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能は観客の魂に訴えかける芸能。能の魅力を世界へ発信
英語能は初めて能を観る人も十分に楽しめる
Fri 06 Jun 25
英語能は初めて能を観る人も十分に楽しめる
Fri 06 Jun 25
本学とUCLAとの共同連携事業である柳井イニシアティブは、2025年8月6日~9日にかけて、シアター能楽による英語能連続公演:『オッペンハイマー』/『青い月のメンフィス』を開催します。
本公演は、昨年7月の「英語能『青い月のメンフィス(Blue Moon Over Memphis)』公演」の好評を受けて再演されるもので、同作品のほか、英語能『オッペンハイマー(Oppenheimer)』を加え、喜多能楽堂にて上演されます。
これに先立つ6月2日、本公演についてのメディア発表会が、会場となる喜多能楽堂にて行われました。
会見では、シアター能楽のリチャード・エマート氏、ジョン・オグルビー氏、喜多流能楽師の松井彬氏、および柳井イニシアティブディレクターであるマイケル・エメリックUCLA/本学教授、十重田裕一本学教授により、本公演の趣旨や概要等についての説明がありました。
公演開催について

エメリック教授
「昨年、大隈記念講堂と京都・金剛能楽堂で大きな反響をいただいたシアター能楽の英語能を、今回は連続公演という形で皆さまにお届けできることを嬉しく思う」と述べました。また、英語能は初めて能を観る人も十分に楽しめるものであり、現代を生きる私たちにも普遍的に通じる重要なテーマも感じ取ってもらえるのではないか、と本公演の意義について語りました。
再演される『青い月のメンフィス』は、エルヴィス・プレスリーの熱烈なファンであるジュディが、命日に彼の墓を訪れ、青い月の光に導かれてエルヴィスの亡霊に出会う──という作品。謡にはエルヴィスのヒットナンバーが巧みに織り込まれ、エルヴィスをモデルに作られた能面や、デニム素材を使った装束なども見どころのひとつです。
また、新作英語能である『オッペンハイマー』は、原子爆弾の開発者であるロバート・オッペンハイマーの苦悩と悔悟を、禅の公案集に重ねて描きます。戦後80年の今年、この作品を広島・長崎への原爆投下の日である8月6日・9日に上演することについてエメリック教授は、「能の舞台では、観客が舞台を〈目撃〉することで、その場で起きた出来事を共有し、ある種の責任を担うことにつながる。今回『オッペンハイマー』の上演がひとつの祈りとなり、私たちもまた、今この時代を生きる者として、世界への責任を持つことを再認識する機会となるのでは」と述べました。
リチャード・エマート氏
シアター能楽は、能楽の魅力を世界中に伝えることを目的に2000年に活動を開始し、アメリカを中心に、イギリス、スウェーデンなど各国からメンバーが集まります。
両作品の作曲・作調を行ったシアター能楽のエマート氏は、「英語能とは、英語でうたわれ、かつ能の訓練を受けた者が演じ、そして能の形式にのっとった音楽で構成されているもの」といいます。だからこそ、シアター能楽の英語能は、「能」の一形態として、一般的な能の愛好者が観ても違和感のない仕上がりとなっています。
また現在では、英語能だけではなく、フランス語能やスペイン語能にも活動の幅を広げています。

ジョン・オグルビー氏
同劇団のオグルビー氏は『青い月のメンフィス』について、「エルヴィス・プレスリーといえば華やかなイメージがあるが、この作品はエルヴィスの孤独を描いている。表の華やかさとは対照的に、エルヴィスが内面に抱えていた寂しさを伝えたい」といいます。
この作品で使われるエルヴィスをモデルとした能面は、能面師の北澤秀太氏によるもの。同氏とシアター能楽が長い時間をかけて一緒に作り上げました。そのほか、装束や中啓などの道具類も工夫がこらされています。オグルビー氏は、「シアター能楽は、能に用いられる道具を作っている人々も含め、能の世界全体を応援していきたい」と話します。
松井彬氏
長年シアター能楽で英語能の演出に関わる喜多流能楽師の松井氏は、「当初は英語能というジャンルがここまで大成するとは思ってもいなかった。それが、ここ喜多能楽堂で連続公演が行えるまでになるとは非常に感慨深い」と述べました。「たとえばオペラ『カルメン』が日本語で上演されても、オペラであることは変わらない。同様に、能が英語で演じられても能であることは変わらないはず。能の魅力を世界に広めていくためには、言語によって垣根を作るべきではない。日本の伝統的な能は、なかなか枠を飛び出すことができないが、英語能は世阿弥を軽々と超えてみせている」と英語能の魅力について話しました。
十重田教授
最後に十重田教授が、「能は観客の魂に訴えかける芸能。演者の魅力的な身体と声を通じて、この喜多能楽堂という瞑想的な空間で、死者と生者の饗きあいを多くの方に楽しんでいただきたい」として、会見を締めくくりました。

(左から)
ジョン・オグルビー氏、松井彬氏、リチャード・エマート氏、Michael Emmerich教授 、十重田裕一教授
英語能連続公演:オッペンハイマー/青い月のメンフィスとは
詳細は下記ウェブサイトより。