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開催報告「世界の中の和歌」ー多言語翻訳を通して見る日本文化の受容と変容ー

オンラインワークショップ「世界の中の和歌」ー多言語翻訳を通して見る日本文化の受容と変容ー

  • 日時:2021年9月3日(金)10:00~17:00(JST)
  • 使用言語:日本語、英語、イタリア語、ウクライナ語、韓国語、スロバキア語、タイ語、チェコ語、中国語、ドイツ語、ハンガリー語、フランス語、ロシア語
  • 登壇者:ボラッチ・ダフネ、マイケル・ワトソン、緑川眞知子、イム・チャンス、イーブン美奈子、トムシュー・アダム、黄 夢鴿、フィットレル・アーロン、カーロイ・オルショヤ、飯塚ひろみ、土田久美子(敬称略)
  • 参加者:学生、一般
  • 参加費:無料
  • 開催方式:Zoomでのオンライン開催

このオンライン研究会・ワークショップは、2021年度より早稲田大学高等研究所に所属するフィットレル・アーロン氏と、青山学院大学の土田久美子氏が中心となって企画されました。両氏が運営している日本古典文学多言語翻訳研究会は、既に2020年9月にオンラインによる研究会・ワークショップの1回目を開催しており、好評を得ていました。今回は、同研究会に加え、早稲田大学高等研究所、スーパーグローバル大学創成支援事業 早稲田大学国際日本学拠点も主催に加わりました。当日は、オンラインで延べ50名以上の参加を得る催しとなりました。日本の古典和歌を他の言語に翻訳する際には、それぞれの言語的特徴、文化的背景の違いなどへの考慮が不可欠です。他方、翻訳された各言語の詩歌において、古典和歌の表現方法、詩形、モチーフ等々がいかに再現され、あるいは変容されているのかという点について解明することも重要でしょう。
今回の研究会・ワークショップでは、まずフィットレル・アーロン氏による開会の挨拶ののち、前半(午前の部)で、今なお外国語に(ほとんど)翻訳されていない一首の和歌を各発表者に翻訳してもらい、和歌の翻訳に関するあらたな展望を試みました。その一首とは、『千載和歌集』(巻第五・秋歌下・319番)、「鹿のうたとてよめる」という詞書を有する、法印慈円の「山ざとのあかつきがたのしかのねは夜はのあはれのかぎりなりけり」です。この歌においては、たとえば当時の時間表現、また鹿の鳴き声などといった、日本の古典和歌に特有の文化的要素が見出せます。

各発表者によって、この歌が10の言語に翻訳されました。発表者たちは、もともと解釈の分かれている箇所をどう解したのかということにも適宜ふれつつ、翻訳の目標言語にふさわしい詩形・修辞などをいかに駆使して訳出したか、和歌(短歌)の五・七・五・七・七という五句・三十一音をいかに受けとめ変換したのか、さらには当該歌以外の既成の和歌の翻訳にみられる訳し方をどの程度意識したか、ということなどを縷々説明しました。なお、発表者によっては、同一の言語で複数の訳の例も示されました。

発表後の全体討論では、発表者だけでなく、和歌の研究、および日本古典文学の翻訳などで活躍をつづけている国内外の参加者もふくめて、活発な質疑がくりひろげられました。たとえば、そもそもこの歌の主眼がどこにあるのかという議論が深められるとともに(「かぎりなりけり」の解釈が関わる)、発情期の牡鹿についての訳語選択の問題、「山ざと」の解釈に関わる曖昧さの問題、「あはれ」の多様性などがとりあげられました。

一方、後半(午後の部)では、日本の古典和歌の中でもかなり有名で、既に少なからぬ数の言語に訳されている有名な一首をとりあげ、各発表者にその先行する翻訳について解析してもらいました。とりあげた一首は、『古今和歌集』(巻第十八・雑歌下・933番)、題知らず、詠み人知らずの「世の中はなにか常なるあすか川昨日のふちぞ今日は瀬になる」です。この歌では、飛鳥川という、掛詞ともなる歌枕が用いられています。さらに、世の無常が詠まれている点も、訳出上のポイントとなるでしょう。
とりあげられた10の言語の中には、英語・中国語・ロシア語などのように、複数の翻訳が既になされている場合もありますが、それらもすべて解析の対象とされました。逐語訳もあれば、当該の言語の標準的な詩形にあわせて耳なれた詩へと変換している訳、あるいは音節数をあえて五・七・五・七・七に合わせた訳等々、それぞれの訳者の工夫のしどころなどが次々と示されました。また、注を活用した訳のあり方などに留意する発表もありました。
その後、およそ2時間にわたって全体討論がおこなわれました。まずは、この『古今集』933番歌の「世の中」、「何か常なる」、「あすか川」……という各句についての訳出のあり方について、吟味と検討がなされました。特に、「世の中」に「自然の中」という意味もふくまれるかどうか、「無常観」の翻訳の可能性などが議論されました。さらには、詩歌における音のイメージ、母音の組み合わせに関する問題、音節とアクセントの問題、頭韻・脚韻のあり方、句読点に相当するピリオド・コロンなどの扱い、和歌における人格・人称、さらには詩歌全般におけるわかりにくさを肯定的に受けとめるべきことなど、議論はかなり白熱しました。
その後、きわめて充実した研究情報のWebサイトである「海外平安文学情報」について、フィットレル氏、ならびに同サイトを運営する研究代表者、伊藤鉄也氏(大阪観光大学・大阪大学)からの案内がありました。そして最後に、牽引役の一人、土田久美子氏の挨拶により、このユニークな研究集会は締めくくられました。

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