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「特集 Feature」 Vol.11-4 世界的な文脈で対話する、国際日本学の未来へ(全6回配信)

日本近代文学研究者
十重田裕一(とえだひろかず)/文学学術院 文化構想学部 教授

多角的視点と対話 らせん状に発展する日本文学

1第4回は、ロバート キャンベル先生とのご対談最終回です。世界的な拡がりと他分野との融合を図る日本文学研究の展望について、引き続き、文学学術院 文化構想学部 十重田裕一教授と東京大学大学院 総合文化研究科 ロバート キャンベル教授にお話を伺いました。

(対談日時:2016年4月25日)

 

十重田: 占領期の検閲については、メリーランド大学図書館ゴードン・W・プランゲ文庫に所蔵された資料を調査することで、その実態が明らかになってきます。一つ一つの文献について時代や思想、制度などの考証や推測を重ね、資料を復元していくという、非常に緻密かつ地道な作業を積み上げていく研究です。

私は近代日本文学に研究の主眼を置いていますが、たとえば、映画化された近代日本の文学作品があれば、別の視点では映画研究あるいは歴史研究、もしかしたらその時代の建築研究に寄与する側面もあるかもしれません。そのような多角的な視点を統合した時に、再び近代日本文学への新しい知見が得られ、研究のさらなる進展があるのではないかと考えています。

 

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写真:“The Cambridge History of Japanese Literature”(Edited by:Haruo Shirane, Tomi Suzuki and David Lurie,
Publisher: Cambridge University Press)にて、十重田先生は『72 – Japanese literature and cinema
from the 1910s to the 1950s pp. 692-701』を執筆した(Translated by Thomas Ganbatz)

 

キャンベル: それは1人の研究者だけではできませんし、日本文学を研究するとはどういうことなのかと問われている今、私たちはそのような多角的な視点を統合していくことを進めていかなければいけないと思います。その結果は、必ずしも日本文学にすべてが収斂される必要はなく、様々な分野の研究として巡り、らせん状に発展して他分野の知識として活かされるような研究になっていくのではないかと思います。

十重田: 全くおっしゃるとおりですね。異なる分野の研究者が関わるような、領域を定義できないような研究を進めてみたいですね。一方向からではなく様々な角度から検討を加え、それぞれの考えや見方を共有し、より建設的な見解を導きだしていくことが、日本文学の研究においてさらに必要になっていくと思います。

キャンベル: 近年のインターネットの普及やLCCの台頭などによって、空間に対する人々の感覚が、一世代前とは大きく変わってきています。空間移動自体の面白さが減った分、面倒や苦痛が減りました。また東日本大震災の前後では、文化を整理したり、歴史の中から文化を掬い出して提示したりすることに対する認識が変わったように思います。これらの変化によって、今再び、文化・文芸研究の意義が問われ、いくつかの分野を横断して連携して研究する豊饒なテーマになってきたようになったように思います。

これらの研究成果は、たとえば、コミュニティの再生や都市の開発に活用できるのではないかと考えています。都市空間に文化的な付加価値を与え続けるものとして、文学というものが活かせるのではないか、また、実社会と我々が進めている研究とがどう共振しうるか、ということに関心を持っています。現在東京都の再開発が急ピッチで進んでいますが、一方で歴史的なストーリー、様々な人々が生きた気配が感じられる「風景」を残そうという動きがあるように思います。

コミュニティの高齢化が進み、日本社会がゆるやかな立て直しを標榜する中で、私たちはどのような示唆を与えられるでしょうか。このプロセスは、戦後日本の人文社会学系の学問が最も不得意とする部分ではないかと思います。公共のインフラに関わっていくことに、特に文系の研究者・研究機関は距離をおいてきました。時代や分野の必然もあったかもしれませんが、それをどのように、敢えて申し上げるなら、「修正」していくか、その方策の端緒を開ければと思っています。

十重田: そうですね。たとえば、東京という空間を私たちの研究フィールドである文学がどのように記述してきたのかを、文献・資料すべてをビッグデータとして扱って時空間で立体的に再構成するような、基盤づくりに着手できないかと考えています。従来のように「ある都市空間の中の、ある時代の文学」を見ているだけでは、狭い範囲でしか語れない。私は東京人ですけれども、知っている東京は一部に過ぎません。データとして集めて様々な角度から並べ直してみた時に、自分の予想を裏切るような東京のイメージが出てきても良いのではないかと思います。

異分野の研究者などが各々の視点から調査・分析すると各々の見え方が生まれるでしょう。その違った見方や感覚を共有し、建設的な議論につなげることに意義があると考えています。

キャンベル: これらを実現していくために、様々な研究者の間での対話が必要ですね。

十重田: たとえば、昨年5月にUCLAで“TOKYO TEXTSCAPES”という国際シンポジウムを開催したのも、その一つです。TEXTSCAPESという単語は造語ですが、近代文学の舞台となった東京を描いた文学テクストに様々な方面からアプローチすることで、近代日本の文学について再考しよう、という目的で、キャンベル先生にもご登壇いただきましたね。

今年も8月10~12日の3日間、キャンベル先生と「江戸・東京ワークショップ」という国際ワークショップをUCLAにおいて開催予定です。私たちの地図や写真、資料の使い方などの研究手法を紹介し、また、河竹黙阿弥の歌舞伎作品『小袖曾我薊色縫』(1858年)、永井荷風「すみだ川」(籾山書店、1911年)、川島雄三の監督映画作品『洲崎パラダイス赤信号』(1956年)に登場する隅田川や銀座、浅草、渋谷など多様な土地に関する調査研究結果も共有します。世界を舞台に、江戸・東京に関心がある方々と意見交換することで、今後の新たな発展につながるのではないかと考えています。

 

追加写真

写真:国際ワークショップ「江戸・東京ワークショップ」のポスター

 

本ワークショップは、私たちが海外の学生らにレクチャーする立場ですが、逆に、日本の若い研究者が国際的に活躍できる環境を整えることにも注力しています。2008年には日本語日本文学コースの博士課程学生を対象とするコロンビア大学とのダブルディグリー・プログラムを開始しており、2015年には角田柳作記念国際日本学研究所を開設して、日本文化研究の研究者が交流する場を設け、国際シンポジウムや国際共同研究を企画実施しています。さらに、2018年に予定している5年一貫制博士課程の文学研究科国際日本学コースおよび英語学位プログラムを開設するなどによって、海外から優秀な学生が集えるように改革を進めています。

これらの活動を通して多くの研究者と知り合い、定期的に東京と文学、社会、そして世界との交わりについて考えていきたいと考えています。

 

次回は、上記“TOKYO TEXTSCAPES”を共同開催し「江戸・東京ワークショップ」も共同企画している、UCLAのマイケル エメリック上級准教授との対談です。共同で進めているグローバルな視点でみる日本文学について、また、日米の大学教育についてお話しいただきます。

 

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プロフィール

プロ1ロバート キャンベル(Robert Campbell)
ニューヨーク市生まれ。カリフォルニア大学バークレー校卒業、ハーバード大学大学院東アジア言語文化学科博士課程修了。文学博士。1985年に九州大学文学部研究生として来日後、同学部専任講師、国立・国文学研究資料館助教授、東京大学大学院総合文化研究科助教授を経て、2007年から同教授。専門は江戸から明治時代の日本文学。著書に『ロバート キャンベルの小説家神髄―現代作家6人との対話』(NHK出版、2012年)(NHK出版)、『Jブンガク―英語で出会い、日本語を味わう名作50―』(東京大学出版、2010年)、『漢文小説集』(岩波書店、2005年)、『読むことの力―東大駒場連続講義』(講談社、2004年)、『海外見聞集』(共著、岩波書店、2009年)などがある。テレビでMCやニュース・コメンテーター等をつとめる一方、新聞雑誌連載、書評、ラジオ番組出演など、その深い造詣を活かしてさまざまなメディアで活躍。

 

プロ2十重田 裕一(とえだ ひろかず)
1964年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部(当時)卒業後、同大学院文学研究科日本文学専攻に進学。博士(文学)。大妻女子大学専任講師、早稲田大学助教授を経て2003年から同教授。2015年カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)客員教授、2015・2016年コロンビア大学客員研究員を務める等、海外との連携も精力的に行う。UCLAにて国際シンポジウム「READING PLACE IN EDO & TOKYO」開催等。1994年窪田空穂賞受賞。専門は日本近代文学(新感覚派を中心とするモダニズム文学、日本近代文学とメディア、占領期検閲と文学との相互関連性など)。著書に『岩波茂雄 低く暮らし、高く想ふ』(ミネルヴァ書房、2013年)、『<名作>はつくられる 川端康成とその作品』(NHK出版、2009年)、『検閲・メディア・文学 江戸から戦後まで』(共編著、新曜社、2012年)、『占領期雑誌資料大系 文学編 第1~5巻』(共編著、岩波書店、2009~10年)、『The Cambridge History of Japanese Literature』(分担執筆、Cambridge University Press、2015年)など、解説に横光利一『旅愁 上』(岩波書店、2016年)がある。

 

対談場所

森岡書店銀座店
本対談は、銀座一丁目に建つ鈴木ビル1階の森岡書店銀座店で行われました。「1冊の本を売る書店」をコンセプトに、1週間に1種類の本だけを置き、趣向を凝らした展示を行うという独特のスタイルで営業しており、海外の方も多く来店されます。

プロ3統合

写真:(左)銀座一丁目に建つ森岡書店銀座店の概観、(右)左よりロバート キャンベル先生、十重田裕一先生、森岡書店店長の森岡督行氏

 

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