Waseda Weekly早稲田ウィークリー

特集

学生の理解を第一に 創意工夫と試行錯誤で作る教員のオンライン授業

コロナ禍で、早稲田大学の2020年度春学期の授業は、全てオンライン対応を余儀なくされました。秋学期は一部対面授業が再開されたものの、多くの授業は引き続きオンラインで実施されています。春学期の『早稲田ウィークリー』で特集した、学生スタッフや留学生のオンライン授業レポート。学生たちのリアルな声は、読者から大きな反響がありました。では、教員たちにとってのオンライン授業はどうだったのでしょうか? 今回は、理工学術院の森本章倫教授、文学学術院の新井浩子講師、政治経済学術院の遠矢浩規教授の3名の先生方に、授業の準備や工夫、オンライン授業で発見したことなどを伺いました。

質疑応答の時間を長めに。習熟度をはかる試験問題も工夫

理工学術院 教授 森本 章倫(もりもと・あきのり)

1964年、山口県生まれ。早稲田大学理工学部土木工学科卒業。マサチューセッツ工科大学(MIT)研究員、宇都宮大学助教授、教授などを経て、現在、早稲田大学理工学術院教授。博士(工学)、技術士(建設部門)。日本都市計画学会副会長を務めている。人口減少、超高齢化、地球環境問題など多くの都市問題を抱える中で、持続可能な都市を形成するために必要な“交通と都市の相互関係”を学ぶ授業「交通まちづくり」で、2019年度秋学期「早稲田大学ティーチングアワード」受賞。

春学期の授業が全面オンラインと決まったときの感想を聞かせてください。また、授業が始まって大変だったことは何でしょうか。

コロナの感染状況や社会的な混乱を考えれば、オンラインにする判断は当然と言えます。むしろ、他大学に先駆けて「早稲田は全てオンラインで」と決めていただいたことは、心構えや準備の面でとても良かったと評価しています。その一方で、学科主任として、対応が大変になるだろうと覚悟しましたね。

授業については、これまで何十年と対面で、学生の反応を見ながら進めてきたわけです。顔が見えればうなずき方一つ、目線一つで内容が届いたかどうかを把握できます。興味がなさそうだと感じれば、話題を変えたり、余談を挟んだりと、工夫のしどころがありました。そういったこれまでの経験値を生かせないのはやはり厳しかったですね。画面に向かって話すとどうしても単調になってしまうので、その部分は特に気を付け、できるだけ対面の授業に近づけるよう努力しました。

オンライン授業を続ける中で、改善してきたことや成果について教えてください。

大きく変えたのは90分の使い方です。90分の授業を丸々、私が話すだけでは聞く側がつらい。学生は他のオンライン授業も受けているわけですし、集中力も続きません。

そこで、動画は最初の45〜50分にまとめ、残りは録画せずに質疑応答の時間にしています。質疑応答の時間は話も脱線するし、外ではあまり言えないような話題も、「SNSには上げないでくださいね」と断りを入れながら(笑)触れています。また、学生にも可能な限り画面に顔を出してもらい、できるだけ距離を縮めてディスカッションをするようにしています。そうしたことで、学生たちもこの時間のために準備をしてくれるようになり、授業の内容により突っ込んだ話をしてくれる学生が増えました。質問のレベルも上がってきていると感じています。

研究室で動画を作成

今後に向けての課題はどのようなことでしょうか。

課題は、やはり習熟度をどうはかるか、ということです。オンラインでの試験は、カンニング対策など検討すべき点が多いからです。

対策として、春学期は50分の試験時間に対して、参考書を見ながら解くと2、3分かかるが、頭の中で理解していれば1分で解ける問題を50問出しました。さらに、学生同士で解答を共有できないように、数日かけて100問以上の問題を作成し、学生ごとにランダムに出題するといった方策を取りました。

授業も試験も、準備や労力はこれまでの何倍もかかりますが、学生がコロナ禍で苦労している中、教員も努力や工夫が必要だということです。アンケートなどで、特に新入生が精神的にも大変な思いをしていると知り、ヒアリングの時間を設けるといったこともしてきました。また、学生はオンライン授業になって課題漬けで大変だ、という話もよく聞くので、私の授業では、最後の10分を使って授業に対するコメントを書いてもらうことを課題の代わりにするなど、引き続き改善に努めています。

「以前から出席を丁寧にとる癖があった」と話す森本先生。オンライン授業では最後に簡単な選択問題を出題し、Waseda Moodleで回答してもらうよう工夫。全体的に出席者数は対面のときより増えたそう

学生へのメッセージをお願いします。

私の専門分野は都市計画なのですが、最近、「コロナに対応するため、街や都市はどうあるべきか」といった取材をよく受けます。その都度考えるのは、関東大震災や東日本大震災など、災害のたびに日本の街は強くなってきた、ということです。なぜなら、強くならなければ亡くなった人たちに申し訳が立たない。実際、都市計画の面では、ICTを活用した新しい街づくり(スマートシティ)などが始まっています。学生の皆さんにもこのコロナを契機に、自分たちに何ができるかを考えてほしい。新しい時代に柔軟に対応できる思考能力と対応能力を身に付けてほしいと切に願っています。

「外出自粛期間中は、英語学位プログラムの学生用に英語の教科書の執筆を始めました」

撮影:早稲田ウィークリーレポーター(SJC学生スタッフ
社会科学部 2年 勝部 千穂

共有ドライブの活用で、学生と一緒に新しいゼミスタイルを築き上げて

文学学術院 講師 新井 浩子(あらい・ひろこ)

埼玉県所沢市出身。早稲田大学卒業。博士(教育学)。2006年から2011年まで(公財)日本女性学習財団のスタッフとして、生涯学習講座やワークショップの企画を実施。現在は「人権教育論」のゼミ担当、キャリアデザイン教育のプログラム開発研究などに携わっている。生涯学習の現場で直面している課題を具体的に理解し、生涯学習の発展のためにどのような支援が必要なのか。学生自らがワークショップ学習を体験しながら、理論的な解説や討議を通して考察していく授業「社会教育方法論」で、2018年春学期「早稲田大学ティーチングアワード総長賞」を受賞。家族は夫と高3の娘。「受験生の親として、無事に入試が実施されるのか、ハラハラの日々」だそう。

春学期の授業が「全てオンラインで」と決まって、特に大変だったことは何でしょうか。

そもそも何ができるのかが分からず、「関連用語を学ぶ」ところからのスタートでした。しかも「Waseda Moodle」の本格導入。時期が重なった大変さもありましたね。新しいシステムなので、解決策をどう見つけるかが分からなかったからです。春学期が始まるまでの準備期間のことは、もう思い出したくないほど…。朝から晩までPCに向かって、結局何も解決せず途方に暮れた日も1日や2日ではなかったです。

試行錯誤の末にたどり着いたのは、不明箇所があればネットで調べられる既存のアプリやシステムを使うという方法でした。具体的には、YouTube、Googleフォーム、スプレッドシートなどを活用し、そのリンクをMoodleに貼る。つまり、Moodleを掲示板として使いました。また、教材などはGoogleフォームで作り、授業はZoomで、学生とのやりとりはLINEでと、用途に応じてツールを使い分けました。

授業の準備を進める新井先生

オンラインならではの利点はどういうところでしょうか。

「共有」と「共同」だと思います。この二つがうまくいったのがゼミでした。Zoomのブレイクアウトルームを使えばオンラインでもグループワークが可能ですが、他グループの状況が把握できません。そこで学生に相談したところ、Googleドライブの活用を提案してくれました。回を追うごとに「こうすればいい」といった提案が学生からどんどんあがり、グループワークの議事録や情報共有の方法などが確立していきました。現在は、スプレッドシートにとった議事録で互いの進捗(しんちょく)状況を共有しながら、オンラインとオフラインのハイブリットでフィールドワークに取り組んでいます。オンライン開始当初、私一人で悪戦苦闘していたところから、今は学生と一緒に新しいゼミのスタイルを築き上げている感じです。

ゼミでは、ブレイクアウトルームでの話し合い記録を画面共有しながら、全体で意見交換

講義科目では授業の最後に、その日に学んだことの感想や質問などを「振り返りシート」に記入して提出してもらっていました。この振り返りシートを始め、提出物をオンライン化したことも効果的でした。紙の振り返りシートの場合、内容を保管したい学生は写真を撮るなどの必要がありましたが、Googleフォームには、打ち込んだ内容をコピーして、学生自身のメールに送信される機能があります。これにより手元に提出内容が残っていくので、自分の学習プロセスを把握できますし、レポート作成に活用することも可能です。今後、対面授業が再開しても、振り返りシートはGoogleフォームにしようと考えています。

2020年度秋学期、対面授業再開後のゼミ(文学部教育学コース「教育学演習11」人権教育論)で

今後に向けての課題や、早大生へのメッセージをお願いします。

オンラインに不向きな授業もあるのは確かです。例えば、2018年度にティーチングアワードを受賞した「社会教育方法論」(現・生涯学習支援論)は、ワークショップを体験し、それをもとに話し合う授業です。春学期はさまざまな工夫をして、オンラインで実施しましたが、対面で実施していたときの「驚き」や「楽しさ」が欠けてしまったという印象を受けました。

オンライン授業では「正解」を言おうとする傾向があるようで、冗談や本音、意表を突くような発言を含むディスカッションは難しいのかもしれません。可能なら月に一度でもいいので対面授業を設ける、また、オンライン専用の教科書を作成するなど、さらなる工夫が必要だと実感しています。

オンラインではこれまで以上に相互主体性が求められると思います。教員は提供者、学生は受け手というのではなく、私がゼミで経験したように“共に作り上げていく”。そんな関係こそが、withコロナでも変わらぬ「早稲田らしさ」ではないでしょうか。

「女性・しごと・ライフデザイン」で実施したOG主催のお茶会の様子。オンラインで実施したことにより、地方に住むOGとも久々に再会することができたそう

「入力文字読み上げソフトによる音声」+「フル・アニメーション」で楽しく飽きない授業を提供

政治経済学術院 教授 遠矢 浩規(とおや・ひろき)

1963年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。マサチューセッツ工科大学大学院修士課程修了。慶応義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了。経団連、アジア経済研究所客員研究員、広島大学法学部教授を経て現職。著書『利通暗殺―紀尾井町事件の基礎的研究』。担当授業「国際政治経済学」は、毎年130名近くの学生が受講。国際経済関係が生じる政治的な過程の分析や、国際紛争の背景にある経済的な要因を考えるなど、国際政治学と国際経済学の相互作用についての理論や代表的なモデルを学び、さまざまな問題に当てはめて分析することを目指す。

オンライン授業が決まってどのような準備をされましたか?

私のオンライン授業の特徴は、私自身が全く登場しない「入力文字読み上げソフトによる音声」+「フル・アニメーション」というスタイルにしたことです。

当初は、動画の最初と最後に登場し、本編ではパワーポイントのスライドを画面に映し、説明するといったオンデマンドでの動画配信を考えていました。ところが、テスト作成した45分のパイロット版を見て、完成度の低さに自分自身でがっかりしました。

そこで、「オンデマンド動画」と「対面」は全く別種のコンテンツ、音楽業界で言えば「ライブのコンサート」と「スタジオ・アルバムの制作」ほどの違いがある、という発想で臨むことにし、今のスタイルが生まれました。また、教員にとっては一つのオンライン授業でしかなくても、学生側はいくつものオンライン授業を履修しています。だからこそストレスを減らし、モチベーションを高める工夫が対面以上に必要だと考えました。そこで、「長い動画は作らない」「動きの多い動画にする」「遊びの要素を入れる」「一人ではないと感じさせる」ことを基本ポリシーとしました。

自宅でコンテンツを作成する遠矢先生。「入力文字読み上げソフト」のメリットの一つは、再生スピードの調整機能と相性が良いこと

「基本ポリシー」の具体的な工夫、取り組みを教えてください。

「長い動画は作らない」では、小テーマごとに15~25分の一つの動画にまとめました。その上で、各動画に「小テスト」または「課題」を設定し、小テーマごとの理解の定着を図りました。学生からも「緊張感を保つのにちょうどいい時間」「小テストとセットになっているし、時間的にも見返しやすいので意欲が湧く」と好評でした。

動画で使用した資料の一部。「覇権安定論(※)」を分かりやすく図解したオリジナルの画像。覇権安定論にはさまざまなバリエーションがあるが、オンデマンド授業では、キンドルバーガー、クラズナー、ギルピン、モデルスキーによる4つの異なる覇権安定論について、それぞれ説明

※覇権安定論とは、国際経済秩序(自由貿易体制など)や、国際政治秩序(世界の安全保障など)の安定のためには一つの覇権国の存在が不可欠であるとする議論のこと。

「動きの多い動画にする」では、文字通り動きのある図やグラフを多用しました。言葉(文字)では説明に時間がかかり、理解しにくい内容も、動きのある図やグラフを使うと、言葉より分かりやすくプレゼンテーションすることが可能です。実際、対面の授業で90分かけて説明していた内容のほとんどが、15分の動画2本程度に収まってしまいました。こちらについても「扱う内容は高度なのに、ビデオが分かりやすく、しっかりと理解を深めることができた」などのコメントを、学生から毎回多数もらいました。

「遊びの要素を入れる」「一人ではないと感じさせる」についてですが、オンライン授業の“欠点”として、「余談や授業後の雑談が無い」というのをよく耳にします。そこで、一日中、孤独と不安の中でオンライン授業を受講している学生の姿を思い浮かべながら、「自室にこもって、深夜のラジオ番組を毎週こっそり聴く楽しみのような感じ」を出せないかと考えました。その試みが「Midnight Q&A」という動画の作成です。この「Midnight Q&A」は、アンケートの自由回答欄で寄せられた質問に対して、ラジオのパーソナリティ風に回答していくものです。回答の中にも余談やユーモアを交えつつ、「自作の音楽」に「自作の詩の朗読」をのせたものをオンエアしました。

学生へ配信されている「Midnight Q&A」

学生のアンケートには「元気が出た!」「次回が待ちきれない」といったコメントが多数寄せられましたが、最も印象に残ったのは「この授業を受けているのは自分だけではないと実感できた」というものでした。また、回を重ねるごとに質問内容もどんどんレベルが上がり、その質問を動画で見た学生が刺激を受けて質問する、という好循環も生まれました。

今後に向けてのさらなる課題は何でしょうか?

現状、学生からのアンケートでは好意的な内容が多いと言えますが、オンライン授業黎明(れいめい)期だからこそ、私のスタイルは珍しがられて評価されただけ、とも考えられます。それでも、対面授業の代替物ではない、オンライン授業ならではの一例は提示できたのではないかと思っています。

今、考えているのは、作成したオンデマンド動画の二次的利用です。短い動画に区切って作成したことを利点と捉えれば、「この順番で見ればこんな学びがある」「このテーマを知りたいならばこの順番」というコース設定も可能なはず。全ての履修生が同じ順番で同じ動画を見る必要はないと考えています。

私も春学期の準備をするまでは動画作成は未経験でしたので、今も大変なことはたくさんあります。ただ、忙しい中でも大学の職務とは別に、学生時代からずっと続けている明治維新史研究は、毎日少しずつ継続しています。1日10分でも20分でも好きなことをやると元気が出るし、頭も気分もリフレッシュできて、コンテンツ作りにもいい影響が生まれます。学生の皆さんも、コロナ禍で思うように物事が進まず、また、オンライン授業と課題の山でいつも以上に時間を割かれているかもしれません。そんな状況でも、自分の好きなことに没頭する時間も大切にして、学生生活を過ごしてほしいと思っています。

写真左:書籍や資料が積み上げられた部屋で幕末維新の史料を読む時間は貴重なひととき
写真右:趣味の音楽は「Midnight Q&A」動画作成にも生かされている

取材・文:オグマナオト(2002年、第二文学部卒業)
Twitter:@oguman1977

【次回フォーカス予告】11月30日(月)公開「障がい学生のオンライン授業特集」

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