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新たな領域を切り拓く研究者たち(3)
早稲田大学PI飛躍プログラム 2025年度支援対象者の研究内容
Thu 05 Jun 25
早稲田大学PI飛躍プログラム 2025年度支援対象者の研究内容
Thu 05 Jun 25
新たな領域を切り拓く、気鋭の研究者たち
早稲田大学では、独立した研究室を主宰する研究者(Principal Investigator/以下PI)を支援する「PI飛躍プログラム」を設置しています。4回目となる2025年度の公募では、13名の研究者より申請があり、4名が採択されました。本シリーズでは4回にわたり、普遍的な知や社会的な価値を創造し、未来へと挑みつづける、それぞれの採択者の研究活動を紹介します。
エネルギー資源の価格形成プロセスを
膨大なデータから解き明かす
政治経済学術院 セドン ジャック准教授



政治経済学術院 セドン ジャック准教授 撮影:早稲田キャンパス
政治経済学術院、セドン ジャック准教授の研究課題は「コモディティ価格報告機関の政治経済学」。現在アプローチしているのは、原油や天然ガスの価格形成プロセスだ。
「原油の価格は、PRAと呼ばれる価格報告機関の評価に大きく影響されます。原油取引の最も重要な指標価格には、北米ではWTI、欧州では北海ブレント、アジアではドバイ原油があります。これらの価格がどのように形成され、どのように市場へと影響を及ぼすのかを解明するのが、私の主な研究テーマです」
エネルギーをはじめ広範な産業に関係する原油価格は、世界経済にも多大な影響を及ぼす。また原油自体に金融商品としての側面もあることから、価格は金融市場のトレンドの影響も受けやすい。こうした複雑なメカニズムの中で、指標価格の形成プロセスを理解することが、セドン准教授の研究目標である。
「指標価格は本来、経済やマーケットの動きが直接的に反映されるのが理想。しかし、指標価格の形成プロセスは、それが反映しようとする市場そのものを形作る役割も果たしています。写真において、写し出されるイメージ(つまり指標価格)が、カメラの設計(すなわち指標の算出方法)によって変わるのと似ています」

北海の原油市場と関連企業の分析
PI飛躍プログラムにおいてセドン准教授は、主要PRAの一つであるS&Pグローバル・プラッツ社の指標価格「プラッツドバイ原油」について研究を進める予定だ。
「指標価格の研究では、過去の価格推移、その基準となった情報収集プロセス、値付けと報告の方法など、膨大なデータが必要になります。また、本来は石油会社や金融機関と取引されるPRAの情報は、販売価格も高く、研究目的での入手は困難です。私はこれまでの研究活動でデータの収集方法やネットワークを確立してきましたが、PI飛躍プログラムの資金面のバックアップを活用し、データの総量を大幅に増やしたいと考えています。実現すれば、研究活動を加速させられるでしょう」

セドン准教授が過去数年に遡り研究する『Petroleum Economist』
具体的にセドン准教授は、PI飛躍プログラムの研究促進費を、データへのアクセス、指標価格を利用する関係者への取材、研究成果の発信に充てていくという。
「トレーダーから政府関係者まで、指標価格を利用するユーザーには、情報に対する尺度や視点がさまざまです。そのため、それぞれの関係者へのインタビューを通じて、ニーズを正確に把握することは、価格形成プロセスの理解を深めるのに役立ちます。過去5年間、私はプラッツドバイ原油のレポートを徹底的に研究し、指標価格の進化と価格形成に影響を与える要因を分析してきました。この歴史的な背景に基づき、最近の取引データも解析できれば、長期的な視点から価格形成のメカニズムを明らかにできるはずです」

『Petroleum Economist』には、世界のエネルギーに関する重要な情報が網羅される
セドン准教授の専門は、国際政治経済や経済史だ。原油にとどまらず、さまざまな市場、コモディティを研究することで、世界経済ガバナンスのあり方を探ろうとしている。
「今回の研究プロジェクトの目的の一つが、コモディティ価格形成プロセスの理解です。原油は最も重要なコモディティの一つであり、その価格は私たちの生活に大きな影響を与えます。指標価格の作成方法に完璧な方法は存在しませんが、良い指標価格を生み出す要因を理解することは重要です。最終的には、健全な市場メカニズムの創出に貢献したいと考えています」
PIのニーズに沿った
テーラーメード型の支援プログラム
今回、4名の若手研究者が採択されたPI飛躍プログラムは、早稲田大学が2022年に新設した制度だ。PIの研究内容は独創的であるがゆえに、必要となる支援の形もそれぞれ異なる。それぞれのニーズに対し適切な支援をテーラーメード型で受けられることが、同プログラム最大の特徴といえるだろう。

研究者の成長モデルと本プログラムの位置づけ(イメージ)
(学内の方はこちらへ ⇒ https://waseda-research-portal.jp/research-fund/early-stage-pi/)
プログラムの対象は、博士学位取得後15年以内が原則。採択されると、研究環境整備などに充てることを想定した研究促進費が助成され、他の研究費との相乗効果を発揮できる。また、アドバイザー数名から成るチームにより、国内外の研究ネットワークの拡大、国際共同研究の企画・提案など、さまざまなアドバイスを得ることも可能に。さらに、本学リサーチイノベーションセンター研究戦略セクションURA*による、大型の外部研究資金獲得、産学連携の推進などに向けた伴走支援などサポートも受けられる。
採択された4名の研究者は、今後どのような成果を育んでいくのだろうか。それぞれの活動に期待したい。