学術雑誌”ACS Applied Materials & Interfaces“に論文として掲載されました。
早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構の酒井求(さかいもとむ)次席研究員(研究院講師)、早稲田大学理工学術院の松方正彦(まつかたまさひこ)教授、ENEOS株式会社の松本隆也(まつもとたかや)首席研究員らの研究グループはMOF (Metal-Organic Framework、金属有機構造体)1)の賦形化技術を開発し、合成した二酸化炭素の吸着に有効であることを示しました。
本研究成果は、学術雑誌”ACS Applied Materials & Interfaces“に論文として掲載されました。
これまでの研究で分かっていたこと
MOFは、金属元素と有機配位子からなる多孔質結晶であり、吸着剤、固体触媒、電極材料等への応用が期待されている材料です。
一般的な手法で合成したMOFは細かな粉体であり、工業的に利用するためには、吸着特性を維持しつつ十分な機械的強度をもつ塊(モノリス)へと成型する必要があります。しかしながら、従来の成型法(バインダーを用いた成型、加圧打錠成型、支持体へのコーティングなど)では性能の低下などの課題がありました。
今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと
本研究では、吸着特性と機械的強度を両立したMOFモノリスを得るための賦形化技術について検討を行いました。
金属酸化物モノリスを有機配位子と無機酸を含む水溶液中で処理することで、MOFモノリスを合成可能であることを見出しました。本手法によって、金属酸化物モノリスの形状と強度を維持したまま、十分な吸着特性を有するMOFモノリスを得ることが発現させることが可能になりました。
そのために新しく開発した手法
α-アルミナ管を硝酸とトリメシン酸を含む水溶液中で加熱することで、MIL-962)と呼ばれるMOFのモノリスを合成しました。合成時の原料比率や加熱温度・時間などを適切に調整することで、高い強度と吸着性能を両立するMOFモノリスの合成が可能になりました。図1に原料であるα-アルミナ管と合成後のMOFモノリスの写真と電子顕微鏡像を示します。写真および電子顕微鏡像から、α-アルミナ管の表面がMIL-96の黄色い結晶でおおわれていることが見て取れます。

図1 α-アルミナモノリス(左)とMOFモノリス(右)の外観と電子顕微鏡像
今回新しく開発した手法は、図2に示す通り、多様な形状を有するモノリスを直接MOFモノリスへと転換することが可能です。

図2 本手法で合成した多様な形状を有するMOFモノリス
研究の波及効果や社会的影響
MOFは、カーボンニュートラル社会実現に必要な二酸化炭素および水素の回収・貯蔵・輸送材料として注目されています。本研究成果は、MOFの工業的な普及への貢献を通して、気候変動対策に役立つことが期待されます。
今後の課題と研究者の見解
本研究では、α-アルミナを原料としたMOFモノリス合成に調製しましたが、今後は多種多様なMOFモノリスを合成可能な技術へと成長させられるよう研究を継続中です。
用語説明
[※1]MOF (Metal-Organic Frameworks、金属有機構造体)
金属と有機配位子が相互に繰り返し結合しネットワーク構造をもつ材料。活性炭やゼオライトをはるかに超える高表面積な細孔形成を実現でき、金属の活性サイトを形成/導入も可能なため、ガス吸着、分離、センサーや触媒など幅広い応用が期待されている材料。
[※2]MIL-96
アルミニウムとトリメシン酸(1,3,5-benzenetricarboxylic acid)から構成され、湿度や温度に対し安定性の高いMOFで、安価な注目の二酸化炭素の吸着材料。
関連資料
論文情報
雑誌名 :ACS Applied Materials & Interfaces
論文名 :One-Pot Synthesis Method of MIL-96 Monolith and Its CO2 Adsorption Performance
執筆者名:Motomu Sakai, Hayata Hori, Takaya Matsumoto, Masahiko Matsukata
掲載URL :https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsami.2c22955
DOI :10.1021/acsami.2c22955