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真理の探究に挑む研究者たち

早稲田大学PI飛躍プログラム 2023年度支援対象者の研究内容

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Tue 11 Apr 23

真理の探究に挑む、独創的で気鋭の研究者たち

早稲田大学では、独立した研究室を主宰する研究者(Principal Investigator/以下PI)を支援する「PI飛躍プログラム」を設置しています。2回目となる2023年度の公募では、13名の研究者より申請があり、2名が採択されました。本記事では、普遍的な知や社会的な価値を創造し、未来へと挑みつづける2名の研究活動を紹介します。

 

物質の“表面”という謎多き領域に
構造と物性の両軸でアプローチ

理工学術院 高山あかり准教授

理工学術院 高山あかり准教授 撮影場所:西早稲田キャンパス高山研究室

理工学術院 高山あかり准教授 撮影場所:西早稲田キャンパス高山研究室

1人目の採択者は、理工学術院の高山あかり准教授。物質の持つさまざまな性質を解明する物性物理学の領域で、実験をベースにした研究に尽力してきたPIだ。今回のPI飛躍プログラムでは、「表面物理学」における研究成果が結実した。

「世界中のあらゆる物質を原子レベルで内部から観測すると、美しい周期性が見えてきます。これが結晶であり、前後、左右、上下の方向に配列が広がる3次元構造が特徴です。一方で、結晶は表面部分において2次元となるため、様相は大きく変わります。上下方向の周期の構造は変動的になり、電気的性質や磁気的性質といった物性も複雑になることは、多くの物理学者を悩ませてきました。私の研究課題は、表面における物性と構造、両方を分析することです」

表面物理学は、比較的新しい領域だ。結晶全体に対する表面の割合は小さく、かつ周期性が複雑な表面では、電子をシグナルとして検出することが困難であり、かつては不可解な現象も多かった。

しかし近年、実験装置の性能が向上したことにより、そのメカニズムが徐々に解明されている。さらに人工的に配列を加工する技術も可能になったという。

「人工物のような先端領域では、“構造の解析”と“物性の測定”をセットとして議論する必要があります。物理的な現象が生じた際に原子配列が分かっていなければ、因果関係を追究できないからです。そこで私は、構造解析と物性測定を両立するシステムの開発を進めています」

物理学の研究では研究分野が細分化されていることが多く、特に構造が複雑になる表面の研究分野では構造と物性は異なる研究グループがそれぞれ独立して研究を行うことが多かった。構造研究と物性研究、どちらも多種多様な実験手法からの多角的なアプローチが必要なこともあり、両方を横断・オーバーラップさせることが難しく、各研究成果が融合しない点が課題となっている。構造と物性、二つの領域に知見を持つ高山准教授は、人的なネットワークも生かしながら、両方面から物質理解のアプローチを可能にする研究グループを立ち上げようとしているのだ。

炭素原子が結びついた「グラフェン」をつくり、その上に錫や鉛を乗せることで、物性を測定する実験

炭素原子が結びついた「グラフェン」をつくり、その上に錫や鉛を乗せることで、物性を測定する実験

原子の表面における電子状態などを測定できる、走査型トンネル顕微鏡

原子の表面における電子状態などを測定できる、走査型トンネル顕微鏡

「一つのサンプルを同じ環境下で解析・測定するためには、装置の開発も必要です。ハード面・ソフト面が揃うことで、物理世界のより正確な把握が可能になるでしょう。表面物理学は将来、スピントロニクスをはじめ幅広い分野への応用が期待されています。現在私は磁石を使用せずスピンを制御できる技術も研究しており、20〜30年後、省エネかつハイパフォーマンスを実現する革新的なデバイスの開発に貢献できると考えています」

物理学の先端領域を探究する高山准教授。今回のPI飛躍プログラムへの採択は、どのように研究活動を後押しするのだろうか。

「特殊設備が必要になる実験物理学の領域では、若手研究者が独立し、新たな研究室をつくるのは大変なこと。また、教育や学会、事務手続きなど、研究以外の業務も多く、実験に専念できる時間は限られてきます。私は運良く研究設備に恵まれ、先輩からも手厚い指導を受けることができました。」

「だからこそ次は、私が次世代の研究人材を育てるべきだと感じています。本業の研究活動と後輩の指導に時間を割くためには、業務をサポートしてくれる人を雇うことも必要です。そのような使途にPI飛躍プログラムを活用し、活動を加速したいと考えています」

PI飛躍プログラムでは、共同研究の企画など、専門チームによるアドバイスを受けることもできる。研究ネットワークの拡大も、PIにとっては大きなテーマだ。

「プログラムを活用し、幅広い専門領域の研究者とのコラボレーションを試みたいです。物理と化学、物理と生物などでは融合が進められてきましたが、これからは文理融合の時代。人文・社会系の知見を借り、物性物理の研究成果をどのように社会に還元していくかを模索したいと考えています」

多くの設備を前任の研究者から譲り受けたという、高山研究室

多くの設備を前任の研究者から譲り受けたという、高山研究室

生命科学に貢献する 
新たな数理モデルの創出へ

理工学術院 早水桃子准教授

理工学術院 早水桃子准教授 撮影場所:西早稲田キャンパス早水研究室<br />

理工学術院 早水桃子准教授 撮影場所:西早稲田キャンパス早水研究室

二人目の採択者は、理工学術院の早水桃子准教授。大学卒業後に臨床医として勤務した後、数学の世界へと踏み込んだという、異色の経歴の持ち主だ。

「生活や社会の根源に関わる基礎研究に憧れていた私は、大学では医学部へと進学。多くのデータ解析に携わった経験から、数理や統計の重要性を早くから実感していました。その後、医療現場に身を置く中で、生命科学の課題解決に根本から貢献したい思いが高まり、データ解析に関する数理の研究者になる道を決意。博士課程1年目では遺伝子発現のデータ解析を研究対象にしていたのですが、生物学や医学の課題の本質を捉えて、数学の問題に落とし込むことに可能性を感じたことが、今日の研究活動につながっています」

早水准教授が専門とするのは「離散数学」だ。生物進化の系統樹や化学構造式などは、点と線で表現されるが、この図式そのものを数学的に解析するのが、離散数学の一分野である「グラフ理論」である。

「山手線を環状路線図で記すように、現実の物事を単純化して抽象的なグラフで表すと、実社会の課題の解決方法をグラフ理論の言葉で数学的に論じられるようになります。生物の進化に関するグラフ理論やアルゴリズムの未解決問題に挑戦することは、私の研究テーマの一つになっています」

今回のPI飛躍プログラムに採択された研究課題は、「細胞系譜を解明する新しい系統解析技術の創出」。早水准教授は、離散数学をはじめとする多様な数理的アプローチで、細胞の分化という生命現象を解明する理論や方法を創り出そうとしているのだ。

「生物の進化は、DNAの塩基配列の変化、つまり文字列の変化によって起こる現象です。一方で細胞の分化は、DNA自体の変化ではなく、DNAにコードされた様々な遺伝子の発現量が一つの細胞の中で変化して起こる現象。生物の系統解析と細胞の系統解析という点では類似していますが、具体的な情報の中身やデータの性質は大きく異なります。そのため、長年研究成果が蓄積されてきた生物進化の系統解析技術を、細胞分化の系統解析にそのまま適用できるわけではありません。それぞれの系統解析課題をつなぐ新しい定理やアルゴリズムを創出することが、私の研究の目標です」

早水准教授が最終的に目指すのは、数理の研究で構築した新しい方法論を、現代医療の様々な課題解決につなげることだという。

数学を深める中で、早水准教授が離散数学に出会うきっかけとなった「系統学」の専門書

数学を深める中で、早水准教授が離散数学に出会うきっかけとなった「系統学」の専門書

離散数学や系統学の基本理論を多くの人に伝える資料。早水准教授は教育やアウトリーチ活動にも注力している

離散数学や系統学の基本理論を多くの人に伝える資料。早水准教授は教育やアウトリーチ活動にも注力している

「例えば、重度火傷患者の治療では、患者自身の幹細胞を皮膚の細胞に分化させて皮膚移植手術が行われますが、幹細胞を皮膚の細胞に速やかに分化させて上質なシートを作成することは難しく、命を落とす方が多いのが現状です。また、日本は高齢化により、近い将来、輸血に必要な血液の総量が献血による供給量を上回る見込みです。そのため、献血に頼らずに輸血用の血液製剤を工業的に製造するような新しい方策が求められています。幹細胞の分化の全体像や、細胞運命を制御するメカニズムの解明は、このような社会的課題の解決に貢献するものです。数理科学・情報科学・統計科学の力で幹細胞の分化の全体像と背後の仕組みを明らかにし、幅広い生命科学領域に包括的に貢献することが、私の使命だと考えています」

数学的な理論の構築と生命科学への応用には、多くの研究者とのコラボレーションが必要になる。国境を超えた共同研究では、旅費をはじめとした費用も必要だ。研究者の経済的課題をPI飛躍プログラムが解消することに、早水准教授は期待を込める。

「公的な研究資金は使途に制約があり、そもそも少子高齢化により目減りしていく可能性も否めません。そこだけに依存することは、日本の研究者にとって得策ではないと考えています。新たな資金調達モデルを開発していくことも、私にとっての一つのテーマ。PI飛躍プログラムの研究促進費を活用しながら、早稲田大学との連携による価値創造にも挑戦していきたいと考えています」

PIのニーズに沿った
テーラーメード型の支援プログラム

今回、2名の若手研究者が採択されたPI飛躍プログラムは、早稲田大学が2022年に新設した制度だ。PIの研究内容は独創的であるがゆえに、必要となる支援の形もそれぞれ異なる。それぞれのニーズに対し適切な支援をテーラーメード型で受けられることが、同プログラム最大の特徴といえるだろう。

研究者の成長モデルと本プログラムの位置づけ(イメージ)

(学内の方はこちらへ⇒https://waseda-research-portal.jp/research-fund/early-stage-pi/

プログラムの対象は、博士学位取得後15年以内が原則。採択されると、研究環境整備などに充てることを想定した研究促進費が助成され、他の研究費との相乗効果を発揮できる。また、アドバイザー数名から成るチームにより、国内外の研究ネットワークの拡大、国際共同研究の企画・提案など、さまざまなアドバイスを得ることも可能に。さらに、本学リサーチイノベーションセンター研究戦略セクションURA*による、大型の外部研究資金獲得、産学連携の推進などに向けた伴走支援などサポートも受けられる。

採択された2名の研究者は、今後どのような成果を育んでいくのだろうか。それぞれの活動に期待したい。

*University Research Administrator:研究者および事務職員とともに、研究資源の導入促進、研究活動の企画・マネジメント、研究成果の活用促進を行って、研究者の研究活動の活性化や研究開発マネジメントの強化を支える業務に従事する人材(拠出:RA協議会WEBサイトhttps://www.rman.jp/ura/)

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