Research Organization for Nano & Life Innovation早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構

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シリーズ「未来の早稲田を担う研究者」第15回 武岡 真司 教授

ナノ・ライフ創新研究機構で活躍する研究者を紹介するシリーズ「未来の早稲田を担う研究者」。第15回目は、武岡真司 教授(理工学術院/ナノ・ライフ創新研究機構)です。

この回では、生体分子や医用高分子が集合して構築する分子集合体やナノ構造体の設計から作製、デバイス化まで一貫して行い、医療のみならず、多様な領域へ応用展開することを目指す、武岡教授の研究をご紹介します。
 

「未来の早稲田を担う研究者」第15回 武岡 真司 教授

本インタビューは本学のナノテクノロジー分野の研究者と民間企業との連携を推進する窓口「早稲田大学ナノテクノロジーフォーラム」が制作しました。
 

医用高分子で作製したナノシートの医療応用と新たな展開

 35年前に卒業研究で取り組んだ「孔開き高分子化二分子膜小胞体(リポソーム)の電顕観察と構造制御」を端緒に、リポソームを利用した赤血球代替物や血小板代替物など、人工血液の研究に従事するようになりました。さらに、ナノ粒子に関する研究の過程で得られた知見から、ポリ乳酸などの汎用性医用高分子から自立性薄膜(ナノシート)を簡単に連続で作製できるrole-to-role法を確立し、その応用展開や実用化を目指して多くの産学共同研究を進めています。
 ナノシートは透明で生体組織に密着する性質を持ち、さらに多層化や表面に様々な分子を担持させることにより多様な機能を持たせることができます。マウス実験の段階ですが、例えば、抗生物質を担持させたナノシートを細菌感染している皮膚の傷に貼ると、治癒速度の各段な向上がみられます。最近では、化学的な接着機能を付与したナノシートを、吻合した臓器の縫い目を覆う絆創膏として利用する研究や伸び縮するシリコン製(PDMS)ナノシートの研究も進めています。


 また、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリ(4-スチレンスルホン酸)からなる導電性高分子(PEDOT/PSS)のナノシート電極や、アンテナコイルを導電性インクで印刷したナノシートを用いて、体内でLEDを無線給電で点灯させたり筋電や心電などの生体情報をモニタリングする研究も行っています。前者はがんの光線力学療法への応用、後者は厚みや重量があると影響がでる動作、例えば野球の投球における親指の付け根の筋電情報を正確かつ詳細に分析することができます。実験当初は、ナノシート電極をつないでいるワイヤーが受発信機とともに、投球動作による遠心力で吹っ飛んでしまったため、切り紙構造のエラストマーワイヤーを企業と共同研究することで、計測を実現しました。
 音楽や芸術の分野でも、プロフェッショナルな手のひらや足裏の動作の解析ができるようになるのではないかと期待しています。さらには、お風呂に入っても剥がれない様にもできるので、入浴時の心電図をとることで、ヒートショックの機構解明につながるかもしれません。
 

ライフワークであるリポソームの新展開

 リポソームはある温度でゲル/液晶相転移します。相転移温度を超えると発光する蛍光プローブをリポソームの二分子膜に導入すると、ゲル状態の時には凝集して発光せず、相転移温度(42℃)を超えて液晶状態になり凝集が解けた際に発光する、という特徴を持たせることができます。この特徴を利用して、前立腺がんマーカーであるPSAの検出に挑戦したところ、とても高い検出感度が得られています。熱源プレート上に担持させた抗体でPSAを捕獲し、そこに検出用抗体でサンドイッチさせた上で、温度応答性抗体結合リポソームを混合すると、検出用抗体に結合したリポソームのみ瞬時にプレートの熱が伝わり発光する、という仕組みです。結合していないリポソームは周囲の水と同じタイミングで温められ遅れて発光します。早いタイミングの発光を検出することで、微量なPSAの濃度、すなわち前立腺がんかどうかの判断ができます。マルチプレートの発光のタイミングをハードウェア的に高精度化させようとすると非常に高額な装置が必要になりますので、将来の普及を視野に、画像処理というソフトウェア的な解決を試みています。私たちはこの領域は専門ではありませんので、画像情報工学により宇宙から地上を見る技術(リモートセンシング)を専門にしているグループに協力していただき、共同研究を進めています。さらに、この検出の仕組みを活用して、ウイルスの迅速・高感度な検出もできるのではないかと考えています。


 博士号取得直後から関与してきた人工血液自体の研究も、最近大きな進展がありました。重篤な出血ショックモデル動物において、血小板代替物を投与してまず出血をおさえ、赤血球代替物の投与によって酸素を運搬して生命維持を図るという医工連携の共同研究において、血小板・赤血球輸血と同等の効果が得られました。私の指導教授(土田英俊先生)の永年の研究を受け継がせていただいている弟子の一人として臨床応用に繋ぐ責任を感じています。
 

研究室の使命:開発した技術の継承と、産学連携への期待

 大学における研究の担い手である学生は数年で入れ替わっていきます。研究成果をまとめて実際に論文が世に出るまでにはタイムラグがありますし、論文を世の中に出せば終わりではなく、良い成果ならばそれを社会に還元させるべく次のステージに移行します。すなわち医学部や企業との共同研究や開発です。その時には論文に携わった学生はもういませんし、何年もかかる場合もあります。そこで、研究室としては実験手技やノウハウが途絶えないように維持することを務めています。例えば、「血小板代替物を作ろう週間」を年に数回設けています。何度も改訂を重ねた標準手順書は大事に引き継いできていますが、それでも細かなノウハウの部分を残すことは困難です。学生には、その期間は自身のテーマの実験を一旦中断してもらい、試料作製のための、にわかチームに入って役割を分担してもらいます。初回はたいてい失敗して経済的にも痛いのですが、繰り返すうちに必ず規格に収まり、ノウハウが確実に継承されたと実感できます。この様に研究室の核となる技術を毎年維持しながら、企業や共同研究先に試料を提供し、学生自身も「生体分子集合科学/ナノ医工学研究室(=武岡研究室)」における目玉テーマのモノづくりは一通りできるという自信をもって卒業してゆきます。
 社会実装を見据えて研究を進めているとはいえ、大学の研究室単独でできることは実験結果を分析して論文や特許にするところまでがほとんどです。研究者としてオリジナルな研究成果を論文として世に出すことはとても重要なことですが、より直接的に社会に貢献できる段階まで踏み込んで効率的に研究を進めることが現在の課題です。ですから、異分野や産業界の方々から具体的な用途や実用化に関するフィードバックをいただくことをとても楽しみにそして有難く思っています。近年では企業の方が博士課程に入ることも増えてきており、企業と大学とで線引きをするのではなく、むしろ融合したチームの状態でお互いに刺激をしあいながら基礎と応用の両方を行き来できれば楽しいですね。
 

参考文献

1. Mihara, S., Lee, H. L., & Takeoka, S. (2020). Electrocardiogram measurements in water using poly(3,4-ethylene dioxythiophene):poly(styrene sulfonate) nanosheets waterproofed by polyurethane film. MRS Communications, 10(4), 628-635.
2. Yamagishi, K., Nakanishi, T., Mihara, S., Azuma, M., Takeoka, S., Kanosue, K., Nagami, T., & Fujie, T. (2019). Elastic kirigami patch for electromyographic analysis of the palm muscle during baseball pitching. NPG Asia Materials, 11(1), [80].
3. Yamagishi, K., Kirino, I., Takahashi, I., Amano, H., Takeoka, S., Morimoto, Y., & Fujie, T. (2019). Tissue-adhesive wirelessly powered optoelectronic device for metronomic photodynamic cancer therapy. Nature Biomedical Engineering, 3, 27-36.
4. Hagisawa, K., Kinoshita, M., Takikawa, M., Takeoka, S., Saitoh, D., Seki, S., & Sakai, H. (2019). Combination therapy using fibrinogen γ-chain peptide-coated, ADP-encapsulated liposomes and hemoglobin vesicles for trauma-induced massive hemorrhage in thrombocytopenic rabbits. Transfusion, 59(10), 3186-3196.
5. Hu, R., Sou, K., & Takeoka, S. (2020). A rapid and highly sensitive biomarker detection platform based on a temperature-responsive liposome-linked immunosorbent assay. Scientific Reports, 10(1), [18086].
 

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