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第三回(2011年度) 早稲田大学坪内逍遙大賞選考委員会

award03_img01【委員長】
高井有一 (小説家)

【副委員長】
石原千秋 (早稲田大学教育・総合科学学術院教授)
大川繁樹 (株式会社文藝春秋 文藝局第一文藝部長)

【選考委員】
小田島恒志 (早稲田大学文学学術院教授)
巽孝之 (慶応義塾大学文学部教授)
沼野充義 (東京大学文学部教授)
松田哲夫 (大正大学客員教授)

実施スケジュール

受賞者

award03_img02【大賞】:野田 秀樹 (のだ・ひでき)

1955年、長崎県生まれ。劇作家・演出家・役者。東京芸術劇場芸術監督、多摩美術大学教授。 東京大学在学中に劇団夢の遊眠社を結成し、数々の名作を生み出す。92年、夢の遊眠社解散後、ロンドンに留学。帰国後の93年に企画製作会社NODA・ MAPを設立。以後も『キル』『パンドラの鐘』『オイル』『赤鬼』『THE BEE』『THE DIVER』『パイパー』『ザ・キャラクター』『南へ』など次々と話題作を発表。中村勘三郎丈と組んで歌舞伎『野田版 研辰の討たれ』『野田版 鼠小僧』『野田版 愛陀姫』の脚本・演出も手掛ける。演劇界の旗手として国内外を問わず、精力的な活動を展開。2009年10月、名誉大英勲章OBE受勲。2009年度朝日 賞受賞。2011年6月、紫綬褒章受章。

【野田 秀樹氏授賞理由】

野田秀樹氏は、現代社会を舞台上に劇化するにあたり、単に社会に内在する問題を提起するに留まらず、日本の古典文学やギリシャ神話など多様な世界観を織り込み、知的にもヴィジュアル的にも豊かな、また、独特の言葉遊びやスピーディな動きを特徴とするエンターテインメント性にも富んだ作品を次々に発表し、常に高い評価を得てきた。さらに、1987年に『野獣降臨』がエジンバラ国際芸術祭で高評価を得て以来、英国演劇界とのコラボレーションにおいても高い成果を上げ続けるなど、国際的にも活躍しており、坪内逍遙大賞に相応しいと判断し、大賞と決定した。

award03_img03【奨励賞】:円城 塔  (えんじょう・とう)

1972年生まれ。北海道出身。作家。東北大学理工学部卒業。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。主な著書に『Self-Reference Engine』、『オブ・ザ・ベースボール』(文学界新人賞)、『烏有此譚』(野間文芸新人賞)、『これはペンです』  ※2012年1月17日第146回芥川賞受賞(候補作『道化師の蝶』)

【円城 塔氏授賞理由】

円城塔氏は、該博な自然科学の専門的知識と、幅広い文学的素養に支えられた独創的な小説の世界を創り出しつつある。その作風はしばしば極めて難解と評されるが、SF、ファンタジー、メタフィクション、哲学的思考実験などの様々な領域を自由に探索しながら、この数年の間に思弁小説(スペキュラティヴ・フィクション)の未踏の分野を切り拓いてきた筆力には目覚ましいものがある。『鳥有此譚』『道化師の蝶』『これはペンです』などの作品は、小説の新たな可能性を示すものとして読者を十分に驚かせたが、この才能はこれからどこに突き進んでいくのだろうか。今後のさらなる展開に大いに期待したい。

授賞者記者発表

10月3日午後4時に大隈会館において、授賞者発表記者会見が開かれました。高井有一委員長、副委員長の大川繁樹氏、石原千秋氏、沼野充義選考委員、 小田島恒志選考委員が出席し、多数の報道関係者が集まりました。

第三回早稲田大学坪内逍遙大賞授賞式(2011年11月16日)

【授賞式 受賞者挨拶】

【大賞】:野田 秀樹 (のだ・ひでき)さん

第三回早稲田大学坪内逍遙大賞、誠にありがとうございます。
賞をいただき、こころより感謝をしております。
どのくらい心から感謝をしているかというと、本日私はスーツを新調してまいりました。 こういうことを世間では「言わないことを言う」と申します。私は若いころから言わなでいいことを言う人間でありまして、ずっとそれで生きてきました。本来そのような人間は賞などいただいてはいけないのですが、いい星のめぐりあわせに生きたのかこのようにいただくことになりました。

第三回というのは新しい数字ですが、なんといっても一番最後にある「坪内逍遙」という名前は遠く明治時代の近代の文学、演劇の黎明期の名前ですから、最初にこの賞をいただけると聞いた時に、ずいぶん長いこと逍遙のことを考えていなかったと思いました。 そして自分の正直な「坪内逍遙史」という歴史を語りますと、なぜか私のような戦後のだめな教育を受けた人間には「二葉亭四迷」とペアになっています。それで『小説神髄』とか、そういうことは全部出てくるのですが、逍遙について何をどれだけ知っているだろうかと考えた時に、今時の若い人たちはすぐにウィキペディアをみるのでしょうが、私はウィキペディアにあるような文章に責任を持たない人間の言葉が嫌いな最後の世代です。それで、読みませんでした。だから今、私が語る坪内逍遙というのは、自分の中で勝手作られたものです。そもそも「二葉亭四迷」から始まってしまうのですが、小学校の時に父親が「二葉亭四迷という小説家の名前は二葉亭四迷の親父が、小説家になると言った二葉亭四迷に、お前なんかくたばってしめえ」と言われたのを四迷が小説家になったときにそれを名前にした、という有名な話しですが、それを聞いた時に子供心に非常に面白い人だなと思い、二葉亭四迷の名前が刻まれました。そうこうしているうちに「坪内逍遙」と「二葉亭四迷」がいっしょになって自分の頭の中にずっと入ってきました。十代の時に自分が思っていた世界、近代文学、演劇が改良されたというその時代に、まさか自分が入っていくとは当時思っておりませんでした。坪内逍遙史はその後突然、蜷川幸雄さんの「ハムレット」という芝居で、蜷川さんが坪内逍遙訳を使いまして、それを見に行ったときに、驚いたことにその言葉が非常に面白かったのです。

芝居は面白くなかったので、途中で帰ってしまいました。それが私の坪内逍遙史の最後だったような気がします。そして突然、ここに現れました。ただ、島村抱月、松井須磨子、このあたりが関連しているのはなんとなくわかります。混乱しているのは、松井須磨子が誰を後追い自殺したかということなのですが、たぶん、島村抱月です。坪内逍遙ではありません。ここまでは本題ではありません。実は私は今、新作を書いていて「らしさ」という言葉にこだわっています。「男らしさ」とか「日本人らしさ」とかいう言葉にこだわっています。この「早稲田大学坪内逍遙大賞」というのは、おそらく早稲田大学が下さる早稲田大学の精神、「早稲田大学らしさ」を持っている人間に与える、つまり坪内逍遙というのは最も早稲田大学らしい人間なのだろう。そこから坪内逍遙を考えますと、早稲田大学の精神、「早稲田らしさ」と言うのはいったい何なのだろうかということに行きつきました。

たぶん、近代改良とか、そのような話しになっていますが、早稲田大学らしい賞である 坪内逍遙大賞を私に下さるというのは、自分にどこか早稲田大学らしい「隙」があるのだと考えました。自分の早稲田大学らしい隙というのは、今に始まったことではありませんで、私ごとですが高校で演劇を始めた時に東大を受験すると言ったら、周りの友達全員が「やめろ。お前は早稲田大学が向いている。」と言われました。その当時、どういうことなのか深く考えていなっかたのですが、おそらく、友人からすれば「演劇というものは早稲田だ」というイメージがあったのかもしれません。同時にうちの高校はかなりの進学校でありましたから、一人でもライバルを蹴落とすために「おまえは早稲田に行け」と言ったのかもしれません。自分の早稲田大学らしさから考えると、今日このように坪内逍遙大賞をいただけるのは、実は意外にスムーズなことだなと思います。ただその自分の早稲田らしさの媒体になったものが、実は坪内逍遙であったということに気づかずに今日まで生きてきたということです。坪内逍遙が持っている精神というのが、とても大きな精神だとしたら、私がそこにちょっと引っかかるということなのでしょうが、どのようなものかと考えましたら、恐らく明治のあの時代というのは、突然、近代と同時に西洋が入り込んできて、そこと日本の知識人は懸命に闘った。その中で彼らは「日本らしさ」なのか、それが何なのかわかりませんが、そこをどう言うふうにして、作りあげようとしたのか、そこが自分の坪内逍遙的早稲田らしさに繋がっていくのだろうと思います。私などは今、やっと西洋の演劇の仲間たちと語ったり、ものを作ることに向き合える入口に、この年齢になってからやっと入口というのも奇妙な話しですが、そういう場所に立つことができて、余計、明治期の近代というものの黎明期に苦労した先人達の思いというのは、自分なりに少しずつ解ってきたような感じでいます。

そういう時に忘れていた坪内逍遙という名前の賞をいただいて、本当にありがたく思っております。ながながと取り留めもなく、言わなくてもいいことを申し上げました。 どうもありがとうございました。

【奨励賞】:円城 塔(えんじょう・とう)さん

このたびは栄誉ある賞をいただきまして、たいへん感謝しております。どのくらい感謝しているかと言いますと、このスーツを昨日買いました。というのも一昨日、帰国しましていろいろ持って歩けなかったからです。そのような訳で、いささか朦朧としております。スピーチがたいへん苦手でして、とんでもないほどに苦手でして、格好がつかないので、読み上げさせていただきます。

このたびは第三回早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞というたいへん栄誉ある賞をいただき本当にありがとうございました。文学史上、写実主義の祖としてまとめられている坪内逍遙ですが、その名前を冠する賞をいただけるというお知らせをいただきまして、その時の感想として、大丈夫だろうかというものでした。

と申しますのは、私が書いているものはよくわからないと言われます。これは写実主義には普通はない感想でして、私の作品は前衛小説とか、メタフィクションとか言われたりしていることが多いので、この賞をいただいてもいいのかと戸惑ったところがあります。さらには私の出自としまして、SFの分野と純文学の分野で同時にデビューさせていただいた経緯がありまして、写実を離れて科学的空想を書く人物と見做されているだろうなという自覚がありました。一方でこれにはもちろん書き手としての内面とは多少食い違うところがありまして、当人としては単純にジャンルがどうという話しではなく、自分が小説と思うもの、あるいは単に見たままを書いているだけのことに過ぎない。確かに科学的用法を用いたりはするのですが、実際のところ、私たちの生活にはすでにテクノロジーがもう抜きようもなく、しかもかつてない規模で骨がらみに入り込んでしまっていて、現代社会を写実とまではいかなくとも舞台に据えて描写を行おうとする場合に、もうテクノロジーは避けては通れないものになっている。普通に書いてしまえば、SFといわれるようなものになってしまうのではないかと言う実感は持っています。

私はそれほど時代に意識的な書き手ではないのですけれども、坪内逍遙の時代で大きく異なると思うのは、描写を行う際に使うことのできる単語の区分がだいぶ変わってしまったなというのは実感しています。たとえば、洋酒、洋モク、水道管とか、ガス灯、電信柱、自動車とかいうのは、すでに文学的雰囲気といいますか、文章の中での用い方がある程度決まっているというか、使うことができるという気がします。

これが携帯電話とかいう辺りになると文学的には若干怪しげになってきまして、サーバのクラウド化など言い出しますと、それだけでSFと見えてしまう人にはSFであるという現実があります。車の部品の名称を文学的に用いることはたぶんできるのですが、文中に例えば「IPv6プロトコル」という単語が出てきたとき、それは文学ではなく、国際暴力小説か、情報エンターテインメント小説のように見えてしまって、その単語を使うことで文学性がはぎとられていくという不思議な力が単語にはあるような気がしています。単語の使い方と先ほどの「IPv6プロトコル」みたいな現実に使われている技術とのかい離というのは、いつ頃生じたのだろうとか、もしくは昔からあって何も変わっていないのではないか、という問題は少々大きすぎてうまく考えることができないのですが、情報技術に顕著な目にみえないものという扱難さと、目に見えないのにそこに確実にあるものというのは、とても厄介です。目に見えないものを写実せよ、と言うのはほとんど実存とからみあったようなよくわからない問題ですが、見えない、感じられないけれども確かに存在しているはずのものを描写するには形式しかない、と言い切ってしまうのもまた先走りすぎでして、人間の心のなかもあるのかないのか、わからないものを間接的な表出から推測してやってきているわけです。これはもう言うまでもなく、小説というものの大きな主題であるわけです。そうして見ると事態の質というものは、あまり変わっていないような気がして、ただし、量的には変化していて私たちには描写しようとして適切な扱いが解らないものがどんどん増え続けている、というような実感があります。

いかにして何をどうやって書くか、という問いを始めたひとりである坪内逍遙の名前を冠する賞をいただけたのは、たいへん嬉しいことで、主におかしな事をやり続けていると見做されることの多い私としては「そのまま、もっと派手にやってみろ。」と背中を押していただいた形と受け止めています。坪内逍遙大賞はまだ三回ということですが、以前の授賞者の方々のお名前を拝見すると積極的なと言いますか、たいへん戦闘的な賞であると認識しております。私のところで腰砕けとならないように坪内逍遙大賞がよりおかしな、しかし、とても正気な賞と見做されていくためにも、今後とも精進してまいりたいと思います。 本日は本当にありがとうございました。


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