早稲田小劇場どらま館では、3月2日(水)〜6日(日)にかけて、劇団献身の奥村徹也さんにご提案いただき、早大演劇サークルOBOGの方々を講師に迎えた5つのワークショップを開催します!
『あのとき、私は』は、早稲田大学演劇サークル卒業生に学生時代のお話を伺うインタビュー記事企画です。
今回は、ワークショップ開催にあたり、『あのとき、私は』出張版として、劇団くるめるシアター所属の関口真生さんをインタビュアーに迎え、講師の方々に学生時代やワークショップについてのお話を伺いました。
この記事では、俳優・納葉さん(早稲田大学演劇研究会出身)へのインタビューをご紹介します!
プロフィール
語り手)納葉(おさむよう)
早稲田大学文学部2017年卒業。早稲田大学演劇研究会出身。小・中・高と青春時代の全てをサッカーに捧げる。ポジションは主に左サイドバック。最も憧れた選手は長友佑都。大学入学を機に俳優の道へ進む。大学卒業後、約2年のフリーランス期間を経て劇団献身に所属。現在は俳優事務所ハイエンドにも所属しており、演劇、映像問わず幅広く活動している。
聞き手・文)関口真生(せきぐちまお)
2003年生まれ、東京都出身。早稲田大学文化構想学部1年。劇団くるめるシアター37期。都立総合芸術高校舞台表現科演劇専攻卒。サークルの内外で役者と執筆業を主に活動中。最近の出演歴は青年団若手自主企画vo.87 升味企画『動ける/動けない 言える/言えない』を考えるWS、gekidanU家公演vol.5「TREE」など。気になる団体を公演前にインタビューする企画「演劇団体に突ゲキ!」noteにて随時更新中。行動力と真面目さが取り柄。将来何になるかは分からない。
インタビュー
ーー 初めまして、現在文化構想学部1年で、劇団くるめるシアターの一年代の関口真生です。本日はよろしくお願いします。納葉さんは、普段周りから呼ばれるあだ名、呼び方などはありますか?
納 年上の人には「納ちゃん」、後輩だと「納さん」とか「葉さん」が多いですね。呼びやすい名前なので、どっちでも大丈夫です。
ーー うーん、じゃあ納さんで!私は、サークルの同期にはまおすけって呼ばれてます。
納 じゃあまおすけさん。
ーー えっへへ。(照れ)ありがとうございます。大先輩で、私自身も勉強になることが多いと思うので、興味のままに聞いていけたら思います。まず、事務所のプロフィールを拝見したのですが、小中高とずっとサッカーをやっていたんですね。
納 そうです。サッカーしかやってなかったってくらいです。当時から体育会系で、体を動かすのが好きでした。
ーー あー、なんか今ピンときました。劇研も体育会系じゃないですか。幼少期からサッカーで体育会系の軸ができてたからやっていけたのか、と!
納 空気感がね。高校出てすぐの時は「空気感が合ってる!」と思いましたよね。そういう空気についていけないと大変ですから。
演劇との出会い
ーー 最初に納さんが役者、演劇に興味を持ったきっかけはなんでしたか?
納 一番最初は、親が家に映画のDVDを揃えてくれていたことです。ちっちゃい頃から映画のメイキングを見るのが凄く好きで、これを作っている人たちが羨ましかったんですよね。いい世界だなと思ってて。だから俳優とかではなくて、「映画っていいな」が始まりです。
そのままずっとサッカーをしてたんですが、早稲田大学に入学するのが決まった時に、サッカーは散々やったな、と。サッカー選手には絶対ならないしサッカー関連の仕事も考えたけど、せっかく早稲田大学に入って色んな選択肢があるから違うことをした方がいいなとは思っていて。そこで小学校の頃の記憶も影響して映像や表現に興味が湧き、いろんなサークルの芝居を見てたら演劇研究会がすごくキラキラ見えて、ちょっとやってみようかなっていう感じで入りました。
ーー 幼少期に見ていた映画などが影響して、大学に入ってそれが蘇ってきたって感じですかね。なら映画研究会などではなく、どうして演劇を選んだのでしょう。
納 早稲田大学では映画というよりは演劇が有名なイメージがあったからかもしれないです。映画系はあまり考えなかったですね。
ーー その時点で映画や演劇をつくる側より、役者の方に興味があったのですか?
納 そうだと思います。
ーー 私も劇研のお試し稽古に行ったんですけど、私は文化系なんで刺激が強すぎて(笑)劇研入ってる人みんな尊敬してるんですよ。
納 私も今年の新人試演会は観ました。男性陣みんなバッキバキでしたよね!!今年はみんな引き締まってる。
ーー ほんっとにそうです。あれ見ちゃうと私大丈夫かしらってなります。
演劇研究会について
ーー 実際に劇研に入ってみてどうでしたか。楽しかった、辛かったなど思い出があれば是非。
納 波瀾万丈でしたね。
1年生の頃は本当にがむしゃらに新人稽古を乗り越えて、試演会もきついなか頑張った、偉かったという記憶があります。けど、その後どの劇団に所属するのかを考えたり、色々あって組織として動くのが面倒くさいのかもって思って辞めてるんですよね。「組織」というものの大変さを教えてくれました。大学やサークルって結構そうじゃないですか。書類を大学に提出したりとか、予算とか。自分たちが大人として色々学んでいく中で大変だなーって思いましたね。まあ演劇研究会は組織力が強いので色々感じたけど、本当に大切な人たちに出会えました。
ーー 私は「色々」の部分が気になってしまいました。「どの劇団に所属するのか」っていうのは、こっちに入ったら良い、悪いみたいな派閥があったんですか。
納 そう、ちょっとした政治なんですよね。
実を言うと、新歓公演で観て私が入りたいと思ってた劇団が1年の終わりに解散しちゃったんですよ。でも演劇研究会ってサークル内の劇団に入ってないと居続けられないような空気があって、まだ頑張りたかったからもう一つの方に入りました。でも最初からこっちに入るって言ってた子の方が良い役で使われる。それが辛くなって辞めました。でも、新人担当(エチューダー)を3年生でやったんですよ。それでやることはやったかなって。今では良い思い出です。
ーー エチューダーやったんですね!
納 そうなんです。言っちゃえば黒歴史です!新人からたった2年後に神のように指示するって(笑)偉そうなこと言うけどまだ若いし自分のことも全然わかってないし。素敵な方々に出会えたのでやってよかったんですけど。大変でした。
ーー 先ほど組織で動くことの大変さを学んだとおっしゃっていましたが、劇研に入って演技以外で得られたこと、学べた点はありましたか?
納 人の責任は取れないってことや、何事も感情で動いてるんだなとかは感じました。自分の正しいだけでは回らないんだなって。
私、当時はシャイっていうか発言にすごい気を遣っちゃってて。サークルは中高の時より一緒に過ごす時間も長いし、より複雑なことをやっているから、組織の中でのコミュニケーションは大事だなと思いました。
ーー なるほど。周りの人を見ると、劇研が学生生活に入り込んできて学業との両立が大変そうですが、納さんはどうでしたか。
納 ちゃんと4年で卒業しました。まあ文学部は出席してればなんとかなった。でも授業で寝てたし、卒論の時には「あなたは夢があって大学にいる意味がないから卒業させるけど…」って言われたりして(笑)真面目な学生とは言えないですよね。
ーー 文学部の演劇映像コースですか?
納 そうです。演劇と映像がその時一番興味のあるものだったんですよね。
卒業後の選択、変化
ーー 大学卒業の際、進路選択に迷いましたか?
納 サッカーを10年近く続けたあとパッと違うことをやれたのが自分の中で大きくて。
演劇を始めたのが18歳で、大学3年のやっと面白さがわかってきた頃にはもう進路の判断が迫られるじゃないですか。会社員をやりながら演劇を続けている方もいらっしゃるんですけど、私は不器用なのでどっちも疎かになるだろうなと思っていました。それで、理解がある恵まれた家だったのもあって、演劇とか俳優だけでやらせてもらう判断をしました。3年じゃまだわからないって言う気持ちが大きかったです。
ーー 大学3年生の時点で、卒業後も役者を続けていこうと決めたんですね。
納 エチューダーは、時間が取られるから迷ったけどこの先も役者をやるんだから時間を割いてやってみようって思ったのがきっかけなんです。
ーー 卒業後も役者を続けていく決断って人生の岐路というか、大きなものだったと思います。その決断をしたくてもできない人は沢山いますし。サッカーで培ったものかもしれませんが、その決断力は凄いなあと感じました。では実際に卒業してから、どういう経緯を踏んで今に至るのかお聞きしてもいいですか?
納 組織が嫌だ!っていって飛び出したけど事務所も劇団も組織なので、しばらくはフリーでいろんな小劇場のオーディションを受けていました。自分で言うのもあれですけど面白い劇団にたくさん出させていただいて。人との出会いはすごく恵まれているなと感じます。
そうやって活動して行くなかで、自分一人で動くよりも、自分が組織の一部としてやった仕事が誰かの未来に繋がる方が喜びが大きいと気がつきました。それまで私は人に助けられてやってきたので、今度は自分が誰かの役に立てれば嬉しいと思ったんですよね。自分一人でできることって少ないなって思ったのがここ2、3年で。
映像の世界で人と関わりたくて事務所に入ったり、劇団献身にも入ったり。運良くコロナ前に良い出会いができたので良かったです。
そのおかげで、俳優としての仕事が広がりバイトの数もグッと減りました。
ーー 劇研にいた頃は「組織って嫌だ!」という考えだったのが、ご自身の自信や経験を誰かに貢献できるようになってから人と関わることの楽しさに気がついた、と…。演劇の特性上一人じゃできないですもんね。
納 そうなんですよ。でも当時は一人でできると思ってました。人とコミュニケーションが取れなくて公演でつまずいたことも何回もあります。今は悩みもかなりオープンになりました。
ーー 昔と今で演劇に対する考え方が変わった部分はありますか?
納 そうですねー、でも原点の面白さは変わってないんですよずっと。俳優、演劇、映画は本当に面白い世界だなって。その抽象的な思いがモチベーションとしてあって、その上で自分個人の成長によって作り手側の思いが分かったり知識が増えると共にどんどん面白くなっていきました。視野が広がっていきます。例えば、今まで知らなかった人へのアプローチの仕方や感情が自分のものとして刻まれていくと、作品を見たときに見えるものが違う。そこは自分の成長を感じ、作品や俳優という仕事がどんどん面白くなる瞬間でもあります。いいこと尽くしです。生きれば生きるほど楽しくなる芸術だなって思いました。
ーー 演技面でも、作品を見るっていう面でもそうですよね。役について考える時は人生の経験を積んでいるほど役に対する解像度も高くなっていきますし…演劇の勉強するっていうのは、「人生において経験を積む」ことに近いですよね。
納 全て還元されますからね。楽しい仕事だと思います。
舞台と映像の違い、変わらないもの
ーー 納さんは最近では映像作品にも出演されているじゃないですか。役者として映像作品と舞台を比較した時に、心構えや考え方など異なる点はありますか。
納 根本的なやるべきことは同じなんですけど、出力が違いますね。最初に衝撃を受けたのは、「映像において伝えるのは俳優の仕事じゃなくてカメラの仕事だから」って言われて今でもそれはそうだなって。舞台って伝えるのは俳優の仕事でしかないので。舞台は目の前の相手を意識しながら、舞台上だけで完結せずにお客さんも巻き込んでいく。それが面白さですよね。
でも映像ってなるとカメラが伝えてくれる。編集もあるし監督もいるので、役者のやることは「そこにいる事」っていう気がします。その違いを役者として意識をした方がいいだろうなって最近考えてますね。
ーー 納さんは映像に出てみたいという気持ちはずっと持っていたんですか。
納 そうですね。原点が映画なので。映画の世界の広がり方ってのも絶対体験してみたいと思ってました。
ーー 私は演劇と映像の演技の仕方って全然違うものだと思ってて。質感も違うし、作品に対して役者の持つ役割が演劇より少ないですよね。納さんはそこを両立しているのが新鮮でした。先ほど、根本的にやることは変わらないとおっしゃっていましたがその根本的な部分とはどのようなものでしょうか。
納 これは今回のワークショップに通ずることなんですけど、私は演技のスタジオに通っていて、そこで最初に「演技とは想像上の世界で真実に生きること」っていう風に言われるんですね。想像上の世界っていうのは自分の人生と違う創作の世界ってことです。真実に生きるっていうのはとっても難しいです。でも真実に生きることは映像でも舞台でも全く一緒だと思うんです。
舞台だと感情を観客に向けて吐露したりします。一方で、映像だとマイクでしか拾えない声を漏らしたりする。でも真実に発せられた言葉を探求するのは両方共通してますよね。
ーー 真実に生きるというのは、表面上じゃない「役」について深く掘り下げてその人として生きるってことですか。
納 そうです。最終的に役を演じる時は、「自分の人生」として全部のセリフを喋らないといけません。自分とは違う想像上の世界の話を、全て自分の人生として喋るっていうのが役者の仕事なんですよね。
ーー 真実であり、役者の種であり、一番難しい部分ですね。
納 うん、面白い。
OBOGワークショップについて
ーー ワークショップについてお聞きしたいのですが、実際にこの「想像上の世界で真実に生きる」ことをどのように扱おうと考えていますか。
納 私もまだ勉強中で考えている最中なのですが…
その人の人生を生きるのはとても難しいので、それよりも先にある「自分の衝動に素直に従えるかどうか」ということならワークショップの時間でみんなと共有できるかなあと。
みんな社会性の中で生きてるじゃないですか。例えば男性は泣いちゃダメ、女性はおしとやかに、とか。そういう感情も筋肉と一緒で使っていないと使えなくなってきます。なので事前に聞いた参加者の好きな漫画のワンシーンとかをやってみようと考えています。怒りとか悲しみとか嬉しいとか、その感情にどれだけ従えるかを一緒にやりたいです。
ーー 漫画、面白いですね!ちょっと感情がオーバーに書かれているからやりやすそう。感情を素直に舞台上に出すということは、演劇をやってない人にも勉強になると思います。どうしても周りの目線やプライドから自分の感情が隠れてしまう場面も多いですが、そこの事情を一旦置いといて原点を取り戻すワークショップになりそうですね。
納 そうしたいです。
ーー このワークショップは今早稲田演劇をしている学生に向けられたものですが、もし「納さんのように卒業後も役者を続けたいのですが勇気が出ないです」という相談をされたらどんな風に答えますか。
納 役者になるっていうのは人を楽しませる、魅力的に感じるような人になっていくことですよね。それを選んでいる時点で自分のやりたいことを貫いているので、とても素敵な俳優、役者になる素質があると思う。人生一回きりでいつ死ぬかわからないし、やりたいことをやってていいんじゃないかな。自分の納得できる自分であれば素敵な人生だからすごく応援するし、一緒に頑張りましょう。私も頑張ります。
ーー 泣いちゃいますよー!そんなこと言われたら!私も、役者ほど目指して損はない職業はないと思っています。というのも、オールマイティになんでも役に立つし、人間力に直接繋がっているからです。役者の勉強って演技は5%くらいで、残りの95%は普段の生活が影響するものだと感じます。だからこそおっしゃることにとても共感しました。
最後になりますが、このワークショップに参加してくれる人や、参加を検討している人に向けて何かメッセージをお願いします。
納 3時間、ただただ良い時間になればいいなと思っています。私も努力するし、皆さんも楽しんでくれたら嬉しいです。よろしくお願いします!
インタビュー後記
納さん、貴重なお時間をいただきありがとうございました!演劇研究会での「政治」、卒業後の組織に対する考え方の変化など、大変興味深く聞いておりました。サッカーで培ったであろう判断力や懐に飛び込む勇気、経験を積んでも驕らず常に基礎を意識する仕事ぶりが、納さんにたくさんの出会いを恵んだのだと思います。
真実に生きるという難しい技を「面白い」と断言できる姿勢から、俳優業への誇りが伺えて刺激になりました。映像でも舞台でも、納さんのご活躍を近いうちに拝見したいと思います。ワークショップ当日はよろしくお願いします!(関口)