比較文学。特に夏目漱石作品における英文学の影響について研究している。
ウェブサイト
英語学位取得プログラム「国際日本文化論プログラム」については、こちらをご参照ください。