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論文掲載:マイクロ流体デバイスを応用して1 μm〜4 μmの超微小な液滴のみを生成させる技術を開発

マイクロ流体デバイスを応用して1 μm〜4 μmの超微小な液滴のみを生成させる技術を開発

早稲田大学理工学術院の庄子習一(しょうじしゅういち)教授、早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構の田中大器(たなかだいき)次席研究員(研究院講師)らの研究チームは、マイクロ流体デバイス[※1]を応用して1 μm〜4 μmの超微小な液滴のみを生成させる技術を開発し、細胞を模したマイクロビーズをカプセル化することで効率的に1細胞レベルでの分析が可能であることを示しました。

田中大器次席研究員によって発表された研究成果は、学術雑誌”Moleculesに論文として掲載されています。
 

これまでの研究で分かっていたこと

近年、細胞培養や化学合成など幅広い分野で微小液滴(マイクロドロップレット)[※2]が応用されています。例えば、1つの細胞を詳細に分析するためには、細胞1つ1つをマイクロドロップレット内に閉じ込め、カプセル化して、みかけの寸法を大きくして取扱い(ハンドリングと呼びます)をしやすくすると共に、細胞を外乱から守る手法が用いられます。特にバイオ領域で取り扱われる細胞の大きさは通常1 μm(1 μm=1/1000 mm)程度であり、細胞1つを自在にハンドリングする場合、これをカプセル化するために直径1 μm〜4 μmのシングルマイクロドロップレット(S-MD)生成技術が重要になります。従来のS-MDの代表的な生成技術としてチップストリーミング法[※3]が有りますが、S-MD生成過程で大きく内部圧力が変動するためカプセルに内包した細胞が壊れてしまう問題がありました。
本研究では、これらの問題点を解決するためにチップストリーミング法よりも穏和な方法でS-MDの生成が可能な新しいマイクロ流体デバイス(半導体技術を応用した小型な流路の集まり)を開発しました。

今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

今回の研究では、1 μm〜4 μmのS-MDを大量に生成するマイクロ流体デバイスを開発しました(図1(a))。本研究のマイクロ流体デバイスの特徴は、INLETとOUTLETの間に枝状の分岐チャネルを設けることでドロップレットが次々と分割される構造にしたことです。このマイクロ流体デバイスを利用して細胞に模した蛍光マイクロビーズを効率的にカプセル化することに成功しました(図1(b))。流体実験では、マザードロップレット(MD)にランダムに内包されたマイクロビーズが1つ1つS-MD側に分割内包されている様子が確認できます。この実験により1秒間に10〜20個の細胞を1つ1つ効率的にカプセル化できることが示唆されました。

図1. (a)デバイスデザイン (b)蛍光マイクロビーズのカプセル化

そのために新しく開発した手法

本研究では、マイクロドロップレットのテーリング効果[※4]を応用して新しいS-MDの生成デバイスを開発しました。具体的には図2(a)に示すようにメイン流路を流れるMDの後ろ側から延伸されるようにS-MDが効率的に生成し分岐チャネルの下側に分割されます。テーリング効果を発現させるためにはドロップレットの粘性や界面活性剤[※5]の濃度、流量条件などが重要ですが、本研究ではこれらの条件を一つずつ調べることでS-MDが生成するのに適した条件を明らかにしました。図2(b)は界面活性剤の濃度と流体の流速(Continuous flow rate)に対するS-MDの生成個数をグラフ化したものです。界面活性剤の濃度が高くなるに従ってS-MDの生成個数は多くなりますが、S-MDのサイズのばらつきも大きくなります。本実験で明らかとなった流体実験の最適な条件は、流体の流速が10 μL/minかつ界面活性剤の濃度が0.5%でした。

図2. シングルマイクロドロップレットの生成原理と流体実験の結果

研究の波及効果や社会的影響

1つの細胞からDNAを抽出する上で細胞のカプセル化は非常に重要な技術となります。1 μm程度の大きさの細胞を人の手で操作することは困難であり、本研究で開発したS-MD生成デバイスは1つの細胞を自在にハンドリングする上で大変有用であると言えます。化学の分野でも、マイクロドロップレットを用いた合成実験が盛んに研究されていますが、ドロップレットの大きさは100 μm〜200 μmのものが主流となっています。化学反応は反応場のスケールを小さくするほど反応性の向上や反応の特異性が発現することが予想されているため、本研究で開発したデバイスを応用することで新しい化学反応や新規機能性材料の創出につながることも期待されています。

今後の課題と研究者の見解

本研究では水と油を用いてS-MDを生成させましたが、化学合成への応用を考えるとメタノールやクロロホルムなどの有機溶媒のドロップレット化が必須の課題です。化学合成に用いられる有機溶媒は表面張力が小さいものが多くS-MDの生成は困難であると予想されますが、マイクロ流体デバイスのデザインの工夫や界面活性剤の濃度と種類、流体実験のシミュレーションなどを総合的に検討することで実現できると考えています。
シングルマイクロスケールの小さな空間を自在に制御できる技術は生物学や化学の分野をますます発展させる可能性を秘めています。生体内での化学反応はビーカーよりもはるかに小さいシングルマイクロスケールの細胞間で反応が進みます。このような非常に小さな空間での化学反応を理解するためには本研究のような小さな液滴(反応場)を自由自在に制御する技術が非常に重要です。
 

用語説明

[※1]マイクロ流体デバイス
半導体製造技術の一つであるソフトMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を応用して、微小な流路を樹脂(フォトレジスト)などを用いて基板に形成することで、液体もしくは液体中を流れる生成物などの分離、濃縮、反応、解析といった操作をマイクロスケールで行うための小型の装置。

[※2]マイクロドロップレット
マイクロスケールの微小な液滴

[※3]チップストリーミング法
マイクロ流体デバイス中を流れる2つの異なる流体(水、油等)に速度差をつけて引きちぎるようにマイクロドロップレットを生成させる手法。安定したマイクロドロップレットの生成には適しているが、ドロップレットの内圧が変動しやすいデメリットがある。

[※4]テーリング効果
マイクロ流体デバイスを流れるマイクロドロップレットの粘性を調整することでマイクロドロップレットの後ろ側が尻尾のように延伸される効果のこと。

[※5]界面活性剤
界面活性剤とは、分子内に水になじみやすい部分(親水基)と、油になじみやすい部分(親油基)を持つ物質の総称。水の表面張力を低下させる性質を有する。

論文情報

雑誌名 :Molecules
論文名 :Efficient Generation of Microdroplets Using Tail Breakup Induced with Multi-Branch Channels
執筆者名:Daiki Tanaka, Satsuki Kajiya, Seito Shijo, Dong Hyun Yoon, Masahiro Furuya, Yoshito Nozaki, Hiroyuki Fujita, Tetsushi Sekiguchi and Shuichi Shoji
掲載URL :https://www.mdpi.com/1420-3049/26/12/3707
DOI   :10.3390/molecules2612370

研究助成

研究費名:キヤノンメディカルシステムズ
研究課題名:マイクロドロップレットを応用した化学合成に関する研究
研究代表者名(所属機関名):庄子 習一教授(早稲田大学理工学術院)

研究費名:科学研究費助成事業 基盤研究(A)
研究課題名:三次元マイクロ流体デバイスを応用した多重微小界面の構築と機能性化学反応への応用
研究代表者名(所属機関名):庄子 習一教授(早稲田大学理工学術院)

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